積極的に「1.6」を選びたいと思わせる要素もある
日本の輸入車市場では最大のボリュームゾーンに投入されているモデルであるにもかかわらず、フォード・フォーカスはハッキリ言って地味な存在だ。しかし先代と同じく世界的な評価は相当に高く、ヨーロッパでは新車販売ランキング上位の常連となっている。やや遅れての導入となった「1.6」は、はたしてこの状況に変化をもたらすことができるか。その実力を確かめてみた。
外観は「2.0」に対して、タイヤサイズが205/55R16から195/65R15とされ、ホイールもスチール+キャップに。ヘッドライトベゼルがブラックからシルバーとされている。一方、内装ではシートが手動調整式となり、ステアリングホイールやシフトノブが樹脂製に。エアコンがマニュアル化され、CDチェンジャーが省かれるなど、細かな差は結構ある。
肝心なのはもちろんエンジン。1.6Lユニットは最高出力100psで、「2.0」と同じく+/-ゲート付きの4速ATと組み合わされる。
乗り込んでまず感じるのは、左右方向の余裕だ。全幅があるだけに当たり前だが、その寸法はきっちり使い切られている。「2.0」のスポーツタイプではなく、標準型のシートが大きめなのも好印象。コシのあるクッションはしかし板のように硬くはなく、身体を心地よくホールドしてくれる。
ATのセレクターをDレンジに入れてアクセルペダルを踏み込むと、右足にそれほど力を入れないうちから車体がスッと前に出る。この出足の良さは、スペックはどうということのない1.6Lユニットが徹底的に実用域重視に振られていること、そしてやはり今やスペック的には物足りなさを覚える4速ATが、非常にタイトにトルクを伝達してくれるおかげである。
さらに速度を上げていっても、加速感はなかなか衰えない。トルクのツキが良いためアクセルを踏み直した時の反応も鋭く、小気味良い走りを楽しめる。さすがに急な勾配ではパワーもATの段数ももっとあればありがたいと思ってしまうが、日常的な使い方ならば、「2.0」の必要性は感じないほどである。
さらに、積極的に「1.6」をこそ選びたいと思わせる要素もある。それはシャシの躾けだ。「2.0」よりタイヤが細く、またスポーツセッティングではない標準サスペンション仕様の「1.6」は、フォーカスらしい足さばきの剛性感は変わらないものの、ストローク感で確実に上回り、より快適なのである。
しかも、程良いロールスピードとあわせて荷重移動の具合が掴みやすいおかげでちょっと元気に走らせた時にも、タイヤのグリップをフルに使いきれそうなダイレクト感を味わえる。
ステアリングの手応えもライブ感に富んでいて、走りの一体感はとても高い。この点では、あるいはセグメント随一とも評価できるかもしれない。
唯一、気になったのは車内騒音の大きさだ。具体的にはゴーッというロードノイズが終始足下から入ってきて、しかも反響してこもってしまうのだ。エンジン音などはよく抑えられているが、それがかえって下回りからの音を強調してしまっている感もある。走りのクオリティは高いだけに、ここがとても惜しく感じられた。
そんなわけで、このフォーカス1.6、走りの実力は相当高いというのが結論である。都市部では持て余す全幅、先代ほどのキレのないスタイリングなど細かな不満もあるが、完成度はおしなべて高い。これで220万円は、「2.0」の270万円よりリーズナブルと言えるのではないだろうか。
さて、問題はなぜこれだけの実力をもったフォーカスが、日本で地味な存在に甘んじているのかということだ。よく言われるブランドの弱さが本当の原因だとしても、それが言われてもう何年にもなる。そろそろフォードジャパンは本腰を入れてこの問題に取り組むべきではないか。より思い切った価格戦略でもいいし、まず輸入車好きの心を掴むべく、素のMT仕様を入れるというのもアリだろう。とにかく、クルマの出来が悪くないだけに、その辺りが改めて歯痒く感じられてしまったのである。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年1月号より)
フォード フォーカス1.6(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4350×1840×1485mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1270kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1595cc
●最高出力:100ps/6000rpm
●最大トルク:150Nm/4000rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:220万円