2010年7月、ダイムラーAGは欧州でCLクラス(3代目)とSクラス(5代目)のパワートレーンを刷新して世界を驚かせた。CLクラスはデビュー4年にして初めてのマイナーチェンジを機に、環境問題への積極的な対応として大胆なパワートレーンを行った。CO2排出量削減はメルセデス・ベンツにとって大きな課題だった。その走りはどうだったのか。今回は発表まもなくフランス・カンヌで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年11月号より)

国際試乗会はドライバビリティが問われるカンヌで開催

ラグジュアリーなハイエンドモデルすらも、環境問題を無視できない時代になってきたということだろうか。いや、違う。こうしたモデルだからこそなお一層、社会の要請にいち早く応える必要があるというべきだろう。話は簡単。これらはブランドの象徴であり、またユーザーも周囲の目を気にしなければならない立場や地位にある人物である可能性がきわめて高いからである。

デビュー4年にしてフェイスリフトを受けるメルセデス・ベンツCLクラスと、こちらは昨年改良が行なわれたSクラスの最新モデルが、パワートレーンを全面刷新する。CL500/S500(日本ではCL550/S550)は従来のV型8気筒5.5Lを、新たにV型8気筒4.7L直噴ツインターボへ。そしてS350も完全新設計のV型6気筒3.5L直噴へと発展させるのだ。これら第3世代スプレーガイデッド直噴システムを採用したエンジンシリーズは〝Blue DIRECT〟テクノロジーと総称される。

国際試乗会が開催されたのは、フランス・カンヌ。周辺の試乗ルートは道幅が狭く、ペースも上がらないところがほとんどで、最初はその意図が理解できなかった。しかし次第にわかってきたのは、これはまさにドライバビリティを試してくれという意味なのだろうということである。

画像: 新しいV8直噴ツインターボエンジンの排気量は4463cc、ボア×ストロークは92.9×86.0mm。従来型が5461ccだから998ccaダウンサイジングに成功、直噴システムは第3世代のスプレーガイデット式ピエゾインジェクターを採用している。

新しいV8直噴ツインターボエンジンの排気量は4463cc、ボア×ストロークは92.9×86.0mm。従来型が5461ccだから998ccaダウンサイジングに成功、直噴システムは第3世代のスプレーガイデット式ピエゾインジェクターを採用している。

燃費・CO2排出量は改善し出力・トルクともにアップ

最初に試したのはCL500ブルーエフィシェンシー。新エンジンは最高出力を従来の388psから435psに、最大トルクを530Nmから700Nmに向上させる一方、EU総合モード燃費を9.5L/100km(約10.5km/L)と約23%向上させ、CO2排出量も288g/kmから224g/kmに削減している。これには補機類やエアコン、パワーステアリングなどの高効率化にスタート/ストップ機能、低転がり抵抗タイヤ、そしてエネルギー節約型ABCなどの効果も含まれる。

果たしてそのフィーリングはと言えば、思ったより大きな変化ではなかったが、それは良い意味での話。確かにトルク感はとりわけ低中速域で高まっていて、軽く踏み込んだ際のピックアップは間違いなく向上している。

しかし、それらは強調されたものとなってはおらず、スムーズで滑らかなメルセデスのV8らしいタッチは変わっていない。人によってはアイドリングストップには気付いても、エンジンが大きく変わったことはわからず、「でも、何かいいよね」とは感じる、ぐらいの違和感のなさと言うことができそうだ。

フェイスリフト自体は軽微なもの。外観はライトまわりやボンネット、グリルの意匠に手が入れられ、これまでより〝男性的〟になった。今のトレンドであるLEDドライビングライトも採用されている。

安全技術、ドライバーアシストも最新のものにアップデートされた。昨年Sクラスで採用された多くの装備に加えて、アクティブレーンキープアシストとアクティブブラインドスポットアシストは、ともにステアリングホイールではなくブレーキ介入によって車線の引き戻しを行うのが特徴の新装備で、これはSクラスにも搭載される。

画像: メルセデス・ベンツ CL500 ブルーエフィシェンシー。エクステリアは大きく変わったというほどでもなく、変更は最小限に留められたが、LEDの採用により精悍さがアップした印象だ。

メルセデス・ベンツ CL500 ブルーエフィシェンシー。エクステリアは大きく変わったというほどでもなく、変更は最小限に留められたが、LEDの採用により精悍さがアップした印象だ。

完全新設計のV6エンジン搭載のS350はやや硬質な印象

S350ブルーエフィシェンシーも最高出力が272sから306psに、最大トルクも350Nmから370Nmに向上。燃費は7.6L/100km(約13.2km/L)、CO22排出量は177g/kmに過ぎない。

出力差を如実に体感できるコースではなかったが、動力性能に不満は感じられなかった。気になったのは、比較的低い回転域でペダル開度が一定でも微妙なトルク変動があること。日本未導入の以前のCGIユニットにもあったが、リーンバーン領域の拡大など相当燃焼を攻めているせいか、ちょっと気になった。

吹け上がりもシャープで、しかもバンク角を60度に改めたせいか回転を高めるほどに滑らかさを増すも、全体に手応えはやや硬質。もう少し暖かみが……とは思うが、EクラスやCクラスに積まれたなら、スポーティと解することもできそうではある。

環境問題は無視できない。しかし一方で、そのために何かを我慢させることが許されないのもハイエンドモデルの性である。その意味で、より高い動力性能とセットで大幅な燃費向上、CO2削減を実現した新しいCLクラス、Sクラスは期待に応える進化を遂げたと言えるだろう。

画像: 完全新設計のV型6気筒3.5L直噴エンジンを搭載するS350 ブルーエフィシェンシー。新しいV6エンジンは従来型に比べ最高出力がプラス34ps、最大トルクがプラス20Nmアップしている。

完全新設計のV型6気筒3.5L直噴エンジンを搭載するS350 ブルーエフィシェンシー。新しいV6エンジンは従来型に比べ最高出力がプラス34ps、最大トルクがプラス20Nmアップしている。

CL550の日本導入は、フェイスリフトされたCL600とともに秋の終わり頃になりそう。ただしスタート/ストップ機能は日本仕様には備わらないという。またS550/S350の新エンジンの日本投入時期は未定とのことだ。(文:島下泰久 )

メルセデス・ベンツ CL500 BlueEFFICIENCY 主要諸元

●全長×全幅×全高:5095×1871×1419mm 
●ホイールベース:2955mm 
●車両重量:2070g 
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:4663cc
●最高出力:320kW(435ps)/5250rpm 
●最大トルク:700Nm/1800-3500rpm 
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:4.9秒
※EU準拠

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