2006年のデトロイトショーで発表された初代メルセデス‏・ベンツGLクラス(X164型)は、早速北米市場で発売を開始、サンフランシスコで国際試乗会も行われている。Gクラス(ゲレンデバーゲン)に匹敵する車格とMクラスのような万能性を併せ持った7シータービッグSUVはアメリカ西海岸でどんな走りを見せたのか、振り返ってみよう。(以下の記事は、Motor Magazine 2006年5月号より)

アメリカでは家族のファーストカーとしてジャストサイズ

全長5088mmに全幅1920mm、すなわち日本や欧州の感覚でいえば立派なフルサイズ。それもあってGLクラスの市場でのポジションは、我々には今ひとつ不明瞭にみえる。GクラスとMクラスがあるところにわざわざこれを加える意味はなんなのよと。

しかし視点を、この寸法をミッドサイズと捉えるアメリカに移せばGLクラスはとてもわかりやすい、まさに要求のど真ん中にあるクルマということになる。町内や仲間うちで、子供たちの通学送迎を日常とする彼らの生活においてはきちんと使える3列シートがマストであり、それを満たすSUVというのはどこでもみんなで行ける家族のファーストカーとして確たるニーズがあるわけだ。

一方で日欧はもとよりアメリカでも、既存のGクラスのプレミアムSUVとしての人気は非常に高いという。軍用としての供給が続き、マグナシュタイアの工場に生産移管が完了している以上、メルセデスとしてもGクラスを打ち切る理由はない……ということで、先のデトロイトショーではGクラスの継続販売も正式にアナウンスされている。

プラットフォーム上はRクラスやMクラスと兄弟的な関係となるGLクラスは当面、両車と同様にアラバマ州のタスカルーサ工場で生産される。初代Mクラスでは静的クオリティに難があったものの、その後の改善努力や設備投資の甲斐があって、その商品力は他のメルセデスと比べても遜色のないところまで達していることは、すでに日本に上陸している新型Mクラスが証明した。同水準で作られるGLクラスも然りで、その質感は欧州のプレミアムSUVと比べても遜色のないレベルがキープされている。

画像: 初代メルセデス‏・ベンツGLクラス(X164型)。スタイリングイメージにMクラスに近いが、ボディサイズはひと回り大きい。

初代メルセデス‏・ベンツGLクラス(X164型)。スタイリングイメージにMクラスに近いが、ボディサイズはひと回り大きい。

徹底した安全性の追求としなやかな乗り味が武器

GLクラスの主たる狙いのひとつは先に触れたとおり、快適に使える3列シートにあるわけだが、同時にオフローダーとしての機能も満たさなければならない。つまり各脱出アングルを考慮すると、リアのオーバーハングを抑えつつできるだけ短いホイールベースの中で3列のシートをゆったりと並べなければならないわけだ。

結果、GLクラスのホイールベースはMクラスと比較して、全長が300mm近く伸びているのに対して160mmのプラスの3075mmに設定されている。ここにMクラス譲りのエアマティックを全車標準で組み合わせることで車高調整を容易にし、基礎の走破性を高めているわけだ。

オプションのオフロードエンジニアリングパッケージを選べば、センターとリアの電子制御デフロックに加えて、最大で307mmの最低地上高を確保、600mmの渡河性能を誇るヘビーデューティなオフローダーへと変身する。

サンフランシスコで行われた試乗会では実際に泥粘の悪路を試す機会もあったが、そこでは標準装備されるヒルスタートアシストやダウンヒルの速度制御といった電子デバイスも手伝い、アクセルコントロールだけでなんの躊躇もなくその場を走りきった。

そういう機動力を有しつつも、GLクラスの居住性や積載性は大柄な車体から想像するそのままのものだ。後席ドアからの3列目シートへのアクセスはレバーひとつで行え、その動線もゆったりと確保されている。そして実際身長180cm級の大人が2人、頭上にも足下にもある程度余裕をもって座れるだけのスペースを確保してある。

クォーターウインドウのデザインでボカしてはいるものの、GLクラスのリア周りはかなりスクエアな仕立てになっているが、その恩恵はここに繋がっていたわけだ。

ちなみにその3列目シートは電動で格納することが可能。2列目の後席も倒すと前後長2100mm以上、容量にして2300Lの巨大なラゲッジスペースが生まれる。

GLクラスは各種安全性に対してももちろん抜かりはない。通常の前席2つに加えて全席カーテン式に前後席はサイド式と、車内はぐるりとエアバッグに取り囲まれる。それらを含めたパッシブセーフティ機能を最適に機能させるため、ABSやESPといったアクティブセーフティ機能の作動状況を受けてパッシブ側を連動準備させるプレセーフシステムを用意した。これはメルセデスのSUVでは初の装備となる。

GLクラスに搭載されるエンジンはガソリンの場合、V8の2本立てとなる。Sクラスでデビューした新開発のDOHC 5.5Lに加えて、このクルマでデビューしたのがそのスケールダウンとなる4.7Lだ。

ちなみに試乗は後者を積んだGL450のみ、そしてエンジン・サスペンションのマネジメントはアメリカ仕様となった。導入される時期や価格は現状では不明だが、日本に入ってくる可能性は大いに考えられるグレードだろう。

GLクラスの乗り味を一言でいえば「しなやか」に尽きるだろう。その点、兄弟車にあたるMクラスとは相当に趣を異にしている。

メルセデスらしい柔らかな操舵感をもったステアリングに対する反応も、効き自体は悪くないブレーキングに対する挙動も、オフローダー的ながさつさは微塵もない。時にバネ下の重さを感じることがあることを除けば、クルージングの乗り心地も極めて滑らかだ。

エンジンは車格に対して十分に事足りるばかりか、ステアリング裏のパドルで7Gトロニックを積極的に使えばかなり活発なアベレージを保つこともでき、その際の静粛性も十分に合格点が与えられる。その乗り味のまろやかさはレンジローバーにも接近しているのではないかというのが正直な思いだった。

もちろんカーブを曲がってどうこうというクルマではないわけだが、GLクラスはこの上質なライド感をコーナリング時でも投げ出さない。重く大きな車体のロール制御はドライバー的にはいかにもメルセデス的に懐が大きく、安心して手綱を握っていられる。エアサスのスポーツモードは個人的にはいらないと思うほど旋回性も安定していたが、もし他の乗員が大きめのロールを嫌うようであれば、手許のスイッチひとつでそれを抑えることもできるわけだ。

ちなみにサスのマネジメントは欧州仕様もさほど変わらないという話だったが、メルセデスらしい卓見があってのこの優しい乗り味は、GLクラスの他車にない大きな武器となる。変にイジられることなく、できればこのままで日本に入ってくることを望みたい。(文:渡辺敏史/Motor Magazine 2006年5月号より)

画像: スクエアな形状のリアセクション。ホイールベースをいたずらに伸ばすことなく、3列シートを実現している。

スクエアな形状のリアセクション。ホイールベースをいたずらに伸ばすことなく、3列シートを実現している。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツGL450 主要諸元

●全長×全幅×全高:5088×1920×1840mm
●ホイールベース:3075mm
●車両重量:2355kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4663cc
●最高出力:340ps/6000rpm
●最大トルク:460Nm/2700-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:4WD
(欧州仕様)

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