AIエージェントの声かけが、ドライバーの感性を刺激
各要素に関する展示を使ったワークショップの後、実際にその「効果」を体験するデモンストレーションが実施された。「管制システム」「リアルタイム通信」「行動予測」そして「働きかけ」という各要素が、どのように協調して危険を回避することができるか、を体験する、ふたつのプログラムが用意されていた。

開発者の運転で、デモンストレーションに参加させてもらうことができた。クルマの台数が多いので、緊張感がしっかり漂う。ちなみにこのクルマは、「合流される」役を担っている。ハンドル左に設置されたスマホに表示されているのが、AIエージェントだ。

道路上に置かれたパイロンは「壁」の代わり。つまり車線上のクルマたちからは、左から合流してくる車両は見えていないという設定だ。にもかかわらず写真一番左の車両があらかじめ車線を変更、スムーズな合流のためのスペースを開けている動作は、管制システムが自動制御で行っている。

合流時の動きを俯瞰したドローン画像。中央の車線変更をしているクルマは、左から来ているクルマの進入に向けて準備を始めている状態だ。ただしこの段階では、合流してくる車両はドライバーには見えていない。認知から判断(の補助)、操作に至るまで、管制システムが進めている状態だ。
ひとつが、長い直線コースを使った合流シーンでの危険回避を想定したもの。2車線の高速道路を連なって走る複数車両と、そこに左から合流しようとする車両がメインキャストだ。
クラウド上に「設営」された「管制センター」にはそれぞれの車両からの情報と、各種インフラからの情報を合わせた情報が集められ、その動きをもとにシステムが、交通の流れを先読みする。その予測に合わせて各キャストの動きを制御し、最適な交通流を生み出すために、それぞれを運転しているドライバーに働きかけるというシナリオだ。
この時、走行車両と合流車両が事故を起こす危険性を察知した段階でドライバーにあらかじめ警告してくれるのだが、通常のADAS系が採用する光、機械音によるアテンションプリーズではないところに、トヨタ流の特徴がある。親しみのある女性の声が自然な口調で語りかける「AIエージェント」を採用しているのだ。
あえて設定された「合流失敗」のケースでのAIエージェントのセリフは「今、危なかったね。さ、気を取り直して!」だった。
このセリフ選びが開発陣にとって、少々悩ましいらしい。反感を生まないように、押しつけがましくなく安心感まで伴う言葉、ニュアンスを選ぶのがなかなか難しい。下手なシナリオライターなら、頭を抱えてしまいそうだ。

AIエージェントのイメージ。デモンストレーションは、親しい関係にある女性を思わせる口調だった。声や言葉遣いに関しては、いろいろな「バージョン」が考えられるという。たとえば人気キャラの声優ボイスなども、きっとあり・・・だね!
そのニュアンスに関しては基本的に、ドライバーの気持ちを代弁することで「共感」を生む方向で考えている。「わ、危なかった!」「とりあえず気を取り直して・・・」と自身が無意識に感じているところに韻を踏むように言葉を重ねることで、ドライバーが落ち着きを取り戻すことができるのだという。
続けての「合流成功」のシーンでは、合流される側を走っているクルマの車内に「車線変更するね」と、AIエージェントの声が響いた。反射的にドライバーが「OK」と答えると、ゆっくりと右隣のレーンに車線変更(社外からコントロール)してくれる。やがて、左からもう1台の主役が合流。失敗シーンでは合流の入口で立ち往生していた「合流してくる役」が、今度はうまく進入することができた。
デモンストレーションとは言え、センサーなどの道路側のインフラとクルマにつながった管制センターと、ドライバー(ヒト)との共同作業はお見事。密なコミュニケーションによって、潜んでいた危険を無事に回避することができたのだった。