「若者のクルマ離れ」が叫ばれて久しいなか、東京・原宿の裏路地に熱気あふれる大行列が出現した。お目当ては、千葉発のカスタムカー・クラブ兼ブランド「KAWAII FITMENT.」。既存の“オジサン文化”を脱却し、ストリートファッションとしてクルマを楽しむ彼ら。なぜ若者をこれほど惹きつけるのか、その秘密に迫る。

文/写真: 石橋 寛
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カスタムカーとアパレルが融合した「カワイイフィットメント」

真夏の太陽が照りつける東京・原宿。お洒落なセレクトショップやカフェが軒を連ねる裏路地の一角に、異様なほど活気に満ちた空間が出現していた。お目当ては、千葉県を拠点に活動するカスタムカー・クラブであり、今や国内外で絶大な人気を誇るアパレルブランドでもある「KAWAII FITMENT.」(カワイイフィットメント/以下、KF)のポップアップストアである。タトゥーの入った若者、スケーター風のファッションに身を包んだ女の子、そして一見クルマとは無縁そうなハイセンスなZ世代たちが、店外まで長い列を作る。

画像: ポップアップイベントで展示されたのが最新デモカーのポルシェ911。ボディ全面に落書きされたインパクトあふれる作品。

ポップアップイベントで展示されたのが最新デモカーのポルシェ911。ボディ全面に落書きされたインパクトあふれる作品。

店内にはUS発の芳香剤ブランド“LittleTrees”とのコラボパーカーや、LA生まれの工具メーカー“OSKTOOLS”とタッグを組んだツールキットがズラリと並び、飛ぶように売れていく。

「若者のクルマ離れ」という言葉が叫ばれて久しい。高すぎる維持費、若年層の所得低迷、そしてタイパを重視するライフスタイルの変化。自動車業界の偉い人たちは、データを見ながら「今の若い世代はクルマにお金を使わない」と、どこか諦め顔かと。しかし、この原宿の熱気を前にして、そんなステレオタイプを真に受ける者がいるだろうか。彼らはクルマを離れてなどいない。ただ、既存の「オジサンたちのクルマ文化」から離れ、自分たちだけの新しい居場所を見つけただけなのだ。

画像: カジュアルウェアも今や即座に完売する人気。限定商品を目当てに集まる若者もいて、会場は大賑わい。

カジュアルウェアも今や即座に完売する人気。限定商品を目当てに集まる若者もいて、会場は大賑わい。

なぜ、千葉の田舎町から始まった小さなコミュニティが、原宿の流行に敏感な若者たちをこれほどまでに熱狂させるのか。その秘密を紐解くと、現代のユースカルチャーが求める3つの核心が見えてくる。

① 単なる改造車じゃない!「クルマ×アパレル」のトータルコーディネート

まず目を引くのが、その圧倒的なビジュアルセンスだ。彼らの提唱するカスタムは、いわゆる「シャコタン(車高短)」や「ツライチ(フェンダーとホイールの面を合わせる足回り)」といった伝統的なJDMカルチャーがベースにある。しかし、決定的に違うのは、それを「ファッション」の一部として昇華している点だ。

画像: マスコットキャラクターのKFちゃん。元は痛車のアイコンとしてクルマのボディに描かれていたが、今回から立体像として登場。

マスコットキャラクターのKFちゃん。元は痛車のアイコンとしてクルマのボディに描かれていたが、今回から立体像として登場。

彼らはホイールのセッティングや絶妙なフィットメント(足回りの煮詰め具合)にこだわる一方で、オリジナルキャラクター「KFちゃん」をあしらったステッカーやアパレルを身にまとい、トータルコーディネートとしてクルマを楽しんでいる。痛車風な仕上がりと、自分の着ている服のセンスが同列で語られるという「ストリートファッションとしてのクルマ」という見せ方こそが、従来の泥臭いカスタム誌には乗らなかった、現代的なスタイリッシュさを生み出しているに違いない。

画像: もちろん、ステッカーもバリエーション豊富な人気商品。このあたりは大昔の街道レーサーチーム的ニュアンスだろうか。

もちろん、ステッカーもバリエーション豊富な人気商品。このあたりは大昔の街道レーサーチーム的ニュアンスだろうか。

② 「KFガレージ」という場所が生み出す圧倒的なチーム感

ネットやSNSのタイムラインを眺めているだけで、すべてが完結したような錯覚に陥る現代。だが、KFの根底にあるのは、のどかな風景の中にポツンと佇む「KFガレージ」という、極めてリアルで泥臭いコミュニティだ。地元の幼馴染や、近所に住むクルマ好きの仲間たちが自然と集まり、工具を握って夜な夜なDIYで車高調を組み、ホイールを交換する。SNSでの華やかな発信の裏には、そんなガレージでの笑い声や、パーツがうまく付かずに頭を抱えた時間といった、濃密な「リアルライフ」が存在する。画面の向こう側のフォロワー数ではなく、ガレージで同じ油汚れを共有する仲間への信頼。このリアルなチーム感こそが、彼らの活動に揺るぎない説得力を与え、見る者に「自分もあの輪に入りたい」と思わせる強い引力になっているに違いない。

画像: アメリカでは定番のOSK TOOLとのコラボレーショングッズもお目見え。単なるアパレルブランドとは大きく違うポイントだろう。

アメリカでは定番のOSK TOOLとのコラボレーショングッズもお目見え。単なるアパレルブランドとは大きく違うポイントだろう。

画像: オリジナルのステアリングやシフトノブといったカスタムパーツも多数ラインナップ。

オリジナルのステアリングやシフトノブといったカスタムパーツも多数ラインナップ。

③ 他人のカスタムを否定しない、自由でポジティブな空気感

かつてのカスタムカーシーンといえば、どこか「先輩後輩の厳しい上下関係」や、「排気量やパーツの金額でマウントを取り合う」といった、汗臭い体育会系のノリが少なからずあった。高級車でなければ偉くない、ノーブランドのパーツは認めない、といった具合だ。

しかし、KFのメンバーたちにそんなギスギスした空気は微塵もない。彼らのスタンスは驚くほどフラットでポジティブ。車種が軽自動車だろうが、最新のスポーツカーだろうが、オーナーがこだわりを持って楽しんでいれば、お互いの「かっこいい」を素直に認め合う。他人のカスタムを絶対に否定しない。この全肯定のスタンスがあるからこそ、初心者や若い女の子でも気後れすることなく、自分なりの自己表現としてクルマの世界へ飛び込んでいけるのだろう。

画像: 911の落書きは、グラフィックアーティストのAZI氏によって、ポスカ1本で仕上げられた作品。

911の落書きは、グラフィックアーティストのAZI氏によって、ポスカ1本で仕上げられた作品。

これからのカスタムカーシーンを面白くしていくのは、自動車メーカーのマーケティングでも、評論家の御託でもない。KFのように、純粋にクルマというおもちゃを使って人生を肯定し、仲間と繋がろうとする若者たちのリアルな衝動にほかならない。

彼らの人気は今や日本国内にとどまらず、LAで開催される世界最高峰のカーショー「WEKFEST」への出展を予定するなど、ワールドワイドに広がりつつある。「クルマは単なる移動手段だ」などと、誰が言ったのか。KAWAII FITMENTが証明してみせたのは、四輪のついたその鉄の塊が、2020年代の今なお、若者たちにとって「最高にイカした自己表現のキャンバス」であり続けているという、あまりにも眩しい事実なのだ。

画像: KFちゃんをボディサイドに描いた痛車仕様のポルシェ993。クルマのイベントで引っ張りだこの人気を誇る。

KFちゃんをボディサイドに描いた痛車仕様のポルシェ993。クルマのイベントで引っ張りだこの人気を誇る。

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