ブラックダブル縦格子の入ったキドニーグリルがMの証
BMWのハイパフォーマンスモデルをプロデュースするM社の2019年における販売台数が13万5826台と記録的な数字となると同時に、13万2136台を販売したメルセデスAMG社を抜いて、このセグメントにおけるトップに立った。このM社の好調を支える要因のひとつとして、SUVがある。SUVは現在、全売上の30%近くにまで販売台数を増やしているが、M社では半数近くがSUVなのだ。
そのベーシックな理由はもちろん、SUVが本来持っている高いドライビングポジション、スポーティでアクティブなキャラクターに加え、高い実用性があるが、その結果MやAMGなどにおいては低く狭く、せいぜい大人2人と子供2人しか乗れないこれまでのスポーツカーに対して大人4人がゆったりと乗れて走りにも妥協のない、リアルスポーツカーとして受け入れられ始めたのだと思う。
そして、今回試乗したこのX5 MとX6 M、そして両モデルのコンペティションバージョンこそ、その新しいスポーツカーの最右翼なのではないかと思う。
私の面前に現れた3世代目のX5 MそしてX6 M(そしてコンペティションモデル)はM独自のブラックダブル縦格子の入ったキドニーグリル、三次元のフロントインテークフレーム、レース環境にも耐えるエアボリュームを確保する大きなエアインテーク開口部、さらにエアロドアミラー、22インチタイヤ(オプション)を覆うオーバーフェンダーを装着。
そしてリアに回るとアクティブディフューザー、Mマフラー、ルーフスポイラーなどで他を威圧するように佇んでいた。 またボンネットの下にはMツインパワーターボテクノロジーを搭載した、スタンダードで600ps(441kW)と750Nm、コンペティションで625ps(460kW)を発生する4.4L V8
ツインターボエンジンを収めている。0→100km/hを3.8秒、最高速度は250km/hだが、オプションのMドライバーズパッケージで290km/hまで引き上げることが可能である。
一部のスキもない走りは一流スポーツカーそのもの
走り出して気がつくのは無類にスムーズな8速AT、そして全体に締め上がった印象を与えるボディとシャシだ。これはしっかりとしたエンジンマウント、Mスポーツシャシのおかげだ。やや硬めのミシュランのスポーツタイヤでもスピードを上げると快適なことこの上ない。
一方で峠道では、操舵にやや力が必要だがクイックで正確なステアリングのおかげで、2.3トンの巨体を忘れるようなスポーツ走行が楽しめる。このセッションでもっともドライバーの気分を高揚させるのはV8エンジンからのやや甲高いエキゾーストサウンドだ。
ステアリングポスト上のM1そしてM2ボタンを押すと公道では憚られるようなクイックなレスポンスが楽しめる。また、Mコンパウンドブレーキも頼もしい。2.3トン超の巨体を驚くほどの制動力でコントロールする。100km/hから停止までは0→100km/hとほぼ同じ3.4秒しか要しない。
ほぼ同時期に試乗したAMGのV8エンジンを搭載したハイエンドモデルには48Vのマイルドハイブリッドが搭載され、負荷の少ないコースティング時はエンジンが停止して、「後ろめたさ」が多少だが薄まった。しかし、X5 MとX6 Mは本音を隠さず、ぐいぐいとドライバーをMの世界へ引きずり込み、環境への配慮はアイドリングストップだけで済ませている。
こうした気になる点もあるが、大人4名と相当な量のラゲッジを安全に運べるという自動車の建前と、600ps(あるいは625ps)のビッグマシーンを操る楽しみを与えてくれるM社の2台のSUV(BMW的にはSAVとSAC)は、冒頭に述べた新世代のハイライダースポーツカーの相応しい資質を持った魅力溢れたハイエンドスポーツモデルであった。
もちろん、それなりの出費は覚悟しなければならずBMWのプライスリストによれば日本の価格は、X5 Mコンペティションが1859万円、X6 Mコンペティションは1899万円となっている。ちなみに、X5 MそしてX6 Mのスタンダードバージョンは当面日本市場への導入はなさそうだ。(文:木村好宏)
■BMW X6 M コンペティション主要諸元
●全長×全幅×全高=4941×2019×1693mm
●ホイールベース=2972mm
●車両重量=2370kg
●エンジン= V8DOHCツインターボ
●総排気量=4395cc
●最高出力=625ps/6000rpm
●最大トルク=750Nm/1800-5600rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=1899万円