レンジローバーから登場したこと自体が衝撃的
まさに3年前のデトロイトショーで発表されたコンセプトカー「LRX」そのままの先鋭的なスタイリングをまとったコンパクトSUV「イヴォーク」がいよいよ発進する。デザインそのものも驚きだが、これがレンジローバーという伝統あるブランドから世に出ること自体も、やはり衝撃的と言っていいだろう。
3ドアクーペと5ドアが用意されるボディは、3ドアで全長4355×全幅1965×全高1605mm、5ドアは全長と全幅は同じで全高1635mmと、短く、ワイドで、背も低い。基本骨格はランドローバーフリーランダー2を土台にしているが、90%以上が新設計というから実質的には別物と言っていい。大きな違いはサブフレームのマウント位置を変えてシャシを27mm低くしたこと。それがこの独特のプロポーションに繋がっている。
チーフデザイナーのジェリー・マクガバン曰く、「これはレンジローバーというブランドが変わろうとしていることを表現したスタイリングだ」という。クーペが設定されているのも、やはり新たな、つまり若いユーザー層へのアピールなのである。
スタイリッシュなだけでなく空力性能もCd値0.35と優秀だ。またボンネットやルーフをアルミ製として、フェンダーやテールゲートは樹脂製に。シャシにもアルミ製部品を多用することで軽量化も徹底されている。車重は3ドアの2Lガソリン車で1640kgに過ぎない。
大胆な外観とは違って、インテリアは水平基調のインストルメントパネル、そこに太い柱を通したようなセンターコンソール等々、レンジローバーらしいものに仕上げられている。クオリティもレンジローバー ヴォーグなどに対してまったく遜色はない。
唯一最大の違いと言えるのがドライビングポジションだ。伝統のコマンドポジションよりも着座位置は低く、座った感じは囲まれ感がある。これなら伝統を知らない人も違和感を覚えることはないだろう。
広さ自体も十分。後席ヘッドルームなど、レンジローバースポーツよりも豊かだというのだから、巧みなパッケージングが光っている。

写真右はLRXコンセプトモデルのイメージを踏襲した3ドアクーペ。後から発表された5ドアモデルより全高は30mm低く1605mm。全長×全幅は5ドアモデルと同じ。
オフロードの走りを犠牲にせず、それでいてスポーティな走り
思い切りスポーティなのか、それともレンジローバーらしい世界が構築されているのか。気になる乗り味は、まさにその両方を兼ね備えている。とくにオプションのマグネライドダンパー付きの乗り心地は、レンジローバーの名に相応しく、しなやかに路面の起伏を舐めていく絶品の味だ。
それでいて、いざ鞭を入れれば実にスポーティなフットワークを披露する。電動パワーステアリングの手応えはダイレクトで、正確なレスポンスによって軽快に走らせることができる。ワインディングロードが愉しくなってくるのである。
無論、だからと言ってオフロード性能が犠牲になるなんてことはあり得ない。今回の試乗コースにはさまざまな種類の悪路が用意されていたのだが、テレインレスポンスで適切なモードを選べば、あとはステアリング操作と速度調整を慎重に行うだけで、どこも不安なくクリアできた。やはりこれは流石と言うほかない。
パワーユニットは最高出力240psの直列4気筒2L直噴ターボに6速ATを組み合わせる。サウンドジェネレーターによって奏でられる低音の効いたサウンドはやり過ぎの感もあるが、動力性能は十分以上。それでいて低速域の粘りもあり、オフロードでも痛痒を覚えることはない。
実際、走りは相当丹念に煮詰められたようだ。100台強の試作車の総走行距離は延べ160万km以上に及び、その中にはオフロードはもちろんニュルブルクリンク北コースでの8000kmも含まれている。
今回は試すことができなかったが、イヴォークにはブランド初のFFモデルも用意されている。環境性能が高いのはディーゼルエンジン搭載のFF、6速MTモデルで、CO2排出量は驚きの129g/kmに過ぎない。
サスティナビリティに関して言えば、イヴォークは他にも16kg分のリサイクルプラスチックと21kg分の天然素材/再生可能素材を使い、生産時に使用するエネルギーも66%低減するなど様々な面で追求している。環境に優しいとは単に燃費数値だけで語るべきことではないのだ。
サイズ、デザイン、クオリティに走り。そしてブランド性と魅力あふれたイヴォークは、発表とともに評判を呼び、すでに2万5000台のオーダーが入っているという。生産されるヘイルウッド工場は設備が拡張され、年産10万台が可能になったというが、この勢いだとそれでも足りなくなるかもしれない。
日本上陸は2012年春。5ドアだけでなく3ドアクーペも用意され、価格は400万円代後半からという魅力的なオファーとなりそうだ。(文:島下泰久)

レンジローバー史上もっとも小さく、軽く、もっとも燃費の良いモデルとなるレンジローバー イヴォーク。ボディ色は12種類、ルーフ色は3種類から選択可能。

水平基調のインストルメントパネル。室内はレンジローバーらしく上質で骨太なデザインでまとめられる。
レンジローバー イヴォーク 4WD 5ドア Si4 (2Lガソリン AT) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4355×1965×1635mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1670kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1999cc
●最高出力:177kW(240ps)/6000rpm
●最大トルク:340Nm(34.7kgm)/1850-5600rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●最高速度:217km/h
●0→100km/h加速:7.6秒
※EU準拠