他メーカーとの協力関係でカチカチ山の問題を解決する
「悪魔の爪痕」はクロスホローとカーボンアペックスシールが解決のポイントとなったわけだが、これも偶然というわけではない。そういう体制が作られていた点も見逃せない。
「RE研究部は開設時、調査グループ、設計グループ、試験グループ、材料研究グループという4つのグループに分けられていました。山本さんに先見の明があったと思うのは、材料研究部門をすごく大事にされて、そこの人材もちゃんと確保されたということです。
さらに松田社長の力も大きかったと思います。RE研究部ができた直後に、いろいろな部品メーカーのトップの方をお呼びして、ロータリーを開発したいから是非協力して欲しいということを言われていた。そして、みなさんが是非協力しましょうということになったらしい。社長の人脈を生かして部品メーカーさんとの協業がものすごくうまくいったことが、ロータリーが立ち上がるためのすごく重要な要素になったはずです。
松田社長が構築してきたネットワーク、人と人のつながり、会社と会社とのつながりが、ロータリーの実用化に向けての大きな力になったのだと思います。松田社長のヒューマンネットワークというのはすごいものがありました。当時の池田勇人首相を初め、自動車業界はもちろん、芸能界に対してもいろいろなサポートをされていたようです。」
「悪魔の爪痕」の問題をアペックスシールのクロスホロー化とカーボンパウダーにアルミを含侵させる技術で解決したのは前回のとおりだが、「カチカチ山」と「電気あんま」の問題は残されていた。「カチカチ山」の問題は、マツダ独特のオイルシールと、Oリングを開発して解決することができた。これはローター側面の溝にリング状のシールを装着し、サイドハウジングとの気密はスプリングで押しつけたシールリップで行い、溝側面との気密はゴム製のOリングで行うというものだ。
オイルシールの先端部分は厚みがあるが、そこには傾斜が付けられていた。ローター側面のオイルシールでサイドハウジング面のシーリングを行い、オイルが燃焼室内に入らないようにするには、ローターの遊星運動をうまく利用して、オイルシールがサイドハウジング表面のオイルをかき取ったり乗り越えたりすることが必要になる。ロータリーエンジン用に開発されたオイルシールは、その先端部分の傾斜していて、一方へ動くときはオイルをかき取り、逆に動くときにはそれを乗り越えるようにし、オイルによる潤滑をしつつ、燃焼室には入れないという構造になっていた。
ただし、そのためには常にオイルシールの先端が鋭いエッジになっている必要があった。摩耗して丸くなってしまってはシール効果が期待できない。この問題はエッジ部分が摩耗してもオイルシール面の一部に硬質クロームメッキをすることにより、先端は常に鋭いエッジを保つようにした。オイルシールの開発は日本ピストンリングと日本オイルシールの協力を得て行われ、クロームメッキ技術は日本ピストンリング社の技術が大きく貢献したという。これでオイル消費が改善され、「カチカチ山」の問題が解決された。「電気あんま」の問題は次回に。<続く>(取材・文/飯嶋洋治)
参考文献:「マツダ・ロータリーエンジンの歴史(GP企画センター編/グランプリ出版)」