三菱 デボネア(A30型):昭和39年(1964年)7月発売
1963年(昭和38年)にコルト1000を発売して、本格的な自動車メーカーの仲間入りを果たした新三菱重工(現・三菱自動車)は、これと並行して開発を進めていた自社初の5ナンバー・フルサイズセダン「コルト・デボネア」を同年の東京モーターショーに参考出品した。ショー会場で来年夏ごろ発売予定と公表したこともあり、現存の国産2L乗用車との攻防戦でデボネアがどう評価されるかに注目された。そして公約どおり1964年5月に正式発表。車名はコルトの名を外した「デボネア」となり、7月発売がアナウンスされた。
デボネアで最も注目されたのは、当時のオールズモビルを彷彿とさせるアメリカ車然としたスタイリングだ。長く・低く、ストレートな線と面を基調としたフォルムは、三菱の招聘に応じた元GMのデザイナー、H.S.ブレッツナーの手になるもので、前後端を突出させたフェンダー上部処理やユニットLランプと呼ぶL字型リアコンビランプなど、既存の国産車とは一線を画す斬新なディテールが特徴だった。ボディサイズは5ナンバー枠いっぱいで、寸法的余裕が快適な乗り心地に繋がっていることを訴求している。人間工学的に研究されたシートも自慢の一品で、ジグザグスプリングに緩衝材としてヘアロックとフォームラバーを併用し、ソフトな乗り心地を作り出していた。
ボディ骨格は前後にサブフレームを持つユニットコンストラクション(モノコック)で、サスペンションは前:ダブルウイッシュボーン/後:リーフリジッドが採用されている。エンジンは、三菱量産乗用車用初の直4 OHVとなるKE43型(コルト1000に搭載)をベースに新開発されたKE61型の直6 OHVだ。形としてはKE43型に2気筒プラスしボアを8mm拡大して1991ccとしたものだ。
シリンダーヘッドはシルミン系アルミ製。ウエッジ型燃焼室には15度の傾斜角でセットされたバルブが直線上に並ぶ。特徴的なのがバルブ駆動方式で、OHVではあるが、カムシャフトをブロックの最上位(ピストン上死点の真横)にセットした超ハイカムシャフト機構を採ることだ。これにより、通常はブロック内にあるタペットをシリンダヘッドカバー内に収める「ヘッド・タペットピボット式」が可能になり、プッシュロッドが大幅に短縮できたことで、高回転時のバルブ追従性が飛躍的に高まっている。
これに10.0の高圧縮比、2バレルツインキャブ、デュアルエキゾーストマニホールドを組み合わせ、2Lクラスではトップレベルの105ps/5000rpmの最高出力を発生した。当時5000rpmの最高出力発生回転数は高回転型の範疇に入り、三菱はカタログデータの最高速度:155km/h、0→400m加速:19.3秒に加え、0→200m加速:12.16秒、30→100km/h追い越し加速:21.5秒という自社計測タイムまで公表して高性能をアピールしている。
トランスミッションはオーバートップ付きフルシンクロ3速MT。0.774のオーバートップギアにより高速巡航時の静粛性を高めたのは高級車らしい設定だった。同様にステアリングギアもキックバックがなく操舵感スムーズなことで高級車に採用例が増えてきたリサーキュレーティングボール式が採用されている。ブレーキは前後デュオサーボ式アルフィンドラムだが、タンデムマスターシリンダーの採用で、軽い踏力で強力な制動力が得られることに加え、高い安全性も確保していた。
三菱が総力を挙げて開発したデボネアは、この後1965年にボルグワーナー製3速ATを追加。1969年にフロントディスクブレーキを装着、1970年にエンジンをSOHCの6G34型に換装と着実に進化を続けながら、1986年まで、実に22年にわたって製造されるロングセラーとなっていく。
三菱 デボネア 主要諸元
●全長×全幅×全高:4670×1690×1465mm
●ホイールベース:2690mm
●重量:1330kg
●エンジン型式・種類:KE64型・直6 OHV
●排気量:1991cc
●最高出力:105ps/5000rpm
●最大トルク:16.5kgm/3400rpm
●トランスミッション:3速コラムMT+オーバートップ
●タイヤサイズ:7.00-13 4P
●価格:125万円