MT乗りには欠かせない、減速とシフトの連携操作
ストレートからコーナリングに備えて減速する場合、緩いコーナーだったら、アクセルオフだけで済む。コーナーい合うスピードにアクセルオフでコントロールして立ち上がりに向けてアクセルペダルを踏めば良い。
ただ、コーナーの曲率がきつく、立ち上がりに向けてアクセルを踏むタイミングで、そのままのギアだとトルクバンドを下回っている場合、期待する加速を得ることができない。ここで鋭い加速をするには、あらかじめシフトダウンしておく必要がある。
そこでどうするか?が今回の問題だ、単純にブレーキペダルを踏みながらクラッチを切りシフトダウンし、そのまま急にクラッチをつなぐと、スピードに対してエンジン回転が落ちすぎて、急激なエンジンブレーキがかかる。それだけならまだ良いが、駆動輪がロックしてクルマの姿勢が不安定になると危険でもある。
それを解決してくれるのが「ヒール&トゥ」だ。ブレーキを踏みつつ、クラッチをつなぐ前にヒールでアクセルをブリッピングし、いわゆる「回転を合わせる」操作をする。それがこのテクニックの要諦と言えるだろう。
ただ、主従関係からいうとあくまでもブレーキングが主であり、それに回転を合わせるという操作が付随しているので「トゥ&ヒールと言うべき…」というこだわりのある方も多い。この操作は言葉にすると長いところが、難しいと感じさせる一因でもある。ここで順番を整理すると…
(1)コーナリングに適した速度に合わせるためにブレーキングを開始。
(2)クラッチを切ってギアをニュートラルに。同時にブレーキングしたままアクセルペダルを踵(かかと)で踏む準備に入る。
(3)アクセルをブリッピングしつつ、シフトダウンする。
(4)クラッチをつなぎ、必要ならばブレーキを継続する。
(5)ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み換えコーナーから脱出する。
ということになる。ただ、実際には(2)のクラッチを切ってから(4)までの操作は一瞬で、ひとことで言えば「ブレーキを踏みながらクラッチペダル、アクセルペダルを同時に踏み込み、シフトダウンする」という方が的を射ているかもしれない。
踵でのブリッピングもやみくもにすればいいというものでもない。正確にはギア比の回転差分だけ高く上げるわけだが、その辺は車両に合わせて身体で覚えるしかないところ。
次に応用として2段分シフトダウンする場合を考えてみよう。例えば長いストレートの後のヘアピンコーナーの場合、4速から2速にシフトダウンしたい場合が出てくる。
そのときは、前記の(4)の操作の後、(2)に戻ることになる。つまり、つないだクラッチペダルをもう一度切り直して、繰り返しヒール&トゥをするわけだ。現実にそういうパターンがあまりないとは思うが、6速から1速に落とす場合には5回のヒール&トゥを繰り返せばいいということになる。
また、4速から2速にシフトダウンする場合には、律儀に3速を入れなくてもいい。実際には飛ばしシフトをするドライバーもいる。例えば中嶋悟選手もF2時代にはミスを減らすために飛ばしシフトをしていたという記述を見たことがあるので、邪道でも恥ずかしいことでもないだろう。
この操作を本当に習熟するには、実際にサーキット走行などで練習するのがベストだ。かつては本や雑誌で知るしかなかった一連の操作も、現代は動画でいくらでも見られる状況になった。練習は、もちろん一般走行でもできる。別にコーナリングではなくても、信号などで減速が必要な場面ならは練習は可能だ。(解説・飯嶋洋治 イラスト・きむらとしあき)