振り返れば2代目ボクスターでは発表当初から2.7Lの「ボクスター」と3.2Lの「ボクスターS」がラインアップされていたが、そこにはどんな意味があったのか。日本に上陸したばかりの2005年春、「素」のボクスターを石川芳雄氏がテストしているので、その試乗記を改めて紹介しよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年5月号より)

ボクスターの進化にポルシェの未来を見る

涙目改め丸目となったヘッドライトは、正確には下側が平らに近いオムスビ型。911のどこかのっぺりした顔立ちよりも、凛々しさが感じられて僕は好感を抱いた。

このフロントまわり以外、先代とあまり変わらないと言われる新型ボクスターだが、全体にボリューム感が増しているし、テールライトやエアインテークなども変わり、新しさは十分に感じられる。

バーグリップ式に改められたドアハンドルを引いて室内へ。先代よりも着座位置が低くなったという予備知識は得ていたが、元々ボクスターはワイド&ローを地で行くスポーツカー。大きな違いは感じない。

それよりも目を惹き付けるのは、やはり一新されたインパネだ。中央に構える大径タコメーターの左に速度、右に水温と燃料のコンビメーターが重なる3連デザインは変わらないものの、メーターナセルは右肩が伸びたティアドロップ形状から、ダッシュボードの凹みを半円形のバイザーで覆う形に改められた。

メーターバイザーの後半をメッシュ構造とし、向こう側が透けて見えるあたりにボクスターならではの「軽さ」を感じさせはするものの、カタチとしてはオーソドックスで、しかもかなり豪華。それは911と同じ形状のセンターコンソールにも言えることで、新型ボクスターはそこにオーディオ、空調、その他の機能スイッチを整然と並べている。

以前のボクスターはこれら操作部分を高い位置に集め、スイッチの形状にも変化を持たせて直感的に扱えるようになっていたが、新型はあまりに整然としていて、操作部位を探す場面がままあった。僕が以前からポルシェの魅力と捉えていた「走りに集中できるコクピット」からはやや外れてしまった感じで淋しい気もするのだが、ベースグレードのボクスターは以前より価格が安くなり、しかもクオリティが大幅に上がったのだから、これを歓迎しない人はいないだろう。

機能面ではテレスコピックのみだったステアリングコラムに新たにチルト機構が加わった。ベストポジションを作り出しエンジンスタート。クラッチの重さや節度感は適切で、動き出す瞬間は明確だし、ステアリングも剛性が高く操作感はソリッド。この辺に早くもポルシェらしさが伝わって来る。

吸排気系のリファインにより12psの出力向上を遂げた2.7Lのフラット6は、掛け値なしに過去最高の出来だ。低回転域から十分なトルクがある上に、高回転域の伸びやパンチも増強されている。それに加えて、排気音が以前にも増して澄んだものとなり、5速MTを介してパワーを紡ぎだすのが最高に楽しい。

画像: 先代は986型、新型は987型。正常進化形だが、シャシ剛性が大幅に向上するなど、細部にわたり変更が加えられ、80%ものパーツが新しくなった。

先代は986型、新型は987型。正常進化形だが、シャシ剛性が大幅に向上するなど、細部にわたり変更が加えられ、80%ものパーツが新しくなった。

「ベースモデルこそがベストバランス」になった

ボクスターはデビュー当初の2.5Lが、ポルシェの名に相応しくないほど凡庸で、「買うならS」の風潮が強かった。が、途中で2.7Lに昇格したあたりで、「標準型のボクスターもあり」という評価になった。そして、今回は「ベースモデルこそがベストバランス」になったと僕は感じている。

なぜならば、今回3.2LのボクスターSと乗り較べても、エンジン自体の躍動感や回した時の快感はボクスターの方が強かったからだ。Sが最新のAT(あるいはAMT)と比較すると段数も少なく、変速レスポンスももはやとりたてて鋭いとは言えないティプトロニックS仕様だったということもあるが、ともかく標準型のボクスターに5速MTのコンビは必要にして十分以上のパワーを、レスポンスの良いアクセルで自在に引き出せる楽しみに満ちている。

MTの出来もいい。シフトノブは以前の細身の掌にフィットするものから、太めのややゴツいデザインになったが、握り具合は悪くない。それにストロークがやや詰められ、ゲート感はさらに明確になりサクサクと決まる。

操縦性にも進化の跡は顕著だ。まずボディ剛性がさらに向上した印象を受けた。ボクスターは2.7Lが登場した時にシャシも大幅にリファインされ、オープンにありがちなスカットルシェイクなどが大きく減じられたが、2世代目はそこからさらに進歩した感じだ。もはやオープンだからと諦めなければならない緩さは完全に払拭されている。

このことが明確に感じられるのが乗り心地。先代は大きな入力に対してまだほんの少しブルンとした余韻を伴っていたが、それが消えてシャキッとした。それでいてサスペンションの設定はしなやかさを増し、全体にスムーズさを増しているのだ。

屋台骨がしっかりしたことで、ハンドリングも洗練された。特にフロントタイヤの路面へのコンタクト感が増したのが最大のポイントで、試乗車はシリーズ中最も大人しいサイズを履くにもかかわらず、実にキレのよい操縦性を示した。回頭性の良さと身のこなしの軽快さはまさしくミッドシップカーのそれで、しかもコーナーへのアプローチでもフロント荷重をあまり厳密に求めて来ない寛容さも備わった。

このコントローラブルさを、ソリッドな操作系とともに存分に楽しめるのが、F新型ボクスターの最大の魅力だ。クルマとドライバーの一体感は以前にも増して強くなり、ヒラリヒラリとコーナーをクリアする様はまさしくスポーツカーである。

今回、ボクスターにも911に装備されるPASMが採用された。しかし乗ってみるとそれは必ずしも必要ではなく、むしろ標準型のボクスターのバランスの良さが際立つ結果となったのである。それは、このクルマの持つミッドシップレイアウトの優位性を端的に示す事例だと思う。

もちろん今後も911は進化し続けるはずだ。あのクルマがポルシェの顔となっているのは事実で、それはこの先も当分は変わらない。しかしその一方で、このボクスターの進化ぶりに、ポルシェの未来が垣間見えた気もした。世代的には新しいこのスポーツモデルを、ポルシェは今後どのように育てるのか。それがはっきりするのは、秋のフランクフルトショー。「ケイマン」と呼ばれると聞くボクスタークーペによって詳らかにされるはずだ。(文:石川芳雄)

画像: 911風デザインを巧みに採り入れながらも、スポーツカーらしい軽快感を演出するコクピット。スタンダードのボクスターはブラックメーターとなる。

911風デザインを巧みに採り入れながらも、スポーツカーらしい軽快感を演出するコクピット。スタンダードのボクスターはブラックメーターとなる。

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ポルシェ ボクスター(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4330×1800×1295mm
●ホイールベース:2415mm
●重量:1380[1410]kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:2687cc
●最高出力:240ps/6400 rpm
●最大トルク:270Nm/4700-6000rpm
●トランスミッション:5速MT[5速AT]
●最高速:256[250]km/h
●0→100km/h加速:6.2[7.1]秒
●車両価格:569万円[611万円](2005年当時)
※日本仕様、[ ]内はAT仕様

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