2005年6月、日本市場でフェイスリフトが発表されたBMW5シリーズ(E60型)。マグネシウム・アルミニウム合金の軽量新型直列6気筒エンジンの搭載が注目を集めたが、進化はそれだけにとどまっていなかった。(以下の記事は、Motor Magazine 2005年9月号より)

525iと530iの試乗をとおして「5」の進化を探ってみる

2005年4月に導入が開始されたE90型BMW3シリーズは、僕にとってかなりのインパクトだった。特に感心させられたのが接地性をさらに高めたシャシ。身のこなしにもヤンチャなところが消えて安心感が増したし、乗り心地も格段に良くなった。賛否はあるが大きく立派になったボディも含めて、今度の3シリーズは存在そのものが大幅にアップグレードされたと考えてよいはずだ。

と、なると、5シリーズの立場はどうなるのか。気がつけば「5」に乗ったのは2003年後半の導入時。その記憶ももはや希薄だし、モデルイヤーでの進化もあったはずで、いずれ「3」と「5」の差異も含めチェックし直す必要を感じていた。そんな矢先、3シリーズに積まれる新開発の6気筒エンジンが5シリーズにも搭載されるという仕様変更が行われた。

BMWの主力ユニットとして今後さらに搭載車種が増えていくだろう新ストレート6に関しては、すでに「3」の登場時にたっぷりと解説が行われているが、ここでもう一度おさらいをしておこう。

今回試乗した525iと530iMスポーツパッケージに搭載される直列6気筒は、前者がN52B25A、後者がN52B30Aと呼ばれ、ともにスロットルバタフライを廃しポンピングロスを減らしたバルブトロニックを採用している。この機構はまず直列4気筒に採用され、その後V8やV12にも搭載されたが、「BMWのココロ」とも言える直6エンジンに用いられるのは初めてだ。

バルブトロニックは燃費を向上させるのに非常に効果的なのだが、スロットルの役目を吸気バルブ自体を開け閉めして行なうため動弁機構全体が重くなりがちで、高回転化が難しいという側面があった。

しかし、高いエンジン技術を持つBMWがそれを放置しておくはずもなく、1シリーズからはバルブまわりの軽量化を図った第二世代のバルブトロニックを採用している。N52B25A/30Aに採用されるのももちろんこれだ。その甲斐あって両車ともレブリミットは7000rpmと高く設定されている。

この他にも、「エンジニアの夢」と言われていたマグネシウム合金製シリンダーブロック/ヘッドカバーにより従来比マイナス10kgの軽量化を達成しているし、電動式のウォーターポンプの採用でコンパクトネスと駆動力ロスに伴う燃費低減なども実現といった具合に、ともかくこの新エンジンには現在のBMWが持つ技術が凝縮されているのである。

画像: マグネシウム・マグネシウム合金製シリンダーブロック/ヘッドカバー、第二世代バルブトロニック、電動式ウォーターポンプなどを採用した最新世代の直列6気筒エンジン。

マグネシウム・マグネシウム合金製シリンダーブロック/ヘッドカバー、第二世代バルブトロニック、電動式ウォーターポンプなどを採用した最新世代の直列6気筒エンジン。

525iでも十分以上の動力性能を確保

と、いうところで、早速525iから味わってみる。このエンジンは3シリーズでも試したことはないので、僕にとっては本当の初モノだ。

エンジン音は心なしか以前よりも静かになった感じで、アイドリング領域ではサラサラと回っている。Dレンジにシフトしてアクセルを踏み込むと、ワンテンポ遅れる感じでスルスルッと走り出した。

新エンジンは以前の直6に較べて少しだけレスポンスが鈍くなった。これは3シリーズでも感じていたが、525iで見られた反応遅れは、フルスロットルを与えた場合にもドンと飛び出すような荒さを防ぐため制御を敢えて穏やかにしているのだと思う。しかしこれが僕には最後まで違和感となって残った。

もちろん引っ掛かりを感じるような質の悪いものではないが、期待したよりも出足が鈍い。これがエンジン単体で留まっているなら大きな問題ではないのだが、5シリーズは全車アクティブステアリングが標準装備なので話が複雑になってくる。

アクティブステアリングはアシスト量とギア比を状況によって変化させるほか、DSCと連携することで車両の挙動が不安定方向に入った時は自動で補正舵を当てるというBMW自慢の技術だ。同様のものをトヨタもレクサスに採用するなど、今後の大きな方向性を示すひとつでもある。

ただ、当初の5シリーズに搭載されたものは、低速時のギア比がクイック過ぎた。小舵角でクルクルと動き、馴れれば楽だが、速度変化に伴う変化量が大きすぎてこれが違和感となっていたのは否めない。

新エンジンを得た5シリーズでは、この辺の制御ロジックが改善されていて格段に扱いやすくなっている。しかしそれでも街中の狭い曲がり角や、パーキングスピードではハンドルの操作量よりもタイヤの切れ角の方が極端に大きいという事実は変わらない。それにこの初期応答性が鈍いエンジンが組み合わされると、タイヤは大きく切れているのに期待した出足が得られず、結果としてフロントタイヤの軌跡が、ドライバーが想定したものよりも内側に入り込んでしまうことがあったのだ。タイヤが俊敏に切れるなら、エンジンにも同様のキレ味がないとどうもテンポがつかみにくいのである。

ただし、不満を感じたのはこの走り出しのレスポンスだけだ。回転フィールはあくまでもスムーズで心地良いし、実用域のトルクも十分で、5シリーズのボトムモデルとはいえ「これなら十分以上」と思える動力性能を確保している。パーシャル領域でのアクセルレスポンスは十分にシャープで、6速ATもレブリミットの7000rpmまで積極的に使う設定としているため十分に楽しめる。ティップシフトを併用すればさらに心地良いのは言うまでもない。

画像: BMW525i。2.5Lストレート6を搭載、5シリーズのベーシックモデルとなる。

BMW525i。2.5Lストレート6を搭載、5シリーズのベーシックモデルとなる。

530iは全域で力が漲る、500ccの差は歴然だった

ここで530iに乗り換える。こちらのアクセル制御は格段にリニアで、アクセルペダルを踏んだ分だけの加速が即座に得られる。したがってアクティブステアにもすぐに順応できた。それでいて飛び出し感が強いような荒さは感じさせないのだから、ぜひ525iの制御ももっとシャープにして欲しいものである。

525iと較べると、530iは全域に力が漲っている感じ。パーシャルからアクセルを踏み込んだ時の反応がよりシャープでモリモリとしている。525iも3000rpmあたりのトルクの厚みは大したものだが、較べるとやはり530iの方がスポーティ。きっかり500ccの差はやはり歴然とあった。

5シリーズの全体像をもう少し探ってみよう。冒頭に述べた3シリーズとの差異だが、これはやはりキチンとあった。極めて硬いボディに精度の高い足まわりが組み合わされたような「動的な質感の高さ」は5シリーズの方が明らかに強い。3シリーズも非常に良くできていてこの辺の表現は難しいのだが、標準のサスペンションを持つ525iでもしなやかな乗り心地と、凛と締まったシャシの味わいを両立させているあたりに、5シリーズの格の高さを感じた。

530iはMスポーツパッケージということで、ローダウンされたハーダーサスに245/40R18タイヤを組み合わせる。そのせいかワンダリングや突き上げが強めで、5シリーズが本来持っている「落ち着き」がやや薄れている。できれば530iも標準仕様の足まわりで試してみたかった。十分にパワフルで、ランフラットタイヤ(ちなみに今回から全車標準装備)を履きながら極めて上質な乗り心地と、スポーティなハンドリングを両立させているだろうこのモデルこそ、5シリーズの代表と思えるからだ。

しかしいずれにしても、新エンジンを得たことと、アクティブステアを中心とするきめ細かい改良で、5シリーズがその魅力にさらに磨きを掛けたのは確かである。

なお、かなりハイペースに終始した試乗後に燃費を計ってみたら、525i/530iともに8km/Lを大きく上回る数値を記録していた。これも進化を示す好例だろう。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2005年9月号より)

画像: BMW525i。3Lストレート6を搭載、5シリーズにはそのほか、トップグレードとしてV8エンジン搭載の545iがラインアップされている。

BMW525i。3Lストレート6を搭載、5シリーズにはそのほか、トップグレードとしてV8エンジン搭載の545iがラインアップされている。

ヒットの法則

BMW 525i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4855×1845×1470mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1620kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:218ps/6500rpm
●最大トルク:250Nm/2750-4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:610万円(2005年当時)

BMW 530i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4855×1845×1470mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:712万円(2005年当時)

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