12月に入るのを前にスタッドレスタイヤに履き替えたという人もいるだろう。しかし2018年の規制改正により、場合によってはスタッドレスタイヤを履いていても通行できないこともあるという。そこで、あらかじめ知っておきたいチェーン規制と、緊急時に役立つ布製チェーンについて解説しよう。

ポイントは「大雪に関するの緊急発表」と「チェーン規制の標識」

2018年末に突如、国土交通省からある通達が出された。これが自動車業界を震撼させたことを覚えているだろうか。

それは新たな「チェーン規制」。これまでスタッドレスタイヤを4輪に装着していればチェーン規制下でもほとんどの場合通行することができた。まれにタイヤチェーンの装着を求められる場合もあったが、よほど降雪量が多いか、もしくは凍結路面の場合などに限定されていた。

スパイクタイヤからスタッドレスタイヤに切り替わったのは、法律が施行された1990年からで、これ以降雪道でチェーンを付けたことがないドライバーも多いだろう。スタッドレスタイヤを装備していればタイヤチェーンを持っていない人も多かったはずだ。

だが近年、想定以上の積雪によりスタックした車両が、交通をマヒさせてしまう事案が各地で発生。数日間も車中泊を余儀なくされる深刻な事態にもなり、命の危険を感じるほどの渋滞は社会問題になった。

大雪で怖いのは、停車したまま暖を取るためエンジンをかけっぱなしにすること。雪がクルマ全体を包み込んでしまうと排出ガスが室内に入り込んでしまい、そこに含まれる一酸化炭素による中毒で死亡に至ることがある。

こうした事態を深刻に受け止めた国土交通省は2018年、「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」の一部改正を発表したのだ。これによって「タイヤチェーンを装着していない車両通行止め」の標識が新たに定められ、「大雪特別警報や大雪に対する緊急発表」があった場合、この標識が示す区間ではタイヤチェーンを装着しないと通行できなくなった。

画像: 新たなチェーン規制の標識。この標識がある区間は、「大雪特別警報や大雪に対する緊急発表」があるとタイヤチェーンを装着しないと通行できない。スタッドレスタイヤを装着しているだけでは通行できない。

新たなチェーン規制の標識。この標識がある区間は、「大雪特別警報や大雪に対する緊急発表」があるとタイヤチェーンを装着しないと通行できない。スタッドレスタイヤを装着しているだけでは通行できない。

この話題はセンセーショナルに伝えられたこともあって、降雪地域に住む人やウインタースポーツを楽しむ人に衝撃が走った。最初の報道の一部が断片的だったこともあり「雪道でタイヤチェーンを装着しないと通行できない」と誤認した人も多く、カー用品店にチェーン購入希望者が多く訪れたことでも話題になった。

そのユーザー心理は理解できる。なにしろこれまではスタッドレスタイヤを装着していれば、通行を規制されることはほとんどなかったからだ。

この新たな標識のポイントは「大雪特別警報や大雪に対する緊急発表」が行われると、タイヤチェーン非装着車は「規制区間」を通行できなくなるということ。標識があっても緊急発表さえなければ、通常どおりスタッドレスタイヤで走行可能だ。規制区間は高速道路だけでなく一般道にも設定されているので、列記していこう。

■高速道路でチェーン規制標識があるのは7路線

1、新潟県・長野県E18上信越道の信濃町IC〜新井PA(上り線)の24.5km
2、山梨県E20中央道の須玉IC〜長坂ICの8.7km
3、長野県E19中央道の飯田山本IC〜園原ICの9.6km
4、石川県・福井県E8北陸道の丸岡IC〜加賀ICの17.8km
5、福井県・滋賀県E8北陸道の木之本IC〜今庄ICの44.7km
6、岡山県・鳥取県E73米子道の湯原IC〜江府ICの33.3km
7、広島県・島根県E74浜田道の大朝IC〜旭ICの26.6km

■一般道(国道)でチェーン規制標識があるのは6路線

1、山形県112号月山道路の西川町月山沢〜鶴岡市田麦俣の15.2km
2、山梨県・静岡県138号山中湖・須走の山梨県山中湖村平野〜静岡県小山町須走字御登口の8.2km
3、新潟県7号大須戸〜上大鳥の村上市大須戸〜村上市上大鳥の15.3km
4、福井県8号石川県境〜坂井市のあわら市熊坂〜あわら市笹岡の3.2km
5、広島県・島根県54号赤名峠の広島県三次市布野町横谷〜島根県飯南町上赤名の2.5km
6、愛媛県56号鳥坂峠の西予市宇和町〜大洲市北只の7.0km

一般道は峠道や地形上降雪が多い場所が規制区間になっていることが多く、国土交通省の直轄国道6路線になっている。地域によって長短さまざまだが、広島県と島根県をとおる国道54号線で2.5kmという、たったこれだけの距離でも規制がかかるとタイヤチェーンなしでは通行できないわけだ。

規制に対応するタイヤチェーンは、金属製だけでなく布製の製品もある

通行するためとはいえ金属チェーンは重く、装着作業はわずらわしいもの。非金属系は簡単装着できるものもあるが、比較的高価で収納スペースも必要になる。そこでおススメなのが、「布製カバータイプ」と呼ばれる製品。なじみの薄い人もいるだろうが、一部は自動車メーカーから純正部品に指定されていることもある。なによりチェーン規制に適合する製品が登場したため、安心して使うことができる。

メリットはいくつかあるが、軽さや専用工具の必要ない装着の簡単さ、収納時のコンパクトさは見逃せない特長だ。また、走行時の乗り心地が損なわれないのもうれしい。金属や樹脂製タイヤチェーンはガタガタ、ジャラジャラと走行時の乗り心地はどうしても悪化してしまうが、布製チェーンは接地面に大きな凹凸がないため、非装着時と同等の乗り心地を得られやすいのだ。

画像: 布製タイヤチェーンは、長距離・高速移動を想定した製品ではないが、大雪によるチェーン規制という緊急時の対応策として有効だ。

布製タイヤチェーンは、長距離・高速移動を想定した製品ではないが、大雪によるチェーン規制という緊急時の対応策として有効だ。

布製のため耐久性を心配するユーザーも多いと思うが、一部の製品は乾燥路を100km/hで100km走行しても、使える状態をキープしていたというテスト結果もある。ただし、公道での走行速度は50km/hまでと制限されているので、オーバースピードには注意したい。また、購入するときには必ず「チェーン規制適合」と明記されている製品にすることだ。

ある布製チェーンメーカーの説明では、多少走行してトレッド面が毛羽立った状態のほうが雪上/氷上のグリップ性能は向上するという。これは繊維が毛羽立ことによって毛細管現象を起こす範囲がより多くなり、吸水性能がアップするためだという。アイスバーンで布がグリップするのも、タイヤと氷との間に出来る水を布が吸水するためだ。

装着しても車輪の外径が大きく変わらないため、ESP(エレクトロニックスタビリティシステム)などの横滑り防止装置の作動を妨げない。さらに、輸入車やスポーツカーなどタイヤとサスペンション/ボディ間のクリアランスの少ないモデルでも、布製チェーンなら干渉する危険性は格段に少なくなるというメリットもある。

ウインターシーズンは、スタッドレスタイヤを装着していても規制に備えてコンパクトで軽量な布製チェーンを車載しておくのがいいだろう。(文:丸山 誠)

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