2010年、「ベイビー・ロールス」として開発が進んでいると報じられてきた「ゴースト」が登場し、日本に上陸した。噂どおりボディサイズはファントムよりひと回り小さいが、V12エンジンにはターボが装着されて570psを誇っていた。さて、初代ゴーストとはいったいどんなモデルだったのか。Motor Magazine誌は上陸間もなく試乗テストを行っているので、その時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年12月号より)

ファントムよりも小さいが、エンジンはハイパワー

新生ロールスロイスが、〝ファントムに続いて新たなモデルシリーズの開発に着手〟と発表したのは、2006年秋、パリオートサロンのときだった。ちょうど4年前になる。そのとき明らかになったのは〝このニューモデルは2010年までに販売が開始されること〟と〝価格はファントムより低い20万から30万ユーロに設定される〟ということだけだった。

そして、08年春にオフィシャルのスケッチが公開され、翌2009年3月のジュネーブ国際モーターショーにおいて〝200EX〟という名前で、初めてその姿が明らかにされた。その後、200EXはワールドツアーを行い、世界各地で高い評価を受けて、2009年9月、〝ロールスロイス ゴースト〟として正式デビューするに至った。

さて、〝超高級車〟というのは難しい。何がと言えば、〝常に一番でなければならない〟からだ。それは同じブランドのラインナップの中においても言えることだ。要は〝仮にAというモデルが、Bというモデルの廉価版であったりしてはいけない〟。Bの方が低価格であっても、Aの廉価版であると言われるようではいけない。AもBも一番でなければならないのだ。

そういう前提でゴーストを見ると、その個性がよく理解できる。言うまでもないが、〝ゴーストはファントムの廉価版などではなく、しっかりと別の個性を持っていて、そこではもちろん一番〟というわけだ。

このことを端的に表しているのがパワースペックだ。両車が搭載するV12エンジンの最高出力&トルクは、ファントムが460ps&720Nmであるのに対し、ゴーストは570ps&780Nmと大きな差がある。一方でボディサイズはゴーストの方が全長は440mm短く、全幅は40mm狭く、全高は105mm低く、車重は150kg軽いのだから、運動性能はゴーストが勝っていることは間違いない。

この点がゴーストの個性であり、アピールポイントとなる。要はゴーストは超高級車の中で、ドライバーズカーとして〝一番〟の実力を持つということになるわけだ。そのあたりをロールスロイス・モーターカーズのアジアパシフィック担当マネージャー、ハル・セルディン氏は「ファントムは特別なときのタキシードで、ゴーストは毎日着るビジネススーツ」と説明する。同じ洋服は洋服でもジャンルが違うということだ。

画像: 高級車の教科書通りCピラーに厚みを持たせることで、どっしりと落ち着いた印象を与えているリアビュー。

高級車の教科書通りCピラーに厚みを持たせることで、どっしりと落ち着いた印象を与えているリアビュー。

低回転からあふれるトルクと8速ATでウルトラスムーズ

さて、ゴーストを目の前にして、じっくりとスタイリングを見まわすと、フロントマスクが滑らかな曲面で構成されていることがわかる。直線的でスクエアなファントムとは大きく印象が異なる。そもそもボディサイズもかなり違うので、迫力という点ではファントムの足元に及ばない。ただし、ボディ全体から醸し出される優雅さという点ではファントムに優ると言ってもいいだろう。スタイリングはロールスロイスのアイデンティティをきっちりと守りながら、パーソナルユースにも対応した柔軟さを持ち合わせている。

ドライバーズシートに着くと、ロールスロイスの伝統に基づいた形状のスイッチ類や丸型エアベント、乳白色のメーターパネルなどが目に入る。見るだけで質感の高さは十二分に感じられるが、それらに触れるとさらにその高品質感に驚かされることになる。

また、シート、トリムなどに使われているレザーは色味を統一するため、1台の車両には同時に染められた原皮のみが使われているが、そうしたこだわりが確実にインテリア全体の高品質感の実現に貢献している。

試乗は都心部のごく限られた距離で行ったが、このサイズなら通常走行中に持て余すようなことはないとわかった。片側4車線ある大通りから、1車線の少々狭い道まで、都心部での道でクルマが大きくて不自由ということは一切なかった。問題が生じるとしたら駐車場だろう。タワーパーキングにはもちろん入らないし、平置きの駐車場でも仕切られたスペースが不足することはあるだろう。ただホテルなどでは特別な場所に駐車させてもらえるだろうから、杞憂かも知れない。

走りはきわめてスムーズ。1500rpmから780Mmの最大トルクを発生するV12エンジンと、今や高級車に欠くべからざる存在になったZF社製の8速ATとの組み合わせは〝無敵〟と言える。ストップ&ゴーが多い都市部での運転も楽で、さらに静粛性が高いことは言うまでもない。

また、乗り心地の良さにはエアサスペンションが貢献している。このシステムは後席の乗員が端から端へ移動しただけでも、それに合わせてダンパーの減衰力を調整するそうだ。4輪にかかる荷重計算は400分の1秒毎に行っているというから常に快適なこともうなずける。

さて、このゴースト。ファントムとはまた違う個性が評価されているのだろう。販売は世界的にきわめて好調だそうだ。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之/写真:堀越 剛)

画像: 伝統的なデザインを現代の技術で仕上げたインテリアは実にゴージャス。また、スイッチ類の配置や操作性などが巧みなので、寛いだ気分でドライビングすることができる。

伝統的なデザインを現代の技術で仕上げたインテリアは実にゴージャス。また、スイッチ類の配置や操作性などが巧みなので、寛いだ気分でドライビングすることができる。

ロールスロイス ゴースト 主要諸元

●全長×全幅×全高:5399×1948×1550mm 
●ホイールベース:3295mm 
●車両重量:2435kg 
●エンジン:V12DOHCツインターボ
●排気量:6592cc
●最高出力:420kW(570ps)/5250rpm
●最大トルク:780Nm(79.5kgm)/1500-5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:4.9秒
●最高速:250km/h(リミッター)
●車両価格:2900万円(2010年当時)

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