以前に連載した「昭和の名車」では、紹介しきれなかったクルマはまだ数多くある。そこで、1960年代以降の隠れた名車を順次紹介していこう。今回は、「マツダ R360クーペ」だ。

マツダ R360クーペ(KRBB型/ATはKRBC型):昭和35年(1960年)5月発売

画像: コンパクトなクーペボディは一見2シーターに見えるが、+2のリアシートを備えていた。

コンパクトなクーペボディは一見2シーターに見えるが、+2のリアシートを備えていた。

東洋工業(現・マツダ)はR360クーペの開発にあたり「膨大な試乗調査資料から電子計算機が引き出した『もっとも多くの人々が望む乗用車』の解答に基づいて設計した」と説明し、初めての自社開発4輪乗用車に強い自信を見せた。発表は1960年4月。衝撃的だったのは、スバル360の38万8000円より7~9万円も安い30万円(ATは32万円)という価格だ。5月28日の発売を目前に控えた20日の段階で早くも4500台の受注を記録。その後も順調に販売を伸ばし、1960年中の累計生産台数2万3417台という、軽乗用車生産シェアの64.8%を占める人気車となった。

もちろん魅力は価格だけではない。当時の国産車中もっとも低い全高1290mmのスタイリッシュなクーペボディは、ごく狭いとはいえ+2のリアシートを備えていたし、パワートレーンも軽自動車初の4サイクルエンジンに4速MTとトルクドライブと呼ぶ2速ATを設定して、とくにATが女性層の目を引いた。

画像: 90度V型2気筒のOHVというユニークなエンジンをリアに縦置き搭載して後輪を駆動する。

90度V型2気筒のOHVというユニークなエンジンをリアに縦置き搭載して後輪を駆動する。

駆動は、強制空冷90度V型2気筒OHVの356ccエンジンをリアに縦置きするRRだが、このエンジンがマツダらしいこだわりに満ちていた。潤滑をドライサンプにしたほか、シリンダーヘッドはもちろん、ロッカーアームカバー/オイルパン/クランクケースなどにアルミやマグネシウム合金を使って徹底した軽量化が図られたのだ。30万円の軽自動車としては、とんでもないオーバークオリティだったと言うしかない。不等間隔爆発の4サイクルVツインなのでアイドリング時の振動は避けられないが、走行中はスムーズで、最大トルクを4200rpmで発生する高速型の特性を4速MTで制御すると、思いのほか活発な走りを示した。

一方ATは、それまでミカサを作っていた岡村製作所の3要素1段2相型トルコンを使い、H(ハイ)/L(ロー)/R(後退)レンジを備えた前進2速式だ。通常はHでスタートできるが、とくに加速を重視する場合はLで発進することを推奨していた。

画像: 内張りもほとんどない簡素なインテリア。パーキングブレーキはステッキ式だ。

内張りもほとんどない簡素なインテリア。パーキングブレーキはステッキ式だ。

サスペンションもユニークで、前後のトレーリングアームのスプリングにトーションラバーを採用していた。これは、ボディに固定した円筒の中に筒型ゴム貼り付け、その中心にシャフトを通し、シャフトの回転をゴムの弾性(捩れ)で押さえてスプリング効果を得るというもので、スチールバネより軽量化できるという利点があった。

軽自動車とはいえ、簡素に過ぎる内装を残念がる人もいたが、「人々のマイカーへの夢を叶えたい」というマツダの情熱から生まれたR360クーペは、1966年12月の生産終了までに6万5000台を上回る総生産台数を記録し、日本のモータリゼーションの進展に先駆的な役割を果たしたモデルとして記憶されている。

画像: リアウインドーはサイドまで回り込んだラップラウンド形状。テールランプも小さい。

リアウインドーはサイドまで回り込んだラップラウンド形状。テールランプも小さい。

昭和の名車のバックナンバー

マツダ R360クーペ(1960年)主要諸元

●全長×全幅×全高:2980×1290×1290mm
●ホイールベース:1760mm
●重量:380kg
●エンジン型式・種類:BC型・空冷90度V2 OHV
●排気量:356cc
●最高出力:16ps/5300rpm
●最大トルク:2.2kgm/4000rpm
●トランスミッション:4速MT(2速AT)
●タイヤサイズ:4.80-10 2P
●価格:30万円(32万円)

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