脈々と受け継がれるレーシングスピリット
取材当日、編集部員が自宅まで迎えに来てくれたクルマは「ホンダ シビック タイプR レーシングブラックパッケージ」。自宅周辺の道路は日頃走り慣れているだけに、路面の荒れ方やアンジュレーションがわかる。ここから試乗をスタートできるのはクルマを評価するうえでもありがたい。コクピットの雰囲気から「ホンダのレーシングスピリット」へのこだわりが溢れテンションが上がりそうなものだが、走り始めて間もなく、キムタクみたいに「ちょ、待って」と呟いた。予想外のしなやかで快適な乗り味に驚いたのだ。
現行シビック タイプRは2022年9月、デビュー当時の試乗会で鈴鹿サーキットのフルコースを走る機会があり、そのパフォーマンスの高さに舌を巻いた記憶がある。一方で、一般道路をしっかり走り込んだ記憶はない。

ホンダ シビック タイプR レーシングブラックパッケージ。シックな雰囲気になっても、ひとめでRとわかる。
それにしても、大変失礼ながらタイプRは伝統的に、胃下垂にならないか心配になるほど乗り心地が悪い記憶が強かった。ブランドは伝統と革新により進化していくが、これは良い意味で革新的な側面だ。実は、1992年にNSXでスタートした「タイプR」は2017年からターボ過給された第2世代となり、そこから「乗り心地の硬さ」を改善してきたという。サーキット好きのニッチなターゲットから、誰でも快適にスポーツカーを手にできるようにと。素晴らしい!
シビックらしい利点を残し、グランドツアラー性も光る
さて一般道路や首都高速道路などを経て東名高速に。この区間は合流や分岐が続くが、スポーツカーと思えぬ視界の良さが光る。このあたりはベース車の良さを踏襲している。
そして、高速道路においても驚きは継続された。直進性の高さ、目地段差を乗り越えた際の当たりのマイルドさと収束の速さ、フラットライド感。サスペンションが優れているのは間違いない。でも、そんなパーツ単体レベルの話じゃない。ボディ剛性をはじめ、ステアリングの取り付け剛性、ジオメトリー、そしてサスペンションチューニングに至るまで、一つひとつのパーツ精度の高さ、そしてトータルバランスの良さと乗り心地の良さ。サーキットで速いだけではない、「グランドツアラー」としてのパフォーマンスの高さも実感できた。
さてさて、ビックリしている間に目的地である箱根ターンパイクに到着。運動性能の高さはすでにサーキットで確認済みであったが、サーキットで好印象だからと言って、必ずしもワインディングでも楽しいとは限らない。逆もしかり。たとえば、フラットなサーキット路面は良いけれど公道のアンジュレーションにはシビアに反応するとか、ワインディングでは気持ち良いがサーキットで限界域まで攻め込むとアンダーステアが強いとか。今まで、そんな経験もあった。が、このクルマに関してはいずれも杞憂であった。ここまでの道中、そしてサーキットでの好印象を覆す要素は何もなく、むしろ、新たな驚きすらあった。

シビック タイプR レーシングブラックパッケージの走行に関わる仕様は通常のタイプRと共通する。先代モデルと同じ「K20C」型の2L直4ターボエンジンを搭載するが、新型は+10ps/20Nmのパワーアップを実現。
ホンダのスポーツカーのエンジンといえば、高回転・高出力型が伝統。シビック タイプRには2L直4ターボエンジンが搭載され、最高出力330ps/6500rpm、最大トルク420Nm/2600-4000rpmのスペックを持つ。低回転の実用域でもトルク不足は感じないうえに、回転の上昇とともにモリモリとパワーを発揮する高回転型は健在。そして、気持ち良い。とくにワインディングでは必要以上に高回転まで回したくなってしまう。コンフォートやスポーツモードにおいては心地良いながらもサウンドは控えめで、大人のスポーツカーの雰囲気を漂わせる。
ハンドリングも素晴らしい。一般〜高速道路においてはしなやかな動きを見せながら、ワインディングでは最小限の動きで荷重移動しながら姿勢変化する。コーナリングでは傾くというより真横に引っ張られるような姿勢だ。そして一番驚いたのは、下りのコーナー。普通、フロント外輪にかなり荷重が乗るイメージ、とくにフロントヘビーのFFでは顕著だが、タイプRはこんなシーンでも4輪でガッツリ路面を捉えている印象で、つんのめる感じがなくFFを感じさせない。小気味良いシフトフィールとともに、リズミカルにコーナリングを楽しめる。
唯一、デビュー当時から残念に思っていたのは大きくなりすぎたボディサイズ。もはや3ドアハッチバック時代のヒラヒラと舞うような軽快感とは異なるが、大きいぶん、後席の居住スペースも広く、ラゲッジルームを含め実用性の高さは大いに満足できるだろう。
