ロールス・ロイス「ファントム」とは何か~“移動する芸術作品”の本質
ロールス・ロイス「ファントム」とはただの高級車ではない。第一に手作業による緻密なビスポークで製造される、真のラグジュアリーカーだ。英国ウェスト・サセックス州グッドウッドにあるホーム・オブ・ロールス・ロイスにて、一台一台丁寧に設計・製作されている。

アンディ・ウォーホルが所有した1937年製ロールス・ロイス「ファントム」
そんなファントムが100周年を迎えた。この節目は単なる自動車の歴史ではなく、アートと共鳴してきた一世紀を回顧する格別な契機である。凡庸な乗り物とは一線を画し、ファントムは常にキャンバスであり、移動する芸術作品であった。
創業から現代に至るまで、ロールス・ロイスは現代アートの巨匠たちと密接な関係を築いてきた。サルバドール・ダリ、アンディ・ウォーホル、アンリ・マティス、パブロ・ピカソ、そしてデイム・ローラ・ナイトに至るまで、多くの芸術家がファントムを自身の創造性を映す場として愛したのである。
とりわけデイム・ローラ・ナイトはロールス・ロイスを移動式アトリエとして使用し、エプソム競馬場やアスコット競馬場で車内から絵を描いていたことも印象的である。
中でもファントムは、名立たる芸術家たちに所有され、ロンドンのサーチ・ギャラリーやニューヨークのスミソニアン・デザイン博物館をはじめとする世界中のギャラリーに展示され、「動くアート」として扱われた。まさに創造の触媒として機能してきた存在である。
また、アンディ・ウォーホルは1937年製のファントム(1947年頃にシューティングブレーク仕様へ改造)を偶然発見し、その場で購入。ニューヨークへ輸送し、1978年まで所有した。その経験がポップアートとの間に新たな芸術的接点を生んだ。