デモでも事故は事故。とっさの反応で避けられる危険もある
「潜んでいる危険」という意味では、郊外の住宅地を法定速度で走っているという想定でのふたつめの体験実験も、なかなか興味深かった。同乗の開発者からは「とりあえず、40km/hでまっすぐ走ってください」という指示だけを受ける。

デジタルツインの生成を担う「Arene Tools」、クラウドの管理を担う「Arene Data」など、多才なAreneが連携して「SDV」を実現する。

左上がセンシングなどによって収集された情報、それをもとにバーチャルで再現したのが、右下のデジタル画像「デジタルツイン」だ。ここで再現された交通状況の変化予測をもとに、必要な管制が行われる。
すると建物を模したような壁の陰から突然、子供用のゴムボールが飛び出してきた。「うわ!」とうろたえるも、何も対処することができず、そのまま走り去るしかない。じゃっかんうろたえたまま、もう一周、同じクルマで同じように走ると、今度は「あぶないよ」という声掛けが飛んできた。
具体的な危険の内容こそわからないけれど、とにかくブレーキング。するとだいぶ先の歩道のところを、ピンクのボールが弾んでいった。今度は、ボールを追いかけて小さな男の子(の人形)が道路を横断して行く。
二度目ということである程度はなにが起こるかわかっていても、「あぶないよ」という声かけにとっさに反応したことで、さらなる危険を回避することができたわけだ。
どの実験でも、道路に配置されたセンサーやカメラなどのインフラと、AIエージェントを介してのヒトとのコミュニケーションがカギを握る。加えてふたつめの実験シーンでは、対向車のADAS用カメラからの映像も、状況分析のデータとして活用されていたのだそうだ。
まさに「三位一体」だからこそなせるワザ、というところだろうか。「交通事故ゼロ」に向けた理想のシステムのひとつであることは、間違いない。
もちろん、社会実装に向けた課題はある。状況を把握するインフラを主要な地点に配置するだけでも、大変な労力とコストが必要になるだろう。想像もつかないような膨大な量のデータをリアルタイムで分析、最適解を判断し、ドライバーの行動を促すという一連のプロセスを瞬時に、しかも途切れなく処理し続けるためには、果たしてどれほどの能力を持った「管制センター」が必要になるのだろう。
文系的には悩ましい、としか言いようがないレベルの取り組みだけれど、それでも待ったなしで実現が期待されることは間違いない。一刻も早く「成就」するためには結局、イチメーカーだけでなく他メーカーやもちろん公的な支援、協力が欠かせない、というシンプルな結論に落ち着くのだろう。
つまりはやっぱり、いろんなところで「コミュ力」が求められている、ということか。デジタルを極めた先端技術が本当の意味での実用化につながるためには、そうした「ヒトとしての」アナログなパフォーマンスがさまざまな課題を克服するカギになっているようにも思えた、体験会だった。