ため息がでるほどの職人技
こうしたビスポークプログラムをクルマ作りの領域で支えているのが、ベントレーが誇るウッド部門やレザー部門である。今回も両部門を改めて訪れたが、素材選びのこだわり方や職人たちの磨き抜かれた技に触れては、何度もため息が出た。
たとえば、ベントレーのインテリアに使われるレザーは北欧産の最高級品のみ。寒い土地で育った牛は革が厚く、また蚊などの虫にも刺されないので革に傷が少ないことが、その理由という。しかも、革が丈夫な雄牛のみを用いるというこだわりようだ。
また、ベントレーのレザーは発色がきれいだと常々感心していたが、今回、その謎が解けた。なんと、北欧で産出された革を1度イタリアに持ち込み、そこで染色してからクルーに運んでくるのである。まさに気が遠くなりそうな手間と時間をかけて、ベントレーのシートやステアリングホイールは作り上げられているのだ。
世界中から集められ保管されている銘木
ウッド部門も驚きの連続だった。まず、世界中から集められた銘木は、ストックルームに保管して品質を安定させるのだが、ここに置かれている分だけでおよそ100万ポンド(約1億8500万円)の価値があるという。それらを0.6mmに薄くスライスしてからダッシュボードなどに貼り付けると、今度は職人の手で徹底的に磨き上げられてからラッカーで塗装。さらにポリッシングを行うのである。
現在、ベントレーは製品の電動化を急いでいて、2030年には全モデルが電気自動車(BEV)となる計画を立てている。しかし、たとえパワープラントがエンジンからモーターに置き換わったとしても、マリナーが長年培ってきた伝統の技は、これまでと同じように多くの顧客を魅了し続けることだろう。(文:大谷達也 写真:ベントレーモーターズ )