タイトル写真:丸断面のワイヤーを巻いた従来の分布巻きモーター(左)より、角断面ワイヤーを採用した最新のセグメントコンダクター巻きモーターは、小型・軽量、そしてハイパワーを実現する。
低・中速域と高速域で走行モードを切り替えるi-MMD
クルマが排出するCO2の削減規制はグローバルで厳しさを増し、内燃機関の改良だけで達成できない状況がすぐそこまできている。ホンダもすでに、電気の力を借りるハイブリッドカー(以下、HV)開発に注力している。
早期にHVを市販化した同社は、現在3つのハイブリッドシステムを持っている。フィットやフリードなどの小型車に搭載される1モーター+デュアルクラッチトランスミッションの「i-DCD」。レジェンドやNSXなどの大型車に搭載される3モーターの「SH-AWD」。そして最新のインサイトやCR-Vなどに搭載され、今後のホンダHVを牽引するであろう2モーターの「i-MMD」だ。
今回、このi-MMDを知るためのワークショップがホンダ創業の地、静岡県浜松で開催された。
i-DCDのような多段式トランスミッションを備えていないないi-MMDは、電気式CVTとなる。つまり、フル加速しようとアクセルペダルを踏み込むとエンジン回転が先行して発電し、その電力を使ってモーターで加速する。いわゆるラバーバンドフィールも感じられるのだが、こんな使い方は限定的。日常的な発進・加速でその違和感を感じることはほとんどない。
さらに、低速・中速域をシリーズ方式で、高速域をパラレル方式で走行するというように、EV走行からハイブリッド走行までをシームレスに切り替えるシステムである。そのため、ドライバーが現在の走行モードを体感だけで判別することはなかなかに難しい。
ホンダHVの中核を担いラインアップを拡大中
また、このハイブリッドシステムは従来よりもモーターの役割が増しているという点も、特徴として挙げられる。
最新のインサイトに採用される1.5L VTECエンジンはアトキンソンサイクルで、最大熱効率を40%にまで引き上げられている。発電効率を重要視するi-MMD用に開発されたもので、109ps/134Nmを発生する。一方、高価な重希土類を使用しないネオジウム磁石によるモーターは131ps/267Nmを発生……パワーを単純に比較しても、モーターへの依存度の高いシステムであることがわかる。
そんなハイブリッドシステムの核となるモーターは、円柱状の銅線を巻き重ねた従来の「分布巻き」とは異なる。専用に用意した角柱状の銅線をねじり、折り曲げ、そして溶接することでコイルとするセグメントコンダクター巻きステーター製法で組み上げられる。従来より銅線の容積率を飛躍的に向上させ、軽量・小型化とそして高出力を両立させているのである。
現在ホンダのラインアップの中でi-MMDシステムは、車両重量およそ1400kgのインサイトから、1900kg近い重量級のオデッセイまで、幅広いモデルに採用されている。つまり、エンジンやモーターなどの組み合わせによって、高い拡張性を持つのだ。
さらに今後、ラージクラスからスモールクラスまで採用ラインアップを拡大予定で、2019年にモデルチェンジがウワサされるフィットに、このシステムが搭載されると言われている。
現在、そして将来にかけて展開されるホンダの省燃費戦略にとって、i-MMDは重要なハイブリッドシステムになることは間違いなさそうだ。
ところが、である。これだけの優れたシステムながら、ユーザーへのインパクトのあるネーミングとして響いていないのが実情のように感じてしまう。せっかく高度な技術があるのだから、この性能をより明快に拡散するフレーズも必要ではなかろうか。(文:日下部保雄)