ML350で十分だが一度ML500に乗ると虜になる
新型ML500に乗ると、当たり前だが、「メルセデス・ベンツだなあ」と思う。このモデルにはメルセデスの本質的な価値のようなものが感じられるのだ。
初代Mクラスは当時北米で人気が高まりつつあった高級SUV市場にライバルに先駆けて投入された。ただ北米での現地調達・現地生産を実現するために、乗用車ベースではなく、北米工場で作り慣れたラダーフレームを採用したこともあって、その後、登場した欧州高級SUVに遅れを取ることになってしまった。といっても、先代Mクラスのオフロードでのタフネスとそこからくる骨太な走りを好むユーザーも少なくなかったのだが。
というわけで、新型Mクラスは、ラダーフレームからモノコックへと一新され、それと同時に、サスペンションやエンジン、トランスミッションといったコンポーネンツもそっくり変更された。もちろん、エクステリアも大胆かつ特徴的なウエッジの効いた都会的なものになり、インテリアの作り込み、品質は先代と比べようもないほど向上した。かつてのどこか商用車的な仕上げはどこにも見当たらない。まるで2世代分くらい一気に進化したようで、まったく別のモデルと考えてもいいほどだ。
サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアが4リンク。ミッションは全車ダイレクトシフト機能を備えた7Gトロニックとなる。エンジンはML350が最新の4バルブDOHCを搭載するのに対し、今回試乗したML500は先代と同じ5L V8SOHCが継続して搭載されている。
この新しいシャシ、メカニズムに旧来のエンジンの組み合わせがメルセデスらしい味を出している。おそらく日本での販売の中心はML350となるだろうが、根っからのメルセデス党にはこのML500はたまらない存在となることだろう。
どっしりと路面を掴み、微塵の揺らぎも感じさせず、なんの不安もなく、どこまでも突き進む様はまさにメルセデス。ゆったり走っても、かっ飛んでも、快適性はなんら変わらない。ボディの大きさによって、フロントグリルのスリーポインテッドスターはさらに威力を増しているかのようだ。
もちろんML350でも十二分に速いし、むしろ洗練された走りを見せる。もしMクラスを買うならML350でいいとも思う。しかし、それでもML500にはML500の味があるのも事実だ。いい意味での武骨さがML500に重厚感を与えている。
ML500の魅力はオフロード性能の高さにも見ることができる。新型Mクラスには全車にABSやスキッドコントロールの制御を変更するオフロードスイッチやダウンヒルの速度をコントロールするDSR、ヒルスタートアシストなどの電子デバイスが標準で装備されるが、このML500ではさらにオプションでオフロードパッケージを選ぶこともできる。車高調整が可能なエアマチックサスペンションや電子制御デフロック、ローレンジモードセレクターなどを備えたパッケージを選べば、超本格的なオフロード走行が可能となるというわけだ。
ML350にもこのオフロードパッケージをオプション設定すればいいのにとも思うが、「ここまでのパフォーマンスを必要とする人はそう多くない」というのがダイムラー・クライスラー日本の見解。ML500は新型Gクラス(ゲレンデバーゲン)への発展の可能性すら見せるモデルだ。
オフロードコースを特別に走る機会があったが、ここでもモノコック構造ということで心配される剛性にまったく問題はなかった。まずは遭遇することのないであろう状況でも驚くべき走破能力を示したことを報告しておこう。ML500こそメルセデスベンツの本質的な価値を持ったSUVと言えるかもしれない。(文:松本雅弘/Motor Magazine 2006年2月号より)
メルセデス・ベンツML500 (2006年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4790×1910×1815mm
●ホイールベース:2915mm
●車両重量:2170kg
●エンジン:V8SOHC
●排気量:4965cc
●最高出力:306ps/5600rpm
●最大トルク:460Nm/2700-4250rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:945万円(2006年当時)