「SVJ」を買うなら知っておきたい心揺さぶる物語
私の身に「ランボルギーニ“J”の奇跡」が二度舞い降りた。一度はF1ポルトガルGPの舞台だったエストリルサーキットで。そしてもう一度は日本の路上で。まるで、夢のような体験をしたのだ。
ランボルギーニにとってアルファベットの“J”は特別な意味を持つ。皆さんもランボルギーニ イオタの名前を聞いたことがあるだろう。実車は1台も現存しないこのミウラベースのスポーツカーは、当時は単に“J”と呼ばれていたものの、イタリア語にJの発音がないため、仕方なくスペイン語のJOTAをこれにあてた。本来、これは“ホタ”と読むべき単語だが、イタリア語風に“イオタ”と発音したところからその伝説は始まった。
なぜ“J”だったかといえば、当時の国際的なレーシングカー車両規則の“アペンディックスJ(付則J項)”を参照したことがその由来。つまり、もともとはレース参戦も視野に開発されたわけだが、創業者であるフェルッチォオ・ランボルギーニの意にそぐわなかったことから計画は中断。1台だけ作られた試作車も個人の愛好家に売却された直後に事故にあって焼失した。イオタが幻のスポーツカーとされる所以である。
当時、この話を知った一部の熱狂的なファンは、自分が所有するミウラを“J”のように改造して欲しいとランボルギーニに依頼。これに応える形で製作されたのがミウラSVJで、その台数は合計で5台とも6台ともいわれる。
この伝説のネーミングを持つモデルが先ごろ復活した。それがアヴェンタドールSVJである。
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本領発揮はやはりサーキット。限界走行でのパフォーマンスを支えるのは、足元から極められた高い操作性の数々なのだ。
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テストカーは、アルカンターラ素材よりも軽量なカーボンスキンパッケージや、Sensonumオーディオを装備していた。
随所に配された伝統的なモチーフが歴史を物語る
ベースとなったのはランボルギーニのフラッグシップモデルであるアヴェンタドール。そのV12 6.5L自然吸気エンジンの吸気バルブをチタン製として軽量化を図るとともに、アグレッシブなカムプロファイルと組み合わせて従来比+30psの最高出力770psを達成。あわせてランボルギーニ独自の可変エアロダイナミクスである“ALA”を搭載した。
これは、ウイングの角度を変化させる従来の手法ではなく、小さなフラップによって気流の向きを変えることで空力特性を可変とする技術。これに加えて左右でダウンフォースを個別に制御して「空気の力でクルマを左右に曲げる」=エアロベクタリングにより、ハンドルの操舵量が減って走行抵抗が減少、さらなるスピードアップを図っているという。
このように、パフォーマンスを改善する様々なテクノロジーを搭載したアヴェンタドールSVJはニュルブルクリンクのノルドシュライフェで6分44秒97をマークし、量産車の史上最速タイムを更新した。なお、ランボルギーニがSVJの名を用いるのはミウラSVJに続いて2度目のこと。また、アヴェンタドールSVJの生産台数は900台に限定されるので、ミウラSVJほどではないにしても「幻のランボルギーニ」と呼んでも差し支えなかろう。
それにしても、国と環境を変えて2度も、最新のSVJのハンドルを握る機会が訪れるとは想像さえできなかった。しかもポルトガルではサーキットでしかドライブできなかったので、公道上での振る舞いを確認できる機会はまさに、僥倖といっていいだろう。
最新のSVJはどこでも、否応なく人々の注目を集める。高速道路では、追い抜きざまに隣のクルマからスマホを向けられるほど。カウンタックの流れを汲む極端なウェッジシェイプの前後に巨大な空力パーツを備え、リアフェンダー上にはSVJの派手なロゴまで掲げられているのだから、人目を引かないほうがおかしい。
公道でSVJを走らせるのは今回が初めてだが、ドライビングモードをもっともマイルドなストラーダに設定しても乗り心地はかなり硬め。ただし、カーボンモノコックの剛性が舌を巻くほど高いうえ、プッシュロッド式ダブルウイッシュボーンサスペンションが振動を瞬時に収束させるため、決して不快には思えない。
770psを生み出すV12エンジンはレヴリミットの8700rpmまで回せば全身を電流が貫いたかのような刺激を味わえるが、制限速度を守って走れば、それこそボトムエンドでユルユルと回っているに過ぎない。それでも、必要とあらばまたたく間に追い越しを完了するほどのパワーを発揮する。
おそらく、公道を走るアヴェンタドールは持てるポテンシャルの1%も使っていないだろう。しかし、私はSVJがサーキットだけで見せる本当の姿を知っている。繰り返しになるが、パワーは文字どおり圧倒的だし、ハンドルの切れ味も恐ろしく鋭い。
けれども、ランボルギーニが長年磨き上げてきた4WD技術と最新のスタビリティコントロールにより、限界的なコーナリングでも決してリアグリップが失われることなく、タイヤの性能をフルに引き出したドライビングを安心して楽しめる。あのアヴェンタドールを、それも最高峰モデルのSVJを限界付近で走らせる喜びは、スポーツカーファンにとってこの上なく稀有な経験となるはずだ。
しかも、ランボルギーニには50年を越すヘリテージがある。自然吸気のV12エンジンはいうに及ばず、ハニカム形状のメッシュはあのミウラから、Y字形のイプシロンデザインはあのカウンタックから受け継いだ伝統的なモチーフ。SVJというモデル名を含め、ランボルギーニを操ることは輝かしい歴史の一部を受け継ぐことにほかならないのである。(文:大谷達也)
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パワーユニットでは、インテークバルブがチタン製に。シリンダーヘッドのダクトも改良されている。強トルクに対応した7速のISRとコンビ。
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ナビゲーションシステムやインフォテインメントシステムも充実。Apple CarPlayにも対応している。
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エンジンオンで右パドルを引くと、オートマチックモードで変速。両側を同時に引くとニュートラルに。操るのが楽しい。
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表示は賑やか。サーキット走行のログが記録できるテレメトリー機能がオプションで設定。
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基本走行モードは3つだが、加えて好みに合わせたさまざまなカスタム設定が可能なEGOモードも選べる。
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トランスミッションのマニュアル/オート、リバースへの切り替えは、このスイッチで行う。その後はパドルで操る。
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クルマとの一体感を高めてくれるバケットシート。高いホールド性はもちろんだが、デザイン的な華やかさが気分を盛り上げる。
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フルカーボンのリアウイングには、高速域でのキャリブレーションが調整された「ALA2.0」を採用。ダウンフォース、ドラッグなどを走行状況に応じて瞬時に最適化してくれる。
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最適なダウンフォースを獲得する「ALA2.0」システム装備のリアウイング。秘密はその支柱とリアウイング下面にある。
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タイヤはSVJ用にチューニングピレリのPゼロ コルサを装備。
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フロントにはトランクスペースを設定。想像以上に奥行きがあるので、ふたり分の短期旅行なら十分対応してくれそう。
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本領を発揮するのはサーキットだが、街乗りでもその感動の一端は味わえる。
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シザードアからの乗り降りは、それなりに気を遣う。後方視界もかなり制限されるが、それも含めて「スーパー」カーか。
ランボルギーニ アヴェンタドール SVJ クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高=4943×2098×1136mm
●ホイールベース=2700mm
●車両重量=1525kg
●エンジン=V12DOHC
●排気量=6498cc
●最高出力=770ps/8500rpm
●最大トルク=720Nm/6750rpm
●トランスミッション=7速AMT
●駆動方式=4WD ●最高速=350km/h以上
●0→100km/h加速=2.8秒
エンジンオンで右パドルを引くと、オートマチックモードで変速。両側を同時に引くとニュートラルに。操るのが楽しい。●車両価格=5567万2243円