Motor Magazine誌は 2006年9月号で「ゴルフ」を大特集。1974年に誕生したゴルフはどうやって進化してきたのか、そして2006年の時点でどういった境地に達しているのかをじっくりと検証している。その中で興味深いのがゴルフファミリーの比較試乗。ゴルフ、ゴルフプラス、ジェッタ、ゴルフトゥーランはどのような関係にあり、どのような違いがあったのか。ここではその記事を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年9月号より)

合理的な2ボックスのゴルフには「良いもの感」がある

ゴルフとは一体どういうクルマなのか。これをひと言で答えるのは、実は相当に難しい。1974年に登場した初代や、その後の第2世代あたりまでなら「小型車の世界的なベンチマーク」という言葉で表現することもできるだろうが、5つの世代を重ねた現行モデルは、もはや「小型車」と呼ぶのは憚れるほどの立派な姿態と充実したメカ&装備を持つクルマになっている。

とは言え、こうしたゴルフの上昇志向がユーザーのニーズであったのも、また事実である。なぜならゴルフは変わらずフォルクスワーゲンブランドを象徴する基幹車種であり、いまなお圧倒的なセールスを維持しているからだ。その傾向は日本国内において特に顕著で、ゴルフの販売台数はフォルクスワーゲンブランド全体の半分近くを占めるという。

ゴルフが最初に世に出たときの姿は、実は現在のポロの成り立ちに近いのだが、にもかかわらず世間はゴルフの成長を愛情をもって受け入れて来たわけだ。その理由を「ネームバリュー」だけで片付けるのは無理があると僕は考えている。時代とともに移り変わって行くユーザーの心を繋ぎ止めるのはそんなに簡単なことではない。ゴルフという名前の他に、常に「見て、触れて、乗って」納得させるだけの魅力を提示してきたということだろう。

僕はそれを「良いもの感」と呼びたい。ゴルフには確かにこれがある。例えばスタイリング。ゴルフは2ボックスカーの基本みたいに捉えられていて、実はスタイリングデザインそのものに言及されることは少ないが、安定感のある、カチッと合理的な佇まいは実によくまとまっている。

インテリアにしても然り。依然として華美な装飾は控える傾向だが、パーティングラインの詰まったインパネや仕立ての良いシートなど見る者を納得させる質感を持っている。前後席に十分なゆとりを振り分けたキャビンや大きなラゲッジルームなど合理性をメインとしたパッケージングも健在だ。全体から受ける緻密な雰囲気もいかにもドイツ車といった風情で、これもゴルフの大きな魅力だ。

ここまでゴルフVの成り立ちを紹介したが、ご存知のように現在のゴルフは多彩なファミリーを持つに至っている。ここから先は、それらとともに見ることで、ゴルフの本質を探っていきたいと思う。

まず今回ゴルフとともに連れ出したゴルフプラス、ゴルフトゥーラン、ジェッタの各車は、それぞれ血縁関係に微妙な違いがあることを頭に入れておいた方が良いだろう。ちなみに、今回は4車の違いをより明確にするため、グレードはゴルフの基本とされるGLiに合わせた。ジェッタはグレード呼称が異なるが、今回の2.0は他モデルのGLiに当たるモデルだ。

最も血縁が深い、兄弟車とも言える存在がゴルフプラスである。このクルマは全長/全幅がゴルフとまったく同一。全高を85mm文字通り「プラス」しただけで、本国でもゴルフの1バリエーションとして扱われている。

それに対して、トゥーランは最も遠い親戚と言っていいだろう。ボディ外寸がまったく異なる上に、ホイールベースも今回の4車で一台だけ100mm延長の2675mm。それにもちろんシートレイアウトも5人乗りではなく7人乗りだ。すでに広く知られているようにゴルフトゥーランと呼ぶのは日本だけで、欧州ではフォルクスワーゲン トゥーランとして、まったく独立した車種として扱われる。つまりはカローラに対するウィッシュ、シビックに対するストリームのような存在。日本でゴルフの名をあえて使ったのは、輸入車となると意外に伸びないミニバン需要をゴルフのネームバリューで盛り上げたかったのが真相だろう。

ジェッタは血縁は深いが、嫁いで名前の変わった姉妹のような存在。端的に言えばゴルフのノッチバックセダンで、メカニカルコンポーネンツはほぼ共通だが、ゴルフよりやや豪華な演出が行われている。

画像: 合理的なFF2ボックススタイルのゴルフ。日本上陸は2003年8月。1.6LのE、2LのGLi /GTに加え、2LターボのGTI/GTX、3.2L 4WDのR32をラインアップ。

合理的なFF2ボックススタイルのゴルフ。日本上陸は2003年8月。1.6LのE、2LのGLi /GTに加え、2LターボのGTI/GTX、3.2L 4WDのR32をラインアップ。

ゴルフプラスはシンプルで質実剛健な持ち味

以上の4台の中で僕が最も興味深かったのが、ゴルフプラスの存在だった。このクルマ、いちばん血縁関係が深いはずなのに、乗ると明確にゴルフとは違う味わいを感じたのである。

ヒップポイントが高くゴルフより開放感があり、上方向にスペースの余裕を求めた結果、後席を中心にキャビンがさらに広くなっているのは言うまでもない。そういった実用面のゴルフプラスは確かに歓迎したいのだが、ゴルフと乗り較べると微妙に走りそのものの味わいが異なるのだ。

誤解を恐れずに言えば、ゴルフプラスはゴルフよりも少し安っぽい。例えばエンジンノイズのインシュレーションはワンランク落ちる感じで、エンジン音が目立つし、ロードノイズもフロアからポコポコとした音が入る。

ただし、これはあくまでもゴルフと較べた時の話であって、ゴルフプラスが同クラス他車と較べて快適性において特に見劣りがするわけではない。つまりゴルフの方が常識はずれにコンフォート性能が高いのだ。

それが先に記したゴルフの「良いもの感」をさらに際立たせているのは間違いないが、さらに考えるなら、フォルクスワーゲンはゴルフのもうひとつの姿をこのプラスで提案したかったのではないだろうか。やや豪華に行きすぎたゴルフを、実用性を重視したゴルフプラスでは少し引き戻して見せたい。そんな考え方だ。

だからなのか、ゴルフではガスダンパーで支えられていたボンネットがゴルフプラスでは金属バー式に改められていたり、リアゲートオープナーがゴルフのVWマークを反転させる方式から単純なスイッチ式に改められていたりもする。さらに言うなら、インパネ周辺の造作も専用デザインとしているものの、面積が増えたせいかやや殺風景だ。コストダウンのひと言で片付けてしまうのは簡単だが、よりシンプルで質実剛健な持ち味をこのゴルフプラスに込めたと考えるのは、必ずしも好意的過ぎる解釈とは言えないと思う。

なぜなら、ゴルフプラスは走りにおいてゴルフと同じ、正確で安心できるシャシ性能を受け継いでいるからだ。上背が増した分だけボディのアクションは大きくなっているし、追い込んでいくとアンダーステアやアクセルオフでのタックインもやや大きく出る。しかし、それでも緊張感が高まらないコントローラブルなハンドリングはゴルフVの血筋そのものと言っていい。

気になるのは価格だけだ。ゴルフプラスはゴルフに対して5万円ほど高い。これがゴルフと同等か、あるいは少しでも安く設定されていたならば、プラスはよりその存在価値を高めていたと思う。

画像: ゴルフプラスは全高を85mmアップすることにより室内空間を拡大してプラスαのゆとりをアピール。日本発表は2005年10月。

ゴルフプラスは全高を85mmアップすることにより室内空間を拡大してプラスαのゆとりをアピール。日本発表は2005年10月。

豪華で華やかな雰囲気のジェッタ

ジェッタは、ある意味ゴルフプラスの対極にあるゴルフファミリーだ。最も大きな違いはリアノッチを持つセダンボディである点だが、同時にゴルフプラスにもゴルフにもない、豪華で華やかな雰囲気を備えている。

それは外観に特に顕著に出ている。クロームメッキを大胆に使ったフロントマスクはゴルフの楚々とした顔立ちとは一線を画するものだ。

インテリアも、基本的な造形はゴルフと同じであるものの、ステアリングとパーキングブレーキレバーは革巻きになり、シフトノブやトリム類にウッドパネルが盛大に使われるなど明らかに上昇志向が強い。またゴルフでは2006年モデルから廃止されたオートライトが残るなど、機能面でも差をつけている。

セダンはハッチバックより保守的なユーザーが多いという読みから、それらにアピールすべくよりわかりやすい豪華さを打ち出した。おそらくそういうことだろう。それは決して外れてはいないと思うし、スタイリングも歴代のジェッタ→ヴェント→ボーラの中で最も均整がとれている。ゴルフの優れた資質を胸を張ってノッチバックボディで味わえるというのは魅力的だ。

ただ、フットワークの味付けも変えている点は賛否の分かれるところかも知れない。ジェッタの足まわりはゴルフより多少柔らかいのだ。おそらく、より平穏な乗り心地を目指したのだろう。その証拠にステアリングのゲインは若干落ちていて、高速域ではよりどっしりとした乗り味になっている。これ自体は悪くないのだが、例えばコーナリングで多少追い込んでいったときのボディアクションはやや大きめだし、ゴルフでは正確無比と感じた接地感も多少ぼやけている。

ワンサイズ上のタイヤを履いてなお、ゴルフ以上の乗り心地と静粛性を実現しているのは評価できるが、走りの軽快さや安心感という点においてはゴルフの方がわずかながら上を行くというのが僕の偽らざる感想だ。

ジェッタにはこの上にターボエンジンの2.0Tが存在する。こちらはさらに締まった足まわり(締まりすぎという指摘もあるが)でスポーツセダンとしての味わいを強めているが、僕は2.0にも同じ味わいが欲しかった。

こう書くと「ジェッタ2.0TはゴルフGTIと対を成す特別なグレードだろう」との声も聞こえて来そうだが、実はゴルフGLiも熟成を重ね、現在は快適性と軽快さを両立させた、良質なフットワークを実現している。これに対し、ジェッタとゴルフプラスはそれぞれまだ何がしかの迷いを抱えているように思えてならない。それにしても、これだけのファミリーの中にあって、走りに関しては常にベストの仕上がりを維持するゴルフは、やはりさすがと言うほかない。

ところで、これまでエンジンに関して触れて来なかった。今回連れ出した4車はともに自然吸気の2L FSIでパワースペックも同一だが、実はセッティングが微妙に異なっている。もっとも顕著な違いを見せたのは、やはりゴルフだった。他車に対し車重が最も軽いということも勘案しなければならないが、重量差が最も近いジェッタと較べても差は想像以上に大きい。

まず言えるのは、アクセルレスポンスがシャープで出足が実に軽快なこと。おそらく電子スロットルの制御が異なっているのだろう。その後の加速感も、他車がフワーっと車速を乗せるイメージなのに対して、ゴルフはモリモリと来る。全体にメリハリが効いた味付けなのだ。ちなみに絶対的な動力性能は3車とも十分。ゴルフファミリーにはターボ系やR32なども存在するため、自然吸気にことさら大人しいイメージがあるが、6速ATの効果は絶大で2Lクラスとしてはいずれも俊足なクルマに仕上がっている。

画像: ジェッタはいわゆるゴルフのセダン。つまり、ボーラの後継にあたるが、より高級化した印象。日本発表は2006年1月。GLiにあたる「2.0」とGTIと同じエンジンを搭載する「2.0T」を設定。1.6は日本導入なし。

ジェッタはいわゆるゴルフのセダン。つまり、ボーラの後継にあたるが、より高級化した印象。日本発表は2006年1月。GLiにあたる「2.0」とGTIと同じエンジンを搭載する「2.0T」を設定。1.6は日本導入なし。

ひとクラス上に感じてしまうトゥーラン

さて、最後にトゥーランに触れなければならない。このクルマを後回しにしたのは、他の3車と明らかに味わいが異なるからだ。ディメンジョンが大きく違うので予想できていたことだが、やはり驚きもあった。

まず静粛性。ゴルフを含めた3車よりもさらに充実していたのに驚かされた。トゥーランは3列シートのいわゆる実用車だから、この辺を真っ先に見切って来そうだが、実はエンジン音、ロードノイズともにもっとも静かで、広いキャビンと相まってひとクラス上のクルマを運転しているような気分になる。

ただ、インテリアはフラットなシートやアップライトな乗車姿勢で豪華な雰囲気は薄い。それに動力性能も車重が最も重いため、他の3車ほどの俊足はない。決して鈍重ではなく、ちょうど良いという感じの加速感だ。

もうひとつ、フットワークの良さにも驚かされた。トゥーランは上背が高いため、最も締まった足にゴルフよりワンサイズ太いタイヤを履く。そのためやや当たりは硬いのだが、一方で旋回時の安定感とフラットな姿勢を保つセッティングになっている。攻めた走りでは、ゴルフに次いでこのトゥーランが楽しめたのは意外な発見だった。

ゴルフを中心に4車を見てきて感じたのは、「走りの味わいの中心にいつもゴルフがある」という事実だった。パッケージ面ではそれぞれ異なった提案を行っているわけで、オーソドックスなハッチバックという形態をとるゴルフが最も保守的と言えるが、動力性能、ハンドリング、快適性などで常に最新のスペックが与えられるのは、やはりゴルフなのである。だからこのクルマはステアリングを握ったときの「良いもの感」がいつも新鮮なのだ。

いずれはこれを基本に他のファミリーも熟成されるのだろうが、その時、ゴルフは次の高みへと登るべく新たなステップを踏みだしているはず。その意味でも、フォルクスワーゲンを、そして世のミドルサルーンの行く末を常にリードしているのがゴルフであるのは間違いない。そして、それこそがベンチマークに課せられた役目なのである。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2006年9月号より)

画像: ゴルフトゥーランはゴルフをベースに誕生した新世代ミニバン。2003年3月デビュー、日本発表は2004年4月。

ゴルフトゥーランはゴルフをベースに誕生した新世代ミニバン。2003年3月デビュー、日本発表は2004年4月。

ヒットの法則

フォルクスワーゲン ゴルフGLi主要諸元

●全長×全幅×全高:4205×1760×1520mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1380kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:150ps/6000rpm
●最大トルク:200Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●荷室容量:350-1305L
●車両価格:279万3000円(2006年)

フォルクスワーゲン ゴルフプラスGLi主要諸元

●全長×全幅×全高:4205×1760×1605mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1480kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:150ps/6000rpm
●最大トルク:200Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●荷室容量:395-1450L
●車両価格:284万5500円(2006年)

フォルクスワーゲン ジェッタ2.0 主要諸元

●全長×全幅×全高:4565×1785×1470mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:150ps/6000rpm
●最大トルク:200Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●荷室容量:527L
●車両価格:289万円(2006年)

フォルクスワーゲン ゴルフトゥーランGLi主要諸元

●全長×全幅×全高:4390×1795×1660mm
●ホイールベース:2675mm
●車両重量:1600kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:150ps/6000rpm
●最大トルク:200Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●荷室容量:121-1913L
●車両価格:319万円(2006年)

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