2006年、BMW 335iクーペに搭載されて登場した3L直6ツインターボエンジンは大きな話題を呼んだ。「なぜBMWはツインターボを復活させたのか」、それを検証するためにMotor Magazine誌は、水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載するポルシェ911ターボとともに、BMW 335iクーペのテストを行っている。今回はその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年11月号より)

335iクーペはまるで大排気量エンジンのようなフィーリング

7月にオーストリアのインスブルックで試乗したばかりのBMW 335iクーペが、9月に早くも日本へ上陸した。そこで、最新6気筒ツインターボエンジンの僚友であるポルシェ911ターボとともに、日本の道を走ってみた。

あいにくの雨模様の中、911ターボはタイヤを新しく履き替えるために少し遅れて来ることになったので、335iクーペで一足先に出発することにした。スタッフも一緒に乗ることになり、大人3人とそれぞれの1泊分の荷物を積んで東京を後にした。

都内はクルマも信号も多く、ゴー&ストップの繰り返しだ。キビキビ運転しないと流れに乗れないこともある。こんなときでも335iクーペは乗員の重さを感じることなく軽快に走る。ちょうど大排気量エンジンの感覚だ。アクセルペダルの踏み込みに対して遅れることなく加速が始まり、深く踏まなくても太いトルクが出ているようで、軽々と加速していく。

首都高速へと乗る。ランプウエイの登りでもスイスイだし、合流では短い加速レーンでも十分な加速ができる。急カーブが多い都市高速だが、アクセルペダルを踏んで加速しながらでも、オンザレールで安定したまま走れる。

日本の道では、周囲の状況で加速途中で急に一定速で走るとか、急にスピードダウンしなくてはならないケースがある。こんなときは、踏み込んでいるアクセルペダルを戻してくるわけだが、そのときにターボの影響を受けず、アクセルペダルの動きにエンジンの回転がすぐ従ってくれるのが良かった。ちょっと昔のターボエンジンのように、アクセルペダルを戻し始めているのに加速状態がわずかでも持続してしまうような反応だと、繊細なドライビングはできない。その意味でも、335iクーペはターボエンジンというよりも大排気量エンジンの感触である。

高速道路に乗っても、その軽快感は変わらない。延々と登り勾配が続く場面でも、その勾配を感じさせない走りである。これならば、長距離のドライブでもストレスを感じないだろう。

高速道路での走行時に感心したのは、ATのシフトプログラムだ。右足の動きを相当研究したようで、あたかもドライバーの心理を読んでいるかのごとくであった。アクセルペダルの開度だけを検知しているのではなく、アクセルペダルを踏み込む速さもチェックしている。踏み込みが深くても、ゆっくり踏み込んでいった場合にはキックダウンせず、それまでのギアをキープしながら加速する。低回転域からトルクが太いので、それを生かした加速ができる。アクセルペダルの踏み込み量が小さくてもスパッと速く踏んだ場合には、すぐに1段キックダウンして鋭い加速を開始する。もちろん、素早く「深く」踏み込んだ場合には、2段キックダウンして加速する。

一番奥にあるキックダウンスイッチまで踏み込んだら、そのスピードで使える一番低いギアに即座に落ちて加速するのはこれまでどおりだ。このときには、シートバックに背中を強く押し付けられる加速が続くが、日本の高速道路では合法的には使えない領域にすぐに入ってしまうので注意しなくてはならない。激しい雨の中での走行だったが、ハイドロプレーンは起きにくく、リアはしっかりとグリップしているので、ハンドルはいつも正確だった。

オーストリアで試乗したATモデルにはパドルシフトが装備されていたが、残念ながら日本仕様には設定されていない。しかし右足の動きひとつで自在に6速ATをコントロールできるし、この新しいATはシフト時間が短いので、パドルシフトがなくても思い通りのドライビングが愉しめる。

ただ、これだけのパフォーマンスを発揮できるクルマとしては、エクステリアデザインがちょっとエレガントに過ぎる感じを受けた。ルックスとのギャップが、やや大きいモデルである。

画像: E90型として初めてのクーぺモデルとして登場したBMW335iクーペ。フロントの左右サイドパネル(フェンダー)は樹脂製。セダンと共用するボディパネルは1枚もないという。

E90型として初めてのクーぺモデルとして登場したBMW335iクーペ。フロントの左右サイドパネル(フェンダー)は樹脂製。セダンと共用するボディパネルは1枚もないという。

911ターボの高性能は幅広い人々に理解してもらえる

昼食後に911ターボが追いついて来たので、そちらへと乗り換える。ボクが初めて乗った911ターボは、ドッカンターボの930型だったが、それから6世代目に当たる997型の911ターボはまったく性格が異なっている。ターボラグは極めて少なく低回転域からトルクが盛り上がり、上の回転になるほどパワフルになる。

それは、620Nmという図太いトルクを1950rpmから5000rpmまでという広い範囲で発揮させていることからもわかる。ちなみにノンターボの911カレラが370Nm、カレラSが400Nm、GT3が405Nmであるから、比べてみるとターボの凄さが実感できるだろう。

加速中の安定感もいい。これは4WDのお蔭だ。2日間の取材中はほとんど雨模様で、走りはウエット路面だらけ。しかし、加速時などでリアが滑り出しそうになっても、PTMの制御によってフロントタイヤに駆動力が伝わり、安定性を損なわないで鋭い走りを持続できる。もちろん、ウエット路面の高速道路における安定感も同様である。これは、かなり安心感が高い。

4WDになっている分だけフロント部が重くなっていることも、耐ハイロプレーン性能には有利だ。また、ウエット路面になるとハンドルが軽くなるし、水が深くなると保舵力がさらに軽くなるので、そろそろ危ないという感触がちゃんとつかめるのがいい。しかし、フロントにエンジンがある335iクーペほどの安心感はなかった。

試乗車には「スポーツクロノパッケージターボ(オプション)」が装着されていたので、センターコンソールにあるSPORTスイッチを押してアクセルペダルを床まで踏み込むと、10秒間だけオーバーブースト状態となる。

通常モードでの最大トルクを60Nmも上回る680Nm、それを2100rpmから4000rpmで発揮できる。もちろん限られたドライ路面のコンディションにおいてでのみ試したが、周囲の景色が飛んでいく様子とシートバックに感じるGで、680Nmをはっきりと感じることができた。

ATは、PSMを解除するかSPORTスイッチを押すとレブリミットでも自動シフトアップしない。だがアクセルペダルをキックダウンスイッチまで踏み込むとシフトアップするなど、そのプログラムは335iクーペに負けないほど凝っている。

静止状態から100km/hまでの加速タイムが、6速MTの3.9秒より速い3.7秒という5速ATの素速さは本物であり、クラッチワークやシフトのテクニックを必要としないから、誰もが体験できる。911ターボはATでも速く、スポーツドライビングが楽しめるのだ。MT仕様は、もはや趣味の世界に入ってしまったのだ。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2006年11月号より)

画像: ポルシェ911ターボ。飛び切りの高性能モデルだが、そのの内外装にスパルタンさをイメージさせるものはない。

ポルシェ911ターボ。飛び切りの高性能モデルだが、そのの内外装にスパルタンさをイメージさせるものはない。

ヒットの法則

BMW 335i クーペ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4590×1780×1380mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1620kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300〜5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:701万円(2006年)

ポルシェ 911ターボ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4450×1852×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1620kg
●エンジン:対6DOHCツインターボ
●排気量:3600cc
●最高出力:480ps/6000rpm
●最大トルク:620Nm/1950〜5000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1879万円(2006年)

This article is a sponsored article by
''.