いまも名車として語り継がれるモデルたちは、発表当時どのような評価だったのだろうか。それを振り返る連載企画をスタートする。第1回目は2004年秋に登場した5代目となるゴルフの「GTI」だ。その神話はどのように復活することになったのか。(以下の試乗記はMotor Magazine 2005年1月号より)

GTIはいつの間にか目立たなくなっていた

2003年のフランクフルト モーターショーでそのコンセプトが提示され、2004年のパリサロンで量産型のお披露目となった新型ゴルフGTI。今回はそれをいち早く南仏はポールリカールサーキットと、周辺のカントリーロードで試した。

早速インプレッションを報告したいところだが、その前にゴルフGTIの歴史をおさらいしておこう。初代ゴルフの登場は1974年。そしてその2年後の1976年には、GTIが早くもラインナップに加わっている。1.5Lのキャブレター仕様で出力も70psそこそこだった標準モデルに対し、1.6Lエンジンをベースに圧縮比を9.5にまで高め、メカニカルインジェクションのKジェトロニックで110psまでパワーアップされた初代GTIは、当時、「夢のような高性能車」と言われた。

しかし、この初代GTIはついに日本国内に正規導入されることはなく、並行輸入で少数が持ち込まれたに過ぎない。そしてその希少性が日本での神話作りをさらに促進させていったのだ。

1983年にゴルフは2世代目へと進化し、1985年についに念願のゴルフⅡGTIが日本に正規導入される。当初は8バルブの105psと初代よりパワーが落ちたこともあって注目度はそこそこだったものの、1987年に上陸したバージョンアップ版は16バルブ化されて125psを実現。再びGTI神話を受け継ぐこととなる。

このように初代から2代目と二世代にわたるGTIで、日本でもその名前は高性能の代名詞として定着した。しかし神話と呼んで良いのはここまでだろう。その後3~4代目ゴルフにもGTIは存在していたが、ゴルフ本体が大きく豪華に様変わりしていく中にあって、より一層扱いやすくなり、標準エンジンのパワーが目覚ましく向上したことも手伝って、その高性能ぶりは以前ほど目立たなくなっていったのだ。

これを補完する意味で、VR6やR32のような大排気量エンジンを与えたモデルも投入されて来たが、GTIほどのネームバリューを持つには至っていない。

ゴルフGTIは全世界148カ国で販売され、初代から4代目までの累計生産台数は約150万台にも及ぶ。欧州では93%がGTIの名前を認識しているという調査結果もあるそうだ。GTI神話はドイツや日本で局所的に起こったのではなく、世界的なムーブメントだったのである。ならばGTIのバリューを有効に使うべき。かくしてフォルクスワーゲンはゴルフGTIの先祖返り作戦に出た。そしてその結果開発されたのが、ゴルフⅤに追加される新型GTIというわけなのである。

ゴルフV GTIは昨年フランクフルト モーターショーで提示されたデザインスタディほぼそのままの形だった。標準仕様がバンパーでグリルとアンダーインテークのふたつの開口部を明確に仕切っているのに対し、GTIはブラックのガーニッシュが両者をつなぐ構成となっており、グリルの下面には「お約束」の赤いピンストライプが入る。

開口部全体は両サイドのダミーホール(一部がドライビングライトのベゼルとなる)を含め、樹脂成型のハニカムメッシュで覆われた。そのバンパー全体も標準仕様より大きく下端が低い位置から始まるスポイラー形状だ。これまでのGTIはスポイラーやピンストライプで独自性を静かに主張するに過ぎなかったが、新型はフロントセクションを大幅に作り替える大胆な変身を試みている。ちなみに、これにより全長は+10mmの4216mmとなった。

ヘッドライトはハウジング内がダーク仕上げとなっており表情をより精悍にしている。ライトの種類はハロゲンが標準でキセノンがオプションとなる模様。キセノンを選んだ場合はハウジング内がブライトクローム仕上げとなる。

サイドビューは17インチが標準となった専用デザインのアルミホイール以外、あまり大きな違いはない。ちなみに試乗車にセットされていたのは225/40R17のBSポテンザRE050。オプションで225/40R18のミシュランパイロットスポーツも用意される。サイズアップされたタイヤに合わせ、ブレーキもディスクが16インチへ大型化され、赤くペイントされたキャリパーが組み合わされる。標準仕様ではマット仕上げだったBピラーが、同じ黒でも光沢処理となっているのもGTIならではだ。

リアはバンパー下の黒いアンダーカバー部分のデザインが異なり、より低い位置まで垂直に引き降ろされている。標準仕様はエキゾーストパイプを隠していたが、GTIは左側に70mmのテールパイプを2本覗かせ、ルーフスポイラーも235km/hの最高速に合わせて大型化されたものが採用されている。

ボディは5ドアと3ドア(フォルクスワーゲンの表記では4/2ドア)の2種類を用意。日本には当面5ドアのみの導入を検討しているそうだ。

インテリアでは新開発のシートの採用が目に付く。サイドサポートなの盛り上がりがより明確なスポーツタイプだが、一見すると一体式に思えるヘッドレストは上下のアジャスト機構を備え、むち打ち防止のアクティブヘッドレスト機能も盛り込んでいる。ちなみに標準仕様はファブリック仕立てだが、生地に初代GTIに用いられた懐かしいチェック柄を採用。もちろんオプションでレザー仕様も用意され、ちらはアンスラサイトとベージュの2色だ。

ハンドルは伝統の3本スポーク。革巻きが標準でグリップ部にはディンプル加工が施されている。下側のスポーク部分にGTIの文字が刻まれたアルミプレートが付くが、この他にもシフトレバーやダッシュボードなどにアルミを多用し、全体をシャープな雰囲気にしているのがGTIのインテリアの特徴だ。

画像: 5代目ゴルフGTIのインパネ。専用のプログラムが組まれたパワーステアリングは操舵フィールもよく、燃費にも貢献した。

5代目ゴルフGTIのインパネ。専用のプログラムが組まれたパワーステアリングは操舵フィールもよく、燃費にも貢献した。

画像: 200psというパワーもさることながら、280Nmのトルクを幅広い回転数で発揮することに驚かされた。

200psというパワーもさることながら、280Nmのトルクを幅広い回転数で発揮することに驚かされた。

痛快な高性能がGTIのアイコンとともに帰ってきた

サスペンションはフロント/ストラット、リア/マルチリンクの構成はそのままに15mmのローダウン。タイヤサイズの違いなどもあり全体としては19mmの低下だが、この車高は日本仕様のGTとほぼ同一である。ただし、チューニングはGTI独自。スプリング/ダンパーともより締め上げられ、スタビライザーも20%の剛性アップが図られている。

エンジンはGLiやGTの1984ccガソリン直噴FSIにインタークーラーターボを組み合わせて200psを発生させるのだが、まずこのパワーフィールに驚かされた。ターボということで、特定の回転域からグイッとトルクが立ち上がるメリハリのあるパワー感を期待していたのだが、このエンジンは良い意味でまったくターボらしくない。非常に低い回転域から十分なトルクを感じ(スペック上は1800〜5000rpmの間で280Nmの最大トルクを発生する)させるのだ。

それだけだったら最近多い低圧ターボの一種と了解できるのだが、FSIターボは回転の上がり方も極めてシャープだし、アクセルの微妙な調節にもタイムラグのない鋭い反応を見せる。つまりレスポンスが非常に良いのだ。しかも5000rpmから上では自然吸気の「カムに乗った」ような一際シャープな盛り上がりも見せ、レブリミットの6500rpmを越えてもなお、まだ回ろうとする。

無機質なタービンノイズはまったく聞こえず、室内に満たされるのはいかにも4気筒らしいビートの効いた軽快な排気音。知らされずに乗ったら、たぶんこのエンジンはターボではなくファインチューンの施された4気筒NAことだろうだと思う。そんな仕上がりである。

画像: フランスのポールリカール サーキットでも試乗。平坦でエスケープゾーンは広く、変化に富んだコーナーを走ることで、GTIの実力を十分に知ることができた。

フランスのポールリカール サーキットでも試乗。平坦でエスケープゾーンは広く、変化に富んだコーナーを走ることで、GTIの実力を十分に知ることができた。

トランスミッションは6速MTと6速DSG。すでにアウディに搭載されている、あのデュアルクラッチで、これがゴルフとしては初めてガソリンエンジンに組み合わされたことも(本国にディーゼルとDSGの組み合わせはある)大きなニュースと言える。シフトアップ時もトルクの途切れがまったくないDSGはやはり大したもので、左でダウン、右でアップのパドルシフトを操っていると、まるでテレビゲームのバーチャル感覚かの如き変速を味わえる。

フォルクスワーゲンの発表では0→100km/h加速はMTが7.2秒なのに対し、DSGは6.9秒と実測値も速い。Sモードにも感心した。自動シフトのスポーティモードだが、これはブレーキを踏んで速度を落とすと、それに合わせて自動でブリッピングしながら次に即座に鋭い加速を得られるギアを維持する。峠道をそこそこのペースで流すような場合は、これが何ともお気楽に速い。GTIはイージーとファントゥドライブを一台で叶える貴重な存在なのだ。

ハンドリングはゴルフの素地の良さがそのまま生きていて、正確で安定感のあるものだった。サーキットのタイトターンでやや強引なターンインを試みると「そんな荒っぽい運転はイケマセン」とばかりにアンダーステアが強めに出ることはあるが、それもいきなり腰砕けになるのではなく、キチンとレスポンスする領域を残した良質なアンダーステアだ。

また、高速コーナリング中にアクセルから力を抜くと、スーッとノーズがインに向く、タックインを利用した姿勢変化も楽しめる。そういった現象が起こる際に十分な予兆を示し、姿勢変化自体も極めて穏やかだ。

この信頼感に裏打ちされたファンtoドライブこそが新型GTIの最大の魅力だ。オプションの18インチタイヤを履いていても乗り心地は十分に許容範囲。標準の17インチはよりマイルドで、国内仕様のGTよりしなやかに感じたほど。これなら低速走行を強いられる日本でも不満はない。

GTIはゴルフの高いシャシ性能をさらに楽しむ方向で仕立て直された魅力的なモデルだ。日本導入は春。欧州で発表された価格は2万4200ユーロからなので、4ドアで多少高くなったとしても300万円台の中盤に落ち着くものと考えられる。内容を考えるとこれはかなりのお値打ち価格と言えそうだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2005年1月号より)

ヒットの法則のバックナンバー

5代目 ゴルフGTI 4ドア(欧州仕様 2004年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4216×1759×1466mm
●ホイールベース:2578mm
●重量:1391[1372]kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:200ps/5100rpm
●最大トルク:280Nm/1800-5000rpm
●トランスミッション:6速DSG[6速MT]
●タイヤサイズ:225/45R17
●0-100km/h加速:6.9[7.2]秒
●最高速:233[235]km/h
※[ ]内は6速MT車のデータ

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