ベントレーとランボルギーニの意外な共通点
意外かもしれないが、ベントレーとランボルギーニにはいくつもの共通点があるどちらもフォルクスワーゲンアウディグループに属しているというだけでなく、モデルラインナップの考え方にもよく似たところがあるのだ。
両ブランドともに長い伝統を誇る工場(ベントレーはイギリスのクルー、ランボルギーニはイタリアのサンタガータ ボロネーゼ)をいまも本拠地として活用しているほか、フラッグシップモデルは自国開発の自国生産、それに続くモデルはグループ内の共通アーキテクチャーを用い、生産の一部はグループ本部のあるドイツに任せるという手法をとっている。
たとえばランボルギーニ アヴェンタドールのカーボンモノコックと自然吸気V12エンジンはいずれもサンタガータ ボロネーゼ製だが、ウラカンのボディシェルはアウディR8とともにドイツ ネッカーズルムの専用工場で生産される。ベントレーの場合も同様で、ミュルザンヌは開発、生産ともにクルーのスタッフが自ら手がけるのに対し、コンチネンタルGTやフライングスパーは主要部分の多くがドイツで生み出される。
伝統ある工場で手作りされるアヴェンタドールとミュルザンヌが、オリジナリティの高い凝った作りを守り通している理由は、こんなところにもあるのだ。
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走らせてみると、巨大なボディであっても、ベントレーはドライバーズカーだと理解する。
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全長×全幅×全高=5575×1925×1530mm、ホイールベース=3270mmという堂々たるボディ。
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「6 3/4 LITRE」は、ベントレー にとってアイコン的排気量。
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エンジンを組み上げた職人の名前が入ったプレートが、すべての車両に付く。
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ドライブモードは、“B”モード、Comfortモード、Sportモード、Customモードを設定。エアサスペンションの固さのほか、ハンドリングもダイレクトに変化。
超ラグジュアリーであると同時に超ハイパフォーマンス
ミュルザンヌの成り立ちをもう少し詳しく見てみよう。全長約5.6m、ホイールベース約3.3mの長大なボディはスチールモノコックを基本とし、そのうえにアルミを中心とするパネルが貼り付けられている(寸法は概略値)。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーンでリアはマルチリンク。なお、ドライバーズカーであることを強く意識したミュルザンヌ スピードはサスペンションがよりスポーティな設定に改められている。
1959年デビューのS2とともに誕生したV8エンジンはその後の半世紀で部品がすべて一新されるほど熟成に熟成が重ねられており、6.75Lという“アイコニックな排気量”からベースモデルで512psと1020Nm、その高性能版たる“スピード”では537psと1100Nmという凄まじいパワーとトルクを生む。ちなみにミュルザンヌ スピードは0→100km/h加速を4.9秒でクリアし、最高速度は305km/hに達する。ベントレー自身が「ウルトララグジュアリー セグメントではライバルのいない性能」と自負するゆえんである。
そんなミュルザンヌスピードの最新型に都内と郊外で試乗した。ベントレーの技術者たちが推奨するドライビングモードの“B”で走り始めると、ずっしり重く感じられるステアリングから意外なほど多くのインフォメーションがもたらされることに驚く。路面のザラツキさえ、手のひらにそのまま伝わってくるかのようだ。
低回転で強大なトルクを発生するV8エンジンは、いかにも現代的な高い精度の回転フィールをもたらす一方で、いくつものムービングパーツがたっぷりとした量のオイルを介して運動していることを想像させる、懐かしい感触を生んでいる。その力強さと繊細さが同居したフィーリングは、ほかのエンジンでは味わうことのできないベントレーならではの世界だ。
ドライビングモードをコンフォートに切り替えると路面からの鋭敏なショックは消えるが、サスペンションブッシュに起因すると思われる“ブワン、ブワン”した印象が拭えなくなる。それだったら、いっそのことスポーツを選んだほうがクルマ全体のソリッド感が強まって好ましい。その場合でも路面から伝わるハーシュネスは許容範囲内。ステアリングはやや重めになるのでイギリス紳士を真似た“送りハンドル”は難しいが、積極的にドライビングを楽しむという面でも、クルマとの強い一体感が味わえるスポーツモードが“スピード”には似合っている。

ショーファーとしてだけでなくオーナーとしてドライビングに集中するための、コックピットのしつらえ。
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クラシカルなレイアウトながら、メーター中央には液晶のインフォディスプレイを装備。1時の位置から時計回りに動く独特の指針を採用。ロゴまで精緻な印象だ。
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トランスミッションは8速ATを採用。ステアリングコラム部には、パドルシフトも設定される。
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シート素材やカラーなど、オーナーの好みに合わせて選択できる。
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リアシートの仕様は、写真の3人がけ仕様のほかに、左右を独立させた完全なふたりがけ仕様を選ぶこともできる。この席からの室内の眺めはまさに最高の贅沢が味わえる。
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前席の背もたれ部分にもダイヤモンドキルトをあしらう。これもまたヒドゥンデライトのひとつ。
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リアシートからの各種機能コントロール。背もたれを倒すと座面もスライドするのが面白い。
イギリス車の正統な格式をより強く伝えるベントレー
手のひらに吸い付くような感触を持つ美しく磨き込まれて味わい深いレザー、重厚な輝きを放つメタルパーツなどで埋め尽くされたキャビンは贅沢の極み。ところが不思議なことに“派手”とか“きらびやか”といった言葉はまるで浮かんでこない。あくまでもしっとりと落ち着いていて品がいい。まるでサービスの行き届いたロンドンの5つ星ホテルで寛いでいるような気分を味わえるのだ。
この点こそ、ロールスロイスとベントレーの最大の違いかもしれない。ロールスのインテリアも構成する要素はベントレーとよく似ているが、そこで表現される世界はよりモダンでインターナショナルだ。例えて言えば、ロールスロイスは建物と設備を一新して生まれ変わった老舗ホテルのよう。対するベントレーは、昔ながらの建物をいまも大切に手入れしながら使うロンドンの格式あるホテルを思い起こさせる。しっかり織り込まれた絨毯と、一段踏みしめるごとにギシギシと軽く音を立てる木製の階段が、その象徴といえるかもしれない。
走りの印象でも両者は異なる。ロールスもドライバビリティは恐ろしく良好だが、洗練さを最優先して20世紀的な機械の感触はほぼ完璧に消し去られている。それに比べ、ベントレーはあくまでも自動車的だ。金属とオイルの感触が、現代的ないい形で息づいている。その意味において、ベントレーはイギリス車の伝統をより強く感じさせると言えるだろう。(文:大谷達也)
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「ブライトウエア」と呼ばれるメタリックパーツは、単なるシルバーではなく「ダークティント仕上げ」が施されている。深みのある質感は、高性能フラッグシップの証でもあるのだ。外装系では「Speed」のバッヂがつくのはフロントフェンダー部のダクトのみ。「BENTLEY」のロゴをはじめ「B」マークがそこかしこについているのとは対照的に、そのアピールはやはりさりげない。
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ドアノブの握りの部分内側には、滑りにくいローレット加工が施されている。ヒドゥンデライトなおもてなしは多彩。
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パドルシフトの裏側にも、滑りにくいローレット加工がしっかり施されている。見えないところに、細かな気配りが見える。
ベントレー ミュルザンヌ スピード 主要諸元
●全長×全幅×全高=5575×1925×1530mm
●ホイールベース=3270mm
●車両重量=2770kg
●エンジン=V8DOHCツインターボ
●排気量=6747cc
●最高出力=537ps/4000rpm
●最大トルク=1100Nm/1600rpm
●トランスミッション=8速AT
●駆動方式=FR
●0→100km/h加速=4.9秒
●車両価格=3800万円