MTだけじゃない。DCT(デュアルクラッチトランスミッション)も作っている
ゲトラグ製トランスミッションといえば、高性能スポーツカーには欠かせない存在だ。それはブレーキのブレンボ、ダンパーのビルシュタイン、ホイールのBBS、シートのレカロ、ステアリングのMOMOのように高性能なパーツブランドとして、世界中に広く認知されている。
かつて、ゲトラグ(GETRAG)社はMT(マニュアルトランスミッション)の製造会社だった。今でこそ2ペダルのトランスミッションも製造しているが、流体式トルクコンバータではなく、デュアルクラッチを使ったもので、あくまでもMTをベースにしている。
では、なぜ昔から多くの高性能スポーツカーに採用されてきたのか。その秘密はゲトラグ社こだわりの製造方法にある。MTの命はギア(歯車)であり、その造り方に手間とコストをかけているのだ。
型に鉄を流し込む鋳造が一般的な製造方法だが、ゲトラグ社では高い圧力で叩くようにして形成する鍛造製法を採用している。高コストな一方、鋳造よりも軽量で強くできることが特徴だ。多くの性能を追い求めていくと鍛造に行き着くようだ。
ここで造られた円盤状の鉄をギアに仕上げるために旋盤で削っていくのだが、その硬い面を削ることの大変さも容易に想像できる。そして、ひとつのトランスミッションに組み合わされる大小さまざまなギアは、高い強度と精度、さらに軽量であることなどから、世界に名を馳せる高性能スポーツカーに広く採用されてきたのである。
さらに、他社製MTの潤滑には粘度の高い硬めのオイルが使われることが一般的だが、ゲトラグ製MTは粘度の低いサラサラなATF(オートマチックトランスミッションフルード)を使うことも特徴だ。
ポルシェやメルセデス・ベンツ、BMW、BMWアルピナなどでの採用例は有名で、国産車においてもスカイラインGT-Rやスープラもそのひとつ。さらに、三菱ランサーエボリューションXやギャランなどのDCT(デュアルクラッチトランスミッション)もゲトラグ製だ。
ちなみに、1935年創業のゲトラグ社は2016年1月にマグナインターナショナルの一部となり、トランスミッションやパワートレーンのコンポーネント、四輪駆動装置までを製造する自動車部品サプライヤーとして踏み出した。電動化も見据えたシステムソリューション企業になったといえる。