「コンペティション」と銘打っている以上、一般道レベルではもしかすると、その持てるポテンシャルの「片鱗」すら見せてはくれないのかもしれない。けれどGTサルーンとしての完成度は抜群に高く、しかもブランドとしての強さもまた別格だ。「普通のM5」並みに優れたドライバビリティと快適な空間は、普段から乗り回すのに最適で快適この上ない。そして「普通のM5」では満足できない刺激が欲しいなら、クローズドコースで思い切りアクセルペダルを踏み込めばいい。(Motor Magazine 2019年10月号より)

M5でも十分なパフォーマンスがさらにUP

話は1年ほど前に遡る。BMW社の副社長ペーター・クイントゥス氏と一緒にM4 GT4でレッドブルリンクを走ったときのことだ。ペーターが突然、「M5コンペティションはもう乗ったか?」と尋ねてきた。もちろん日本では、まだ発売になってない頃だ。そのため「まだ……」と答えると、ペーターは俄然テンションを上げて言った。

「あれはいいぞぉ! 車高は7mm低くなり、バネとダンパーを固めて、フロントまわりの剛性アップもしてあるし、エンジンもパワーアップしてるんだ」と、とてもお気に入りの様子だ。「早く乗るといい」と付け加えてくれたけれど、なにしろ日本未導入では、なかなかチャンスが巡っては来ない。ようやく今回、M社副社長が直々オススメのM5コンペティションに、試乗することができたのだった。

普通のM5でも、そのパフォーマンスは手に余るほど。だから、もうそれ以上は望む必要などないと思っていたが、実際に乗ってみたら、なるほどペーターが熱っぽく勧める理由がよくわかる。「コンペティション」になっても開発コードはM5と同じ「F90」のままだ。パワーアップしたエンジン名も「S63B44B」で変わらない。車重はやはり同じ1950kgだが、0→100km/h加速は3.4秒から3.3秒に0.1秒短縮されている。

この領域で0.1秒タイムを刻むのは大変なことだが、エンジンの出力アップが効いていることは間違いない。最高出力は、M5の441kW(600ps)/6000rpmに対し、コンペティションでは460kW(625ps)/6000rpmまで引き上げられた。最大トルクの値は750Nmと変わらないが、発生できる回転数が高回転まで260rpmほど伸びたことによって、より刺激的な走りを楽しむことができる。

もうひとつ注目したいのは、Mスポーツエキゾーストシステムが標準装備されていることだろう。このシステムはM5でもオプションで装着可能だが、デュアルタイプで合計4本出しのエキゾーストテールパイプまでハイグロスブラック仕上げとなるそのルックスは、実に精悍だ。

Mサウンドコントロールスイッチを切り替えれば、走行モードに合わせて音質を調律する機能も備わっている。実は車内のスピーカーを使って「スポーツサウンド」を演出しているのだが、違和感はまったくない。むやみに外に高性能ぶりをアピールすることなく、ドライバーの気分を盛り上げてくれる、とてもスマートなデバイスだと思う。

画像: M5の0→100km/h加速3.4秒を0.1秒短縮。

M5の0→100km/h加速3.4秒を0.1秒短縮。

渋くきらめくハイグロス仕上げのパーツ類を装備

マフラーと同様に、M5コンペティションでは随所に、ハイグロスブラック仕上げのパーツを装備している。ダブルバーのMキドニーグリルを始め、ドアミラー、Mサイドギルと呼ばれるフロントフェンダーのエアアウトレット部、トランクリッド後端のリアスポイラー、リアバンパー下のスカートなどが挙げられる。

コンペティションが履くアルミホイールは、本国でも標準装着の20インチ。日本仕様のM5も20インチを履いているが(本国のスタンダードは19インチ。20インチはオプションだ)、そちらはダブルスポークタイプ。コンペティションは、よりソリッドなスポーティ感を漂わせる、Y字スポークの仕様を採用している。同じサイズでも見た目の印象の差は大きい。

車高は、スペック表ではM5と同じ1480mmだが、厳密には7mmほど低く設定されているという。数値的にはわずかな差だが、実車を見ると確かに、より低く精悍な印象が漂うから不思議だ。

画像: 新開発のターボチャージャーを装着、ノーマル比25psを上乗せした4.4Lツインターボ。

新開発のターボチャージャーを装着、ノーマル比25psを上乗せした4.4Lツインターボ。

大人のスポーツサルーンとして高いクオリティ感を演出

乗り込んでみると、雰囲気はまさにGTサルーン。走り出す前からコンペティションであることを強く意識させてくれるのは、シートベルトだろう。「M」のテーマカラーである3色のストライプが入っていて、ノーマルのM5に対する確かな優越感を得ることができそうだ。

エンジンをスタートしても、エンジン音などに格別コンペティションであることの主張は感じられない。低回転域のトルク特性はほとんど変わらず、とても乗りやすいことに気づく。しかも、足が固めてあるにもかかわらず、決して乗り心地が悪くない。フリクションが少ないためだろうか、おかげでスムーズに足が動くのだ。

そのうえ適度な軽快さまで兼ね備えた動きは、実際のサイズよりもボディが小さく感じるほど。バネ下の無駄な動きが少なくなったおかげで、とてもすっきりした乗り味に仕上がっている。

こうした官能的な味付けも含めて、実はより洗練された、熟成ぶりが印象に残る。コンペティションという名前が付くだけでよりスパルタンになったように想像していたのだが、実は大人のスポーツサルーンとしてのクオリティ感まで、しっかり磨き抜かれていた。

画像: 8速Mステップトロニックには、「ドライブロジック」を採用。シフト時間の制御速度を、3段階に変更できる。

8速Mステップトロニックには、「ドライブロジック」を採用。シフト時間の制御速度を、3段階に変更できる。

Mサウンドコントロールスイッチをオフにしておけば、意外なほど静かに乗れるので、普段の足に使ったとしても十二分に快適だ。ある意味、リムジン的なポテンシャルさえ秘めている。シフトの変速スピードを変えられるドライブロジック付き8速DCTは、100km/hでのエンジン回転数が1500rpmほど。ロングツーリングでの好燃費も期待できそうだった。

エンジンは6750rpmからがイエローゾーン、7200rpmからレッドゾーンが始まるが、6000rpmを超えてからも元気良く回るのが特徴だ。M5は6200rpmくらいでシフトアップすると速さが際立っていたが、コンペティションはその「美味しい」領域がもう少し上になりそうだ。

コーナリングは軽快で、エンジンも高回転域まで元気よく回ってくれる。そのドライブフィールは、重量級サルーンなのに、まるでライトウエイトスポーツのように一体感溢れるものだ。サーキットならば、その持てるポテンシャルを、目一杯使い切って、楽しむことができるだろう。副社長のペーターが伝えたかったのはおそらく、そういうさらに刺激的な「コンペティション」ならではの一面だったのだと思う。

最高速は250km/hでリミッターが作動するが、Mドライバーズパッケージ(32万9000円)装着車は305km/hまで跳ね上がる。サーキットを走るなら、これはぜひ装備しておきたい。

さらに、タイヤの空気圧と温度を管理するTPMSも必須だ。これは本国でもオプションだろうが、日本仕様にもMモデルなら標準装備してもらいたいパーツ。サーキットを走るときだけ役に立つのではない。なにしろMモデルはランフラットタイヤではないので、タイヤコンディションの管理は安全性向上に直結するのだ。(文:こもだきよし)

試乗記一覧

■BMW M5コンペティション主要諸元

●全長×全幅×全高=4965×1905×1480mm
●ホイールベース=2980mm
●車両重量=1950kg
●エンジン= V8DOHCツインターボ
●排気量=4394cc
●最高出力=625ps/6000rpm
●最大トルク=750Nm/1800-5860rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速DCT
●車両価格(税込)=1823万円

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