SUVブームの中にありながら、フォルクスワーゲンのSUVラインアップはティグアンだけという状態が続いていた。そこに待望のコンパクトSUV、Tクロス(Volkswagen T-Cross)が2019年末にようやく日本でも発売された。この注目モデルと国産の人気SUV、トヨタ C-HRをライバルに見立てて比較してみよう。

※タイトル写真は、おおよそのサイズを比較できるように両モデルのノーズ先端で位置合わせしています。

都会派オンロード志向なC-HRか、FFでもSUVらしさのあるTクロスか

Tクロスはポロのコンポーネンツをベースに開発された、フォルクスワーゲン最小のSUVである。SUV風にドレスアップされた従来までのクロスポロと違い、専用ボディで高効率パッケージを実現した正真正銘のSUVだ。自動車税が安い1Lターボエンジンを搭載している点も注目されている。導入記念の特別仕様車「TSI 1st」と「TSI 1stプラス」の受注が、日本でも2019年11月から始まったばかりである。

画像: フォルクスワーゲン Tクロス TSI 1stプラスにデザインパッケージ(オレンジ)を組み合わせたモデル。

フォルクスワーゲン Tクロス TSI 1stプラスにデザインパッケージ(オレンジ)を組み合わせたモデル。

迎え撃つのは2017-2018年の国内ベストセラーSUV、トヨタC-HR。クーペライクな超個性的スタイリングと、欧州で鍛えられた走りを身上とする。2019年10月のマイナーチェンジでGRスポーツが新登場し、さらに1.2Lターボに6速MT(iMT)が追加されるなど話題も豊富だ。ここで比較するモデルは、主力グレードといえる1.8L+モーターを搭載したハイブリッド車(HV)。どちらも300万円前後に設定されている日独コンパクトSUVによる対決だ。

画像: トヨタ C-HR G(ハイブリッド)。写真はマイナーチェンジ前のモデルで、フロントバンパーの形状が変更されている。

トヨタ C-HR G(ハイブリッド)。写真はマイナーチェンジ前のモデルで、フロントバンパーの形状が変更されている。

■フォルクスワーゲン Tクロスの車両価格
 Tクロス TSI 1st:299万円
 Tクロス TSI 1stプラス:335万9000円
■トヨタ C-HR(ハイブリッドモデル)の車両価格
 C-HR S:273万円
 C-HR S GRスポーツ:309万5000円
 C-HR G:299万5000円
※すべて税込

ひと口にコンパクトSUVと言っても両車のクラスは異なる。Tクロス(全長4115mm)はいわゆる欧州Bセグメントなのに対して、C-HR(全長4385mm)はCセグメントにあたる。全高はTクロスが標準装備のルーフレール込みで1580mm、その設定がないC-HRは1550mmだから、これはほぼ同等といったところ。ボディ全体としては、C-HRの全幅が35mm広いこともあってひとまわり大きい。

ステアリングホイールの操舵感はともに上質でハンドリングも軽快だが、Tクロスの足まわりはドッシリ頼もしくSUVらしい味わいを感じられる。最低地上高でもTクロスが180mmとC-HR(140mm)より40mmのアドバンテージを持ち、オフロードでのSUVらしい余裕はTクロスが大幅に上回る。C-HRは欧州車を彷彿とさせる実力と、オンロード指向の切れ味が印象的だ。

画像: フォルクスワーゲン Tクロスとトヨタ C-HRのボディサイズを比較。

フォルクスワーゲン Tクロスとトヨタ C-HRのボディサイズを比較。

居住/荷室スペースの広さで明暗。ボクシーなデザインのTクロスに軍配

インテリアに目を移すと、C-HRは前席優先であることがわかる。後席は身長175cmの乗員を基準にしても十分なニールームとシートサイズを備えるが、サイドウインドーが小さなリアドアと立派なサイズの前席に囲まれ、閉塞感がハンパない。ラゲッジスペース容量は通常で318Lと小さめ。リアウインドーの傾斜が強いため、背の高い荷物を立てて載せるのは難しい。

その点、Tクロスは最大でC-HRと同等以上の後席ニールームを実現。荷室容量はこの状態で385LとC-HRより大きいうえ、後席を140mmも前後スライドさせることが可能で、最大455Lまで拡大できる。BセグメントのSUVで現在、もっとも模範的なパッケージ。カーナビゲーションやスマホのワイヤレス充電、前後席に計4つのUSBポートなど、標準装備の充実ぶりも見逃せない。

画像: ラゲッジルームを正面から比較。容量はTクロス(左)385Lなのに対してとC-HR(右)は318L。

ラゲッジルームを正面から比較。容量はTクロス(左)385Lなのに対してとC-HR(右)は318L。

先進安全運転支援システムの装備内容はほぼ互角

どちらのモデルも、走行時(昼間の歩行者検知機能付き)や駐車時(前進・後退)の衝突被害軽減ブレーキ、後側方の死角をカバーするモニターや警報などを採用し、先進運転支援システムの装備は好勝負の内容だ。ただしTクロスの場合、ステアリングホイールの車線逸脱防止制御とオートハイビームはハイグレードの「TSI 1stプラス」専用。

C-HRもグレードによって設定が異なるが、TSI 1stに対しては一歩リードといったところ。車速追従クルーズコントロール(ACC)にしても、両モデルともに停止まで可能な全車速対応だが、C-HRは停止保持もしてくれる。またC-HRのペダル踏み間違い防止制御と、Tクロスのプロアクティブ オキュパント プロテクション(事故の可能性を検知するとシートベルトのテンションを高めて、ウインドーを閉じる)は、それぞれのお国柄が現れた装備と言えよう。

加速感・軽快感ではTクロスに、エンジンの静粛性では4気筒のC-HRに軍配

C-HRのパワートレーン1.8L直4+モーターはシステム最高出力122psを発生し、Tクロスの1L直3ターボ(116ps)を数値の上ではリードしている。しかし、実際の加速感で言えばTクロスのほうが力強い。この1Lターボは、自然吸気2Lエンジン並みの最大トルク200Nmを2000〜3500rpmという低回転域から発生させ、そのうえ車両重量がC-HRより150kg以上も軽いのだ。

C-HRの動力性能も普段使いに不足ないのだが、シャシー性能に対してはもの足りないというのが正直なところ。エンジンの静粛性や振動の少なさでは4気筒の、さらにモーター駆動もできるC-HRに分があるものの、Tクロスも3気筒の弱点を感じさせないレベルにある。

Tクロスの燃費(WLTCモード)は16.9km/L。対してC-HRは25.0〜25.8km/Lとハイブリッドモデルの圧勝で、さらにレギュラーガソリン仕様ということもあってランニングコストの面で魅力的だ。また、C-HRはエコカー減税や環境性能割も適用されるのに対して、Tクロスは自動車税の安さと、税制面でのメリットが異なる。

画像: 1L直3ターボエンジンを搭載するTクロス(左)と、1.8L直4+モーターのハイブリッドシステムを搭載するC-HR(右)。

1L直3ターボエンジンを搭載するTクロス(左)と、1.8L直4+モーターのハイブリッドシステムを搭載するC-HR(右)。

Tクロスの販売は現在、特別仕様車のみ。今後登場する通常モデルにも期待

C-HRは、デビューした2016年12月から約3年を経過した今でも完成度の高さを感じさせる。販売の勢いこそ落ち着いてきたと言われるが、商品性を考えればむしろそれまでが売れすぎだったのではないか。

一方のTクロスは、SUVに求められる要素を4WD以外ですべてかなえる、フォルクスワーゲンらしい真面目な1台。キャラクターはC-HRと対照的だが、装備内容を見ればコストパフォーマンスも高く、クラスを超えて国産SUVの強力なライバルになる商品力を備えている。導入記念特別仕様車「TSI 1st」以降のラインアップにも注目したい。(文:戸田治宏)

フォルクスワーゲン Tクロス TSI 1stプラス 主要諸元

●全長×全幅×全高=4115×1760×1580mm
●ホイールベース=2550mm
●車両重量=1270kg
●エンジン=直3 DOHCターボ
●排気量=999cc
●最高出力=116ps/5000-5500rpm
●最大トルク=200Nm/2000-3500rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格=335万9000円

トヨタ C-HR G(ハイブリッド) 主要諸元

●全長×全幅×全高=4385×1795×1550mm
●ホイールベース=2640mm
●車両重量=1440kg
●エンジン=直4 DOHC
●排気量=1797cc
●エンジン最高出力=98ps/5200rpm
●エンジン最大トルク=142Nm/3600rpm
●モーター最高出力=72ps
●モーター最大トルク=163Nm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=電気式無段変速機
●車両価格=299万5000円

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