日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第19回は、見慣れているようで意外と知られていない大型トラックの中から、至高とされるボルボ トラックのトラクターヘッドを紹介しよう。(今回の記事は、2018年5月当時の内容です)

陸上を疾走する豪華なクルーザー、ボルボ トラック FH

画像: タイトル画像:シンプルでありながら圧倒的威容・安全性・豪華さを誇る、ボルボ トラクター。1990年代ごろからトラッカーの間で「いつかはボルボ」と言わしめている。

タイトル画像:シンプルでありながら圧倒的威容・安全性・豪華さを誇る、ボルボ トラクター。1990年代ごろからトラッカーの間で「いつかはボルボ」と言わしめている。

今回は陸上貨物輸送の雄、大型トラックに焦点を当てよう。ある取材で訪れたトラックショーの会場で、ひときわ存在感を示していたのがボルボ トラックだ。一度はその名を聞いたことがあるかもしれない。今回は、その主力モデルである「FH」を体験取材した。

まずは、クルマ ファンでも意外と知らないトラックの基礎知識から。現在、陸送の主流はトレーラーと呼ばれる汎用の牽引車タイプだ。しかしトレーラーとはそもそも、コンテナやタンクローリーなど牽引される「荷車」のことを差す。この荷車を牽引するのが「トラクターヘッド」だ。ちなみにトラクターとは農耕車のことではない。「牽引車」という意味で、その頭=トラクターヘッドというのが正しい用語だ。

画像: キャブ直下に納まる、緑色の12.7L 直6ディーゼルエンジン。巨大なキャブは4カ所のエアサスで懸架される。画面下方、前輪の内側にブレーキチャンバーが見える。

キャブ直下に納まる、緑色の12.7L 直6ディーゼルエンジン。巨大なキャブは4カ所のエアサスで懸架される。画面下方、前輪の内側にブレーキチャンバーが見える。

そのトレーラーの中でも多いのが、セミトレーラーに分類されるものだ。前半部重量をトラクターヘッドのカプラー(円盤状の連結器)に預け、後半部を自前の後輪軸で懸架する。

ボルボのトラクターヘッドが日本で注目された1990年代。高速陸送の合理化・効率化でトレーラー車両が増えた一方、これらの車両で「ジャックナイフ現象」という事故が頻発した。ジャックナイフといえば、急制動で後輪が浮き上がってしまうオートバイでの現象を思い浮かべるかもしれない。しかし、ヘッド部分が急制動で前のめりに倒れるわけではない。旋回&制動時に大きな慣性を持つトレーラーがトラクターヘッドより前に突進し、「く」の字型に折れ曲るような事故だ。

画像: 最近のエンジンにしては、排気タービン以外に補器が少なくシンプルで重心が低い。出力よりも、強力でフラットなトルク特性が特徴。

最近のエンジンにしては、排気タービン以外に補器が少なくシンプルで重心が低い。出力よりも、強力でフラットなトルク特性が特徴。

ボルボ トラックは安全・快適機能が至れり尽くせり

そんな中、高速陸送の先進地域(しかも北欧)から来たボルボは、すでにジャックナイフ現象対策のひとつであるABSを採用していた。さらに、シート一体型シートベルトやエアサスを標準装備するなど、高い安全性と上質な快適装備を備え、プロ中のプロ=個人トラッカーから高い評価を得ていた。車体面では、高硬度・高強度・耐食耐久性に実績あるスウェーデン鋼を多用して、シャシはもちろん、キャブの衝突実験でも優れた安全性を誇っている点。同社のキャッチフレーズに「交通事故に巻き込まれるトラックを完全になくす」とあるほどだ。

排気量が約13Lの直6ディーゼルエンジンは、欧州車共通のフラットトルク型。バスと違って積載/牽引重量の大小、走行条件が厳しいこともあり、ボルボではエンジンのダウンサイジングより、余裕ある排気量のまま低回転/大トルクで走行させる方針を貫いている。小型高出力指向で「踏んでしまう」よりも、タップリなトルクで実用的な方が省エネということだ。このトルク特性を発揮するために、前進12速/後退4速の電子制御AMTが標準装備される。

画像: 中型トラックを見下ろす視界は、2階建てバスの上階に運転席があるようだ。特筆すべきは国産車にはないフラットフロア。運転席と助手席が完全につながっている。ステアリングとシートのクリアランスも十分ある。

中型トラックを見下ろす視界は、2階建てバスの上階に運転席があるようだ。特筆すべきは国産車にはないフラットフロア。運転席と助手席が完全につながっている。ステアリングとシートのクリアランスも十分ある。

プロの仕事場として人気なのが、背の高いキャブ。国産車の全高は高いもので3.3m弱なのに対し、ボルボは3.7m強もある。標準コンテナの高さが約2.6m+台車部分の約1.2m=約3.8m。キャブの屋根に空気抵抗を減らすエアロパーツを付けるよりも、エアロ一体型の高い天井の方が合理的という考えである。

キャブの床面が高いため車内フロアをフルフラットにし、しかも運転席と助手席間をウオークスルーできるという、その開放感に驚く。しかも天井高は2m強もあるので、大柄なドライバーでも、直立姿勢で作業や移動ができる。

画像: 床面から2m超もの室内高は、大柄な北欧男性でも余裕で立つことができる(写真のモデルは約170cm)。しかも前後・ベッド下に十分すぎる収納庫が備わる。天窓(非常口兼用)のある機能的なインテリアは、ヨットやクルーザー感覚。

床面から2m超もの室内高は、大柄な北欧男性でも余裕で立つことができる(写真のモデルは約170cm)。しかも前後・ベッド下に十分すぎる収納庫が備わる。天窓(非常口兼用)のある機能的なインテリアは、ヨットやクルーザー感覚。

キャブは四隅に配置されたエアサスでシャシに懸架され、高級車並みの調整機能を備えたシートもエアクッションで支持されている。ステアリングのチルト機構やシート調整の幅も大きいので、窮屈感はまるでない。本格的なベッドと天井部、ベッド下、車外にも収納スペースがあり、至れり尽くせり。この内装は欧米人が得意のプレジャーボートに近いといえる。

プロトラッカーに人気のモンスターは、多くの車両を見下ろしながら高速道路を悠然と航走する、まるでクルーザーそのものだ。(文 & Photo CG:MazKen ※取材協力:株式会社ヨシノ自動車)

画像: 極めてフラットなトルク曲線が特徴。国産エンジンと比較するとおもしろい。

極めてフラットなトルク曲線が特徴。国産エンジンと比較するとおもしろい。

■D13H440型エンジン 主要諸元

●型式:水冷 直列6気筒ディーゼルターボ+インタークーラー
●排気量:12.77L
●最高出力:440ps/1800rpm
●最大トルク:224kgm/1050〜1300rpm
●燃料:軽油
●参考燃費:約5km/L

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