2005年のフランクフルトショーでデビューした2代目ジャガーXKは、2006年のデトロイトショーで発表されたコンバーチブルをシリーズに加えて、2006年より販売が開始された。デザインはイアン・カラムの手によるもので、その試乗会は南アフリカ・ケープタウン周辺で行われている。その当時の試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年5月号より)

スポーツカーとしての持ち味を随所に感じさせる

香港、ヨハネスブルグで飛行機を乗り継ぎ、ケープタウンに着いたのは、成田を発ってからちょうど24時間後。さらに空港からクルマで小1時間、やっと試乗会場となるホテルへ来ることができた。自宅を出てからだと30時間くらい経っている。若干の休憩をとった後、さっそく試乗となった。そして、ジャガーXKコンバーチブルを100mも走らせるなり「遠くまで来た甲斐があった」と満足感にひたることになる。

そこには期待していたとおりのジャガーワールドがあった。アルミボディを使うことなどにより、しなやかで切れ味の鋭い走りを実現したXJシリーズは世界的に評価が高いが、このXKはその延長線上で見事な進化を見せている。さらにXJとは違うスポーツカーとしての持ち味を随所に感じさせるところが素晴らしい。

さて、XKでもアルミボディが採用されている。全長479mm、全幅1892mmという堂々としたボディにもかかわらず、車重はクーペで1595kg、コンバーチブルでも1635kgに過ぎず、これは同クラスのスチールボディを採用するライバルより、およそ100kg軽いというレベルだ。

軽量なことによるメリットは、加減速時やコーナリング時、またそれらが複合した動きをするときなど、あらゆる局面で感じられ、それは実に気持ちよく、ドライビングを楽しくするものだ。そして、さらにこのフィーリングを味わっていくと、スポーツカーとしてのこうした楽しさは、軽量ボディであることとボディ剛性の高さが相まって実現されているのではないかと感じた。コーナーでは思ったとおりに軽やかに、しかも素早く向きを変え、またステアリングの手応えはしっかりしている。さらに、サスペンションはしなやかで、それを支えるボディがしっかりしているので、身体に伝わるフィーリングが実によい。見事に路面をいなしている印象だ。

ボディ剛性の高さについては試乗後のプレゼンテーションで説明があった。同じアルミボディでも、XJより接合箇所が1割以上少なくなっており、そのぶん剛性が高まっているそうだ。スチールボディの従来型XKと比較すると、接合箇所は約4割減にもなっている。そして、ボディのねじり剛性は従来比クーペで31%アップ、コンバーチブルで48%アップだという。軽くて、しかも格段に剛性の高いボディを得たのだから、走りのフィーリングがこれだけよくなるのも納得できる。XJで得たアルミボディのノウハウをこのXKでは大いに活かしているようだ。

走りの良さに貢献しているものにはもうひとつ、ZF社製の6速ATがある。ドライブトレーン担当のエンジニアによると、「ZFは今、世界最良。スムーズで静か、信頼性も高い」という。XJに搭載されているものと基本的には同じものだが、シーケンシャルマニュアルモードが付き、ステアリングにはジャガー初となるパドルが設置される。さらにシフトチェンジにかかる時間が短縮された。約0.6秒でシフトチェンジを終えるが、これは標準的なATより0.4秒ほど短いのだという。実際に短く感じるが、短いことでシームレスでスムーズな印象を受ける。このフィーリングはフォルクスワーゲングループが持つDSGに近いものがある。

エンジンは4.2L V8で、これもXJで実績を残しているものだが、インジェクションをリファイン、出力と燃焼効率の向上が図られている。フィーリングはフラットトルクでジェントル、扱いやすいといったところ。実際に2000〜6000rpmで、最大トルクの85%以上を発揮する。エキゾーストノートは期待どおりスポーティで、メイン市場のアメリカで好まれそうな「聞かせる」ものだ。

画像: イアン・カラムの下、XKを担当するテイラー・チーフデザイナーによると、インテリアは「アルミニウムの感覚をもったもの」にしたという。

イアン・カラムの下、XKを担当するテイラー・チーフデザイナーによると、インテリアは「アルミニウムの感覚をもったもの」にしたという。

エクステリアデザインはこうなる必然性があった

さて、スタイリングを見てみよう。かつてアストンマーティンでDB7のデザインなどを手がけたイアン・カラムが、ジャガーに移籍して初めて一から手がけたのがこのXKだ。ディレクターとして迎えられたイアン・カラムの使命は、デザイン変革をするということだった。プレミアムブランドであればあるほど変革を続けていかなくてはいけない。伝統の上に胡座をかいているようでは、ブランド価値は風化する。そのことをよく理解しているジャガー首脳陣は、イアン・カラムにその作業を託したのだ。また、XJシリーズがあれほどよい出来映えでありながら、思うように販売が伸びないのは、「デザインが保守的過ぎた」という反省もあるようだ。

そうした背景があることを理解した上でXKを見ると、なるほどと感じさせられる部分が多い。全体的にはEタイプからのジャガースポーツらしいフォルムを持ちながら、リアコンビランプなどディテールでは、2003年のフランクフルトショーで公開されたコンセプトモデル、「R-D6」を思わせるデザイン処理が採用されている。イアン・カラムは、R-D6でジャガーデザインの方向性を示していたわけで、それがついに市販モデルにも活かされてきたということだ。

また、ヘッドライトまわりのデザインにはこうなる必然性があった。XKには万が一、歩行者と衝突した場合、自動的にボンネットが数センチ持ち上がり、歩行者に与える衝撃を和らげる安全システムが装着されているが、このシステムの効果をより高めるために、ヘッドライトは統計的に歩行者の頭が当たる確率が少ないところに配置されたのだ。

キャビンは従来モデルに比べて、かなり広くなった印象だ。フロントシートの足元スペースは54mm、頭上スペースは20mm、シート幅は35mm拡大している。また、パーキングブレーキがエレクトロニックになったことで、ブレーキレバーがあったところがすっきりし、収納スペースが増えている。インパネまわりのデザインは、これまでのXKに比べるとゴージャスさよりスポーツ性を強調したもので斬新。ここにもイアン・カラムの決意が感じ取れる。

試乗会が行われたケープタウン周辺のロケーションは最高だった。スポーツカーを楽しむのに、これほどよいところは世界でもそう多くはないだろう。そこでこの秀逸な仕上がりのスポーツカー、ジャガーXKを走らせることができたことは、今年の私的トップニュース、ベスト3に入るだろう。XJに続いて、このXKを送り出してきたジャガーの技術力は素晴らしい。あとは商業的な成功を願うばかりだ。(文:荒川雅之/Motor Magazine 2006年5月号より)

画像: コンバーチブルでも非常にボディ剛性が高いのが大きな特徴。またソフトトップを閉じたときの遮音性は高い。

コンバーチブルでも非常にボディ剛性が高いのが大きな特徴。またソフトトップを閉じたときの遮音性は高い。

ヒットの法則

ジャガーXKクーペ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4791×1892×1322mm
●ホイールベース:2752mm
●車両重量:1595kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4196cc
●最高出力:300ps/6000rpm
●最大トルク:420Nm/4100rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:6.2秒
●最高速:250km/h(リミッター作動)
(欧州仕様)

ジャガーXKコンバーチブル 主要諸元

●全長×全幅×全高:4791×1892×1329mm
●ホイールベース:2752mm
●車両重量:1635kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4196cc
●最高出力:300ps/6000rpm
●最大トルク:420Nm/4100rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:6.3秒
●最高速:250km/h(リミッター作動)
(欧州仕様)

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