イギリスの旧車レストアファクトリーが手がけた空冷911が400馬力を超えるとしたら……。そんな痛快さを求めたソーンリー・ケルハムの「ヨーロピアンRS」は、2024年以降に25台のみ販売された最新世代の“レストモッド”だ。エンジンは3種類の排気量が存在するというが──。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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超人気のシンガーを待ち切れない富裕層がオーダーしたか

ポルシェ911のレストモッド界隈で頭ひとつどころか、ふたつ三つ抜きんでているシンガーですが、やっぱり、というか当然ながら後追いメーカーが登場しています。今や、空冷ポルシェはオリジンよりもレストモッドを作った方が話題性も高く、比較的高く値付けられるところが製作者にウケているのでしょう。ご紹介するのは、イギリスの旧車レストアファクトリーが手がけた空冷911で、シンガーと違い911(ナロー)をベースとしつつ、400馬力オーバーを売り文句にしています。

画像: 2024年に完成・販売されたソーンリー・ケルハム製ヨーロピアンRS 4.0。72年のナロー911をベースにレストモッドされました。

2024年に完成・販売されたソーンリー・ケルハム製ヨーロピアンRS 4.0。72年のナロー911をベースにレストモッドされました。

ソーンリー・ケルハム社は2000年代初頭、イングランドのグロースターシャーでサイモン・ソーンリーとウェイン・ケルハムによって設立されたレストアファクトリー。ジャガーやアストンマーチンといったイギリス車はもちろん、ランボルギーニ・ミウラやフェラーリ250シリーズなど作品は多岐にわたり、世界各国のコンクールで極めて高い評価を受けているのだとか。

そんな彼らの腕を見込んで、さる熱狂的なポルシェのコレクターが38ページにも及ぶ仕様書を持ち込みました。それによれば、1973年までのナロー911をベースに、内外装、エンジンを徹底的にレストア&カスタムしてほしいと要望されていたとのこと。純粋なレストレーションでなく、いわゆるレストモッドのオーダーでしたが、ソーンリー・ケルハムでは直前にランチア・アウレリア(1950~1958)のレストモッドしていたため、快く引き受けたのだそうです。

画像: 片側215mmも拡幅されたリヤフェンダーはカーボン製。ドアとルーフはアルミで、車両重量は1070kgを実現しています。

片側215mmも拡幅されたリヤフェンダーはカーボン製。ドアとルーフはアルミで、車両重量は1070kgを実現しています。

これが2022年のことといいますから、ちょうどシンガーの人気が富裕層むけに弾けたタイミングと重なります。勝手な妄想をふくらませると、先の熱狂的なコレクターさんはシンガーのレストモッドに惹かれた、あるいはインスパイアされてソーンリー・ケルハムにオーダーしたのではないでしょうか。なにしろ、1億円~という値付けに加え、オーダーしてから納車まで3年とも5年ともいわれるシンガーですから、「だったら、ほか当たってみるわ」となる大金持ちも少なくなさそうですからね。

911の再解釈とくればシンガー似も無理はない

さて、ヨーロピアンRSと名付けられた作品ですが、25台の限定生産と発表されています。ご覧の通り、911のボディを再解釈したスタイルは、やはりシンガーにも通じるもの。とはいえ、911のニュアンスを活かすとなると似通ってしまうのは致し方ないところかと。また、再三お伝えしている通りシンガーが964をベースに作っているのに対し、ソーンリー・ケルハムは911のナローにこだわっています。ご紹介しているサンプルは1972年の911Eだそうですが、25台の中には1973年の2.7RSを使ったものもあるかもしれません。

画像: シンガーと同じくインテリアの仕上げは丁寧で往年の911らしさを感じるもの。MOMOプロトティーポがじつにいい感じ。

シンガーと同じくインテリアの仕上げは丁寧で往年の911らしさを感じるもの。MOMOプロトティーポがじつにいい感じ。

画像: メーターのカスタムは911のレストモッドでは常套手段。やはり、富裕層にはこうしたゴージャスがウケるのでしょう。

メーターのカスタムは911のレストモッドでは常套手段。やはり、富裕層にはこうしたゴージャスがウケるのでしょう。

ボディは前後のフード、フェンダーをカーボンとして、ドアとルーフにアルミが使われています。このあたりも、シンガーに通じる手法ですが、さすがナローだけあって車重1070kgを実現。シンガーに対し300㎏は軽く仕上がり、これこそナローを選んだ最大のメリットといえるでしょう。また、シャシーについてもソーンリー・ケルハムはそつのないカスタムで、フロントサスペンションを現行の911GT3からウィッシュボーンサスを移植し、リアはトレーリングアームを踏襲しつつ、アルミ製の強化パーツを装備。もちろん、LSD、ダンパー、スタビライザーといったパーツもハイエンドをおごることで、より現代的でサーキット走行にも適したパフォーマンスへと昇華させています。

画像: ホイールは北米のフィクセ製で、F: 245/40 R18 R: 265/35 R18のミシュランPilot Sport 4S、またはPilot Sport Cup 2(サーキット向け)をチョイス。

ホイールは北米のフィクセ製で、F: 245/40 R18 R: 265/35 R18のミシュランPilot Sport 4S、またはPilot Sport Cup 2(サーキット向け)をチョイス。

画像: ボディ全体にシームウェルディングを施したほか、そこかしこに補強を追加。軽いだけでなく、車体剛性も非常に高そうです。

ボディ全体にシームウェルディングを施したほか、そこかしこに補強を追加。軽いだけでなく、車体剛性も非常に高そうです。

パフォーマンスからすれば流通価格はリーズナブル

画像: 4.0リッターのフラット6は425ps/9000rpmとされ、現行911GT3 RSに肉迫、あるいは凌駕せんばかりのパフォーマンス。

4.0リッターのフラット6は425ps/9000rpmとされ、現行911GT3 RSに肉迫、あるいは凌駕せんばかりのパフォーマンス。

搭載されるエンジンについても、吸排気をチューンした3.8リッターをスタンダードとして390馬力を持たせ、また3.6リッターのハイレブ仕様では1万回転まで引っ張れるようになり、360馬力オーバーと発表されています。そして、最強仕様は4.0リッターまで拡大、425ps/9000rpmとなり、ウェイトパワーレシオ2.52kg/psと、現行911GT3 RSの2.76kg/psを軽くぶっちぎっています。このあたりも、ウィリアムズやコスワースによるチューンエンジンを売りにしているシンガーへのライバル意識が見え隠れしているかと。

画像: ダックテールスポイラーも再解釈され、センター部が抜けているデザイン。果たしてダウンフォースの発生力やいかに⁉

ダックテールスポイラーも再解釈され、センター部が抜けているデザイン。果たしてダウンフォースの発生力やいかに⁉

ただし、中古車価格となるとソーンリー・ケルハムは圧倒的にお買い得。すでに投機商品かのように高値安定が続くシンガーは、1億円を下る中古車はまず見当たりません。一方、25台限定のヨーロピアンRSは後発といえども前述の通りパフォーマンスは超一流なわりに45万~65万ドル(約7000万~1億円)の予想落札価格。資産としての価値なら、ネームバリューも手伝ってシンガーに軍配が上がるかもしれませんが、生粋の911マニアはソーンリー・ケルハムを選ぶはず。安いだけでなく、ナローベースでGT3 RSを置き去りにする快感こそ、ポルシェ好きには刺さるのでしょうから。

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