コイツは、めっちゃ楽しいスポーツカーだ!
試乗会の冒頭に、新型スープラの開発責任者である多田哲也氏から以下のような説明がなされた。
「1978年から始まったセリカXXを含めると、新型スープラは5代目になります。ロゴは先代のJZA80型ものを継承しました。この80スープラが採用していた“フロントエンジン・リアドライブ(FR)、直6エンジン”というヘリテージを生かしながら、何か新しいスポーツカーができないかと模索してきました。
このクルマを開発するにあたり、“ホイールベース、トレッド、重心高”の3つを決定するのに時間をかけました。この3つは決めてしまうと後からイジることはできず、スポーツカーの運動性能車両の特性を決めるからです。ホイールベースは2470mmで、これは86よりも短く(86は2570mm)、水平対向エンジンを搭載している86よりも低い重心高にレイアウトしています。
基本コンポーネントはBMWのZ4と共用していますが、独自に開発したことで明確にZ4とは違う乗り味になっています。86とBRZをスバルさんと共同開発したときは、部品の多くを共用しましたが、スポーツカーの競合がより厳しいカテゴリーへの挑戦ということで、スープラとZ4はなるべく共通部品を使わないように、9割は違うものを使っています。
テスト車両の評価には、徹底的に世界の道を走り込んできました。全体の9割は公道で評価しています。ドイツのアウトバーンでは、250km/h付近での直進安定性は並み居るスポーツカーのライバルたちに引けを取らないレベルに仕上がったと思っています。」
以前にWebモーターマガジンに掲載した「新型スープラ開発責任者 多田哲哉氏が語ったBMWとの共同開発の舞台裏」はこちら。
さて、そんな新型スープラのプロトタイプに、いち早く試乗することができた。場所は千葉県の袖ケ浦フォレスト・レースウェイ。1周約2kmのショートコースだが、アップダウンあり、低速・中速コーナーを織り交ぜたテクニカルコースである。試乗時はドライブモードを「スポーツ」、VSCを「完全オフ」で、タイヤはかなり熱が入った状態で行った。
ピットロードからコースインして、1コーナーを立ち上がり、アクセルを全開にしてみると、自分の想像していた以上の加速力にまずはビックリさせられた。「はっ、速い!」 軽い気持ちで乗り込んだが、この速さを乗りこなすのはちょっと手ごわそうだ。
先ほど新型スープラにはBMW Z4と基本コンポーネントを共用していると書いたが、今回の試乗車は3L直6ターボが搭載されている。Z4の同エンジンの最高出力は340ps、最大トルクは500Nmということだが、このあたりのスペックはほぼ変わらないだろう。しかし、Z4よりも車両重量は100kg近く軽いということで、Z4の0-100km/h加速性能4.5秒よりも速いことは想像に難くない。
コーナーへの飛び込みでフルブレーキ。じわりとステアリングを切り込んでいこうとすると、これまた自分が想像していた以上にフロントがインを向く。軽く修正舵をあてるが、車両はとくに暴れることなく挙動は安定している。
そしてコーナーのクリップを抜けて立ち上がりにかけてアクセルをじわりと踏み込んでいくが、少しのテールスライドを伴いながらも、確実に前方向にトラクションをかけ続けてくれる。試乗は3周だけだったが、どのコーナーでもアンダーステアを感じさせず、ニュートラルステア〜弱オーバーステアの間で挙動が非常につかみやすい。安心してアクセルを踏めるので、運転していてとても楽しい。
このあたりは新型スープラに採用されているリアの「アクティブディファレンシャル」が功を奏しているのだろう。このデフは0〜100%の間でロック率を無段階に制御してくれるという。おそらくブレーキング時にはデフを100%ロックにしてリアの挙動を安定させ、そこからコーナーへのターンインに向けてはデフをフリーにしてアンダーステアを抑える。
そしてコーナーのクリップを抜けて立ち上がりにかけてはデフをアクティブに制御して、アンダーステアを抑え込みながらトラクションを発揮できるようにする…おそらくこのような制御をしてるのだろう。
以前、多田氏がこのアクティブデフがこのクルマのキーテクノロジーのひとつと言っていたが、その意味がわかったような気がした。
あっという間に試乗時間は終わったが、速いスポーツカーを自分でコントロールしているという感覚が強い。実際には、アクティブデフを含めた車両側の制御システムが自分のテクニックのいたらなさをアシストしてくれているのだろうが、とにかく運転していて楽しかった。
「新型スープラは決してサーキットベストのクルマではなく、ワインディングなどで気持ち良く走らせて欲しい」と多田氏は語っていたが、それでも今回、サーキットでその片鱗を感じて十分にそのパフォーマンスを楽しむことができた。発売されてから公道を走らせることが楽しみになった。(文:加藤英昭/写真:井上雅行)