地球温暖化の一因とされている自動車の排出ガスを抑えるため、地方自治体によっては停車時のアイドリングを条例で禁止にしているところもある。しかしその一方で、出発時の暖機運転はエンジンが良いパフォーマンスを発揮するために必要とされており、エンジンの寿命を延ばすことにもつながっている。相反する側面を持つアイドリングを伴う暖機運転は、本当に必要なのだろうか。

暖機運転は古くからの習慣だった

エンジンの燃料噴射装置がキャブレターだった1960年代から1970年代半ば頃、エンジンが冷えている冷間時や外気温が低い時、暖機運転は必須だった。というのも、暖機しなければキャブレターから燃料が満足に噴射されず、エンジンがかからなかったからだ。当時はチョークというレバーが装備され、エンジンに燃料の濃い混合気を噴射し冷間時でもエンジンがかかりやすいよう工夫されていた。

エンジンの燃料噴射装置がインジェクターや電子制御式に進化すると、チョークは装備されなくなった。特に電子制御式燃料噴射装置の時代になってからは、チョークを装備するクルマは、まずない。これはエンジンが冷間時なら、その状態に合わせた燃料噴射ができるよう噴射装置がプログラミングされているからだ。

現代のエンジンで、燃料噴射装置が電子制御式でないものはない。ということは現代のエンジンなら、暖機運転はしなくてよいことになる。実際、トヨタ、日産、マツダなどは暖機運転を不要としている。

暖機運転を不要とする理由のひとつに、環境問題がある。地球温暖化に伴う二酸化炭素削減が世界的な問題になると、エンジンメーカーは暖機不要のエンジンの開発を急いだ。

そもそも暖機運転が必要とされた理由は、エンジンをパフォーマンスが発揮できる適温にしなければならなかったからだ。冷間時にエンジンの金属部分が冷えて、摺動するパーツ間のクリアランスが広くなり、オイルが固まっていた。エンジンを暖機すると、金属が温まって膨張し、クリアランスが適切なものになる。またオイルの温度が上がることで、粘度が低くなり流体として活用できた。

しかし現代のエンジンは、金属加工の精度が上がり、冷間時でも適切なクリアランスを保つことができるようになり、オイルも粘度が低いさらさらしたものが使えるようにとなった。こうして朝一番にエンジンをかけても、暖機運転が必要なくなっていった。

ただし、エンジンの暖機が必要なくなったとはいえ、ミッションオイルやダンパーオイルなど車体各部のオイルは冷えたままだ。各種オイルの温度も上げなければ、クルマはベストコンディションにならない。地球温暖化問題でアイドリングが厳しく規制される昨今では、暖機運転に代わって暖機走行が推奨されるようになっている。

やり方は簡単で、水温が上がるまで交通の邪魔にならないようにゆっくりと運転するのだ。暖機走行を行うことで、中高速走行への準備ができる。

いくらアイドリングが地球環境に良くないとはいえ、クルマのことを考えれば暖機運転をしないといけない場合がある。それがマイナス10度以下の寒冷地でのエンジン始動だ。ガレージの前が登り坂の時、長期間エンジンを始動させていない時、チョークを装備するクルマの始動時などが該当する。

マイナス10度以下の寒冷地でエンジンを始動させても、その作動が不安定なこともある。できることなら、水温計の針が動き出すまでは暖機したい。また、ガレージの前が登り坂の場合、エンジン始動後アクセルペダルを多めに踏むことになる。いくら現代のエンジンが暖機なしで走行できるとはいえ、急にエンジンを回せるものではない。数分程度の暖機が必要になる。

長期間(例えば1週間以上)クルマを動かしていないなら、エンジンオイルがエンジン内部の下方に沈みがちになっていることが考えられる。数分程度暖機をして、オイルをエンジン内に循環させてからの方が、エンジンに優しい。

環境問題が叫ばれ、世界的にアイドリングをやめる方向に動いているとはいえ、アイドリングが必要な場合もある。(文:猪俣義久)

画像: マイナス10度以下の寒冷地では、できることなら水温計(写真はタコメーターの左下部)の針が動き出すまでは暖機したい。

マイナス10度以下の寒冷地では、できることなら水温計(写真はタコメーターの左下部)の針が動き出すまでは暖機したい。

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