2005年に登場した2代目フォード フォーカスには、「ST」と呼ばれるスポーツモデルが存在していた。先代に設定されていた「ST170」を継承するモデルはどんなクルマだったのか。欧州でのテストドライブの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年1月号より)

最高出力225psの2.5L直列5気筒ターボエンジンを搭載

「39万8000台と799台」、これは2004年の西ヨーロッパと日本におけるフォード・フォーカスの販売台数だ。彼の地では実に日本の500倍のフォーカスが顧客の手に渡っているのである。

ヨーロッパに住んでいると、時々こうした自動車文化の差に遭遇する。ドイツ・フォードがプロデュースするフォーカスは、この地では実用性の高いコストパフォーマンスに優れたクルマとして、Cセグメントではゴルフやアストラと並ぶ販売成績をあげている。

それゆえに、ここで紹介するようなスポーツバリエーションのフォーカスSTが、ゴルフGTIやアストラターボなどの対抗馬として存在しているのは、当然の成り行きなのである。むしろWRCの実績を持つフォードの方に、こうしたモデルが存在することの整合性があると言っても良いほどである。

さて、2004年秋にフォーカスのベーシックモデルがフルモデルチェンジを受けたのに続いて、今回、新しいボディに着替えたスポーツモデルの「ニューST」が登場した。

しかし、新しいのは衣装だけでなく内容も大きく変わっている。まず搭載されるエンジンはフォードグループのボルボから供給される排気量2522ccの直列5気筒で、ターボ過給によって最高出力225ps/6100rpm、最大トルク320Nm/1600-4000rpmを発生する。

フォードの発表によるこのフォーカスSTのパフォーマンスは、スタートから100km/hまでの加速が6.8秒、最高速度は240km/hと数字の上ではゴルフGTIよりも明らかに上手である。

さて、このフォーカスSTには当然オリジナルのドレスアップが用意されている。まずエクステリアで目に付くのは、メッシュのグリルと開口部の大きくなったバンパー下のエアインレット、そしてその両脇にレイアウトされたフォグランプだ。続いてサイドに回ると、前後225/40R18サイズのタイヤを収めるためのワイドなオーバーフェンダーと、それを結ぶ彫りの深いサイドシル、そしてリアエンドでは左右のディフューザー風のアプリケーション近くから、太めのマフラーカッターが突き出している。

一方、インテリアで目につくのはボディカラーとコーディネートされたツートーンのレカロ製スポーツシート、アルミ風3本スポークを持つグリップ感に優れたステアリングホイール、そしてダッシュボード中央上にレイアウトされた3連メーターなどスポーツムードを高める演出はゴルフGTIよりも凝っている。

またフォードというと「安物プラスチック」という先入観を持つ人たちへの朗報だが、このSTでは特に素材の使い方に変化を持たせ、同時にフィニッシュも良いのでクオリティフィールは非常に高い。

画像: ボルボから供給を受ける2.5L直5DOHCターボエンジン。Cセグメントにはオーバースペックにも思われるが、ハイパワーでレスポンスもいい。

ボルボから供給を受ける2.5L直5DOHCターボエンジン。Cセグメントにはオーバースペックにも思われるが、ハイパワーでレスポンスもいい。

スポーツ性能は高いが非常に乗りやすい

ステアリングホイールやシフトレバー、そしてスイッチ類などの操作系すべてがガッシリとして男っぽい。コクピットに入りエンジンをスタートさせる。すると何やらバラ付いたような5気筒エンジン独特の吸排気サウンドが聞こえて来る。どうやらこれは意図的なサウンドチューニングらしい。

「昔乗っていたアウディを思い出す」と隣に乗った若いドイツ人ジャーナリストに言ったら、「オマエは一体何歳なのだ!」と聞き返された。それはともかく、当時に比べればスロットルに対するエンジンのレスポンスはずっと敏捷である。

手応えのあるシフトレバーをローに文字通り押し込み、スタートする。回転の上がりはスムーズで、わずかなスロットルの踏み具合ですぐさまターボ効果が現れ、自然なトルクの波が押し寄せる。スロットルとターボの時差、いわゆるターボラグなど無縁である。また0.65バールと比較的低いところで最大過給効果を発揮するので、320Nmの最大トルクはすでに1600rpmで発生している。

このあたりはヨーロッパに蔓延するディーゼルエンジンに負けないための配慮だろう。もはやガソリンエンジンもターボなしにはディーゼルに歯が立たないのだ。

さらに操作性はやや重いが引っ掛かりのないスムーズな6速MTを介しての加速感はとても力強く、スピードメーターの針がタコメーターのようにグングン上昇してゆく。この感触はもはやポルシェボクスター並みで、カタログにある0→100km/hの6.8秒、そして240km/hの最高速度はまったく掛け値のない性能であることが明白だ。

ところでこうした高速道路を含む一般的なツーリングで感心するのは、スタンダードモデルよりも30%ほど硬いバネレートと5%太くなったリアスタビライザー、さらにはアスペクトレシオの低い18インチタイヤなどを採用した結果、重心が50mm低下したスポーツチューニングにもかかわらず、乗り心地は悪化していないばかりか、むしろスタンダードよりも(少なくともレポーターには)好ましかったことだ。

さて、次のステージではタイトコーナーが連なる山間路へ入り込む。通常のツーリングにおいて、STのステアリング特性は基本的にはニュートラルでステアリングフィールも正確でコントローラブルである。またロールは非常に少ないので、その気になれば高いコーナリングスピードを維持することも可能だ。

もちろんラリードライバーのように非常にタイトなコーナーを1速、そして2速でフルスロットルを与えると、フロントタイヤはもちろん時々許容を超え、スリップを許し、コーナーの外側へ向かって進もうとする。すると即座にESPが介入し、クルマは正しい方向へと引き戻される。こうしたセッションで素早く正確な反応を見せるエレクトロハイドロリックステアリングは非常に心強かった。

テストをする前にフォードフォーカスSTは以前のRSのようにラリー屋(つまり走り屋)の好む、場合によってはモータースポーツのベースになるようなハードなクルマだと思っていた。しかし、まる一日、およそ700kmにわたる様々なセッションで、スポーティだが実にオールラウンダーなクルマであることがわかった。外観でちょっとばかり派手なところもあるが、これならば毎日の通勤に使っても、週末に家族と買い物に出かけても絶対に満足するに違いない。

このフォードフォーカスSTのドイツでの価格は2万4200ユーロ(約339万円、2005年当時)、エアコン、パワーウインドウ、そしてレカロ製スポーツシートまでが標準装備されている。この地では排気量と性能で下回るゴルフGTIとまったく同じプライスタグを付けいる。

ところで、このフォーカスSTの日本での可能性だが、イメージ先行、右へ倣え社会の日本の輸入車市場では、たとえより有利な価格を設定しても定評(!?)のあるゴルフGTIの足元にも及ばないかもしれない。

しかし、むかし学校で皆と同じことをしたり、一斉に並ぶのが嫌いだった個性尊重タイプのスポーツドライバーには、GTIをカモる恰好のアイテムになるはずである。(文:木村好宏/Motor Magazine 2006年1月号より)

画像: 2代目フォード フォーカスに設定されたスポーツモデル「ST」。欧州ではゴルフGTIのライバルとなっていた。

2代目フォード フォーカスに設定されたスポーツモデル「ST」。欧州ではゴルフGTIのライバルとなっていた。

ヒットの法則

フォード フォーカスST(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4362×1991×1447mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1317kg
●エンジン:直5DOHCターボ
●排気量:2522cc
●最高出力:225ps/6000rpm
●最大トルク:320Nm/1600-4000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
※欧州仕様

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