5代目E90型BMW 3シリーズの登場はBMWのモデルラインナップにも大きな刺激と変化を与えている。大幅な進化を果たした3シリーズは5シリーズにどこまで近づいたのか。3シリーズと5シリーズの関係にどんな変化があったのか。当時のレポートを紹介しよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年6月号より。タイトル写真は330iと530i)

期待は大きいものの、大きくなったボディサイズに不安もあった

欧州でデビューして以来、絶賛の声があり前評判も高かっただけに、その日本上陸を首を長くして待っていた新型3シリーズ。だが、期待も大きいが実は疑問というか不安も半分あった。

その要因は何と言ってもボディサイズ。「ゼンプク1815mm」と聞いた瞬間、「どーなのよ、それって?」と心配になった。日本の交通事情における取り回し性は悪くならないのだろうか。それを言ったら5や7シリーズなんてもっと大きいじゃないか、という話にもなるのだが、3シリーズには「ジャストサイズ感」というのがある。特に女性は扱いやすさを多いに気にするし、たとえば我が家のようにガレージの全幅が2mと制限されているとなると数cmの差が車庫入れのしやすさにダイレクトに反映される。

そして、それ以上に気になるのがハンドリング面への影響だ。5シリーズの素晴らしいコーナリング性能を考えれば3シリーズも悪いわけはないだろうが、ボディサイズが大きくて重くなれば、少なくとも従来のような軽快な走りはスポイルされてしまうのではないか。それが最大の心配事であった。

新型330iは4525×1815×1440mm。ちなみに従来型330iのスリーサイズは全長×全幅×全高は4470×1740×1415mm。そして530iは4855×1845×1470mmとなっている。

明らかに従来モデルよりひと回り、あるいは数字から受ける印象としてはふた回りくらい大きくなっている。もっとも、このスペックは原稿を書く段になって調べたもので、試乗の段階ではあくまでもひと足先に耳に入った全幅の数値と視覚的印象しかなかった。

画像: 330iは標準仕様の足回りでも素晴らしいパフォーマンスを見せた。オプション設定のスポーツサスペンション仕様にも興味が湧く。

330iは標準仕様の足回りでも素晴らしいパフォーマンスを見せた。オプション設定のスポーツサスペンション仕様にも興味が湧く。

画像: 威風堂々とした走りを見せる530i。

威風堂々とした走りを見せる530i。

スポーツセダンとしての魅力は330iのほうが上

さて、期待と不安を胸にまずは330iのステアリングを握る。ニューモデルなのに、妙に親近感というか見慣れた感がある。というのもマテリアルこそ違うが、ダッシュパネルのラインやスイッチ類のレイアウトなど基本的デザインは5シリーズのものと似ているのだ。つまり、上級サルーンの落ち着きにスポーティテイストのエッセンスが加えられた雰囲気である。ドライバーズシートに座っても、シートからドアまでのリーチやカップルディスタンスもそれなりにあり、先代よりゆったりした室内空間を実感する。

大げさと思われるかもしれないが、タイヤが路面を転がりだしたわずかな距離だけで、その乗り味に驚かされた。要するに快適なのだが、その中身を説明するのが非常に難しい。1シリーズにも5シリーズにもないテイストで、誤解を恐れず言うならば、ある意味で「BMWらしくない」。なぜなら、走り出しの印象は「スポーティ」ではなく「ラグジュアリー」だったからだ。

これまでのBMWに特有なピンッと張ったソリッドな乗り味ではなく、しっとり感がある。足元の感触はソフトなのだが、だからといってフワフワしたようなところは微塵もなく、ボディのガッチリ感もちゃんとある。

高速道路に入ると、さらにその感覚は顕著になった。今までに感じたことのない「粘り」があり、あらゆる入力もしなやかにかわしていく。突き上げ感のない「丸い」感触の当たりは、比較的ソフトなラグジュアリーカーの印象。でも、スッと瞬時に収束するその様は、ダンピングが効いたスポーツカーのそれ。ヒタヒタと吸いつくようなフラット感と、クッションの効いた物腰。

「いったいどうなってんのよ、このサスペンション!」いや、文句を言ってるわけじゃありません。従来は背反し、両立は難しいと思っていた要素が同居している驚きに、適切な言葉を失っただけです。しかも、履いているタイヤは17インチのランフラットなのに、特有のゴツゴツ感もない。タイヤの進化に加え、1シリーズ同様、ランフラットタイヤが全車標準装備されたことで、タイヤとサスペンションのマッチングもしっかりと取られているのだろう。

ステアフィールも極めて滑らか。そう、5シリーズより穏やかな気もするが、と思ったところで530iと乗り換えてみた。操舵力は1→3→5の順に軽くなっており、このあたりはセグメントのポジショニングと一致している。

一方、高速道路のレーンチェンジでゆっくりと切った時の最初の応答性などは、330iの方が530iより穏やかだ。530iは高速道路を運転していてもアクティブステアリングの存在感が十分にあるが、330iはハンドルを握ってからしばらく気づかなかったほどで、速めの操舵スピードで切った際に、ようやく「アクティブステアリングが装備されているんだ」ということを認識した次第である。

330iに乗っていたら、そのあまりの快適な走りに「これじゃ530iの出る幕なしじゃないか」と密かに思っていたのだが、高速道路のクルージングに関して言えば、やはり530iの方が威風堂々とした落ち着きのある乗り味となる。おそらくは、ホイールベースの長さからくるフラット感によるのだろう。長距離ドライブをしたら、530iの方が疲れないかなー。

でも、乗り心地の良さでは330iも負けてない。5シリーズに投入された技術が熟成されて、それがしっかりと3シリーズへ落とし込まれているということが実感できる。

さて、高速道路〜一般道を経由して箱根のワインディングロードに入り、再び330iのステアリングを握る。ここでは、先ほどまで影を潜めていたアクティブステアリングが俄然活躍する。少ない舵角で、ノーズがクイックイ入っていく。その動きにまったく遅れを見せず追従するボディ。ガッシリと路面を掴む踏ん張り感がありながら、しなやかさもあり、ロールは抑えられているのに懐の深さがある。コーナーで身を翻すような軽やかなフットワークは、まさしくスポーツカーの動き。

そして、それ以上に魅力を感じたのがエンジン。どこまでも上品さは失わないのだが、アクセルを踏むほどに「スカ〜ン」と突き抜けるような爽快感が広がる。「チョー気持ち良い」のコメントをパクらせていただきたいくらいの、アスリートぶりだ。

実は、試乗前に新型3シリーズのレクチャーは受けていなかったので、この3Lエンジンが新型だということを知らなかった。一般道から高速にかけても、やけに気持ち良いな、軽やかだなとは思っていたが、どちらかというと乗り味そのものに驚き、意識の多くがそちらへ集中していたせいで、正直に言うとまったく別モノのエンジンであるという認識にまでは至らなかった。むしろエンジンに関して言うならば、その静粛性の方が印象に残ったほどだ。しかし高回転まで回した時の、コーナーとコーナーの間での加減速、アクセルコントロールなどでタコメーターの針を高めにキープしてみると、あらゆる瞬間で、五感に響きわたるエモーショナルなフィーリングがそこにはあった。

従来モデルの3シリーズに関していえば、シルキー6と呼ばれる直6を搭載するモデルこそがBMWの真骨頂だと思う反面、4気筒エンジン搭載車が備える軽やかさにも大きな魅力を感じていた。だが、この新型6気筒エンジンを搭載するニュー3シリーズに乗ってしまったら、もう、「無理をしてでも6気筒にすべき!」と言いたい。「どーだ! V6でこんなワザはできるまい!」と言わんばかりの、直列6気筒にこだわったBMWの意地とプライドが感じられるからだ。

さて、改めて530iに乗る。ワインディングでも何度もハンドルを握り、上級サルーンとは思えないコーナリング性能は、いまさら確認するまでもないと思っていたのだが、完璧に330iの圧勝である。

ついこの前まで、いやわずか数分前、330iで走るまでは、530iがスポーツセダンの走りのリファレンスだと感じていたほどの存在だったのに、330iの後に乗ると、ハンドルを切り返した時のボディの動きをやや緩慢に感じたり、エンジンフィールに物足りなさを覚えたりしてしまう。「あんなに絶賛していたのに、いきなりの掌返しかよ!」と言われそうだが、実際、330iの後に乗るとそう感じられてしまうのだ。つまりは、330iの走りの質がいかに凄いかということをご理解いただくしかない。

330iのアクティブステアリングは、ギアレシオが穏やかというだけでなく、その特性も530iとは異なることも、ワインディングの操舵フィールで実感した。これはポジショニングの違いというよりも、5シリーズからさらに熟成された結果なのだろう。

当初のワタシの心配は完全に払拭された。新型33iにはちゃ〜んとBMWの「駆けぬける歓び」が備わっている。試乗を始めた当初は、新型330iは5シリーズのスケールダウンモデルという印象も強かった。だが、3シリーズの「キャラクターが立ったスポーツセダン」というスタンスは新型でも変わっていなかった。

そして、やはりBMWの本質は5シリーズではなく3シリーズに、そして今回のモデルでいうならば330iにこそ凝縮されているのだということも、確信させられたのであった。(文:佐藤久実/Motor Magazine 2005年6月号より)

画像: 330iのメーターパネル。スピードメーター/タコメーターとも外周部に溝があり、クルーズコントロールの車速設定値や水温によって異なるゼブラゾーン、レッドゾーンが変更される。

330iのメーターパネル。スピードメーター/タコメーターとも外周部に溝があり、クルーズコントロールの車速設定値や水温によって異なるゼブラゾーン、レッドゾーンが変更される。

画像: 530iのメーターパネル。5シリーズのメーターリングは3シリーズ用よりも太い。

530iのメーターパネル。5シリーズのメーターリングは3シリーズ用よりも太い。

ヒットの法則のバックナンバー

BMW 330i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:250ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:625万円(2005年当時)

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