見た目より中味が大事
2012年3月の発売からグローバルで約5万5000台、国内では約1万5000台の販売を記録し、確実にスバルのスポーツカーとして定着したBRZにデビュー以来となる大幅な改良が施された。
BRZの車名は「Boxer Rear wheel drive Zenith」の頭文字からとられ、車両コンセプトも「運転する愉しさに磨きをかける」である。今回の改良では「FRを運転する楽しさをさらに飛躍させた」とスバル商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャーの乾氏は言う。
では、どこがどう変わったのか。外観から見ていこう。まず目に入るのは前後にLEDライトが採用され“コの字”を強調したデザインになったことだ。さらにバンパー形状も変更しワイド&ローを強調している。
ただしここだけ見ても“大幅改良”というほどの印象ではない。つまり今回は、外観より主に中味を大きく進化させてきたということなのだ。走りのパフォーマンス向上が改良の核で、それが“走る楽しさをさらに飛躍”ということに繋がるのだろう。
中味はどのように進化したのか。一番わかりやすい改良点は出力向上である。MT車のみだが、最高出力は従来の200psから207psに、最大トルクは205Nmから212Nmに向上し、さらにファイナルギアを4.1から4.3へローギア化して低回転域から高回転域までの走りのフットワークを俊敏にしている。
また乗り心地と操縦安定性、車両応答性の向上のためサスペンションも改めてチューニングされ、ダンパー&コイルスプリングのチューニングやリアスタビライザー径のアップ、ESP制御のチューニングなどが行われ突起収束性と素早い振動吸収を両立させたという。またVDCも機械に介入されたという感じを極力少なくして自然に、さらに車両コントロール領域を拡大した「トラックモード」も新たに追加された。
インテリアも「S」以上には4.2インチカラーTFT液晶メーターを追加されるなどの手が入れられた。そこにGモニターなどの表示や、さらにオープニング時にBRZのイラストも表示されるようになった。またハンドルもグリップ部分の形状や革質などが変更されている。
グレード体系も変わり、最上級グレードに「GT」が設定された。このモデルにはブレンボ製の対向型ブレーキキャリパーやザックス製のダンパー、専用のスーパーブラックハイラスター塗装の17インチアルミホイールなど、BRZの象徴として相応しいが装備が与えられている。
さて走りである。今回試乗できたのは「S」と「GT」の2グレードだが、「GT」は今秋に正式発表となるためプロトタイプだ。さらに当日はどちらも発表前なのでショートサーキットでの試乗となった。
さっそく「S」でコースイン。残念なことに天候は雨で路面もウエットという状態である。最初はコースの状態を確認しながら走行した。それほど速度は速くないが、それでもメーターやシート、ハンドル、そしてエンジン音などからスポーツカーであるという主張が感じられる。
周回を重ねながらスピードアップする。コーナーリング中に右足を踏み込めばリアが流れ、タイヤのグリップの限界を越えるとクルマはスピンもするが、その手前までならクルマをコントロールして走る、曲がるという感覚がとても強く、BRZらしい“走る愉しさや操る歓び”が感じられた。それは「GT」でも同様だ。逆に「S」との走りの違いを明確に感じることはできなかった。
好印象だったのは、タウンスピードでのクルマとの一体感である。いつでもどんな場面でもハンドルを握ると自然とクルマと対話ができる、走っているとワクワクする、BRZはそんなクルマになっていた。(文:千葉知充/写真:永元秀和)
●主要諸元〈BRZ S〉
全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース=2570mm
車両重量=1240kg
エンジン=水平対向4DOHC 1998cc
最高出力=152kW(207ps)/7000rpm
最大トルク=212Nm(21.6kgm)/6400-6600rpm
トランスミッション=6速MT
駆動方式=FR
JC08モード燃費=11.8km/L
タイヤサイズ=215/45R17
車両価格=2,970,000円