ユニーク極まりないスタイリングに心地よい乗り味
「最近のシトロエンは元気がいい」。今や自動車業界内では挨拶代わりに使う、ごく日常的なフレーズだ。思い返せば1998年パリオートショーのC3コンセプト以降、シトロエンは再びその唯我独尊性を強めてきた。
一度脳裏に焼きつけば、その後はどこから見てもシトロエンとしか判別できないような、そんなユニーク極まりないスタイリング。他の何者にも似ず、それでいてダブルシェブロンの歴史を感じさせるカタチこそ、現代のシトロエンに最も大切なことだと、トップマネージメントが賢明にも気付いた所産であろう。シトロエンの魅力は、あくまでもプロダクトアウトであり続けることだと、私は思う。
シトロエンにとっては、XM以来、久しぶりのフラグシップサルーンとなるC6が、ついに日本上陸を果たした。コンセプトカーとして初お目見えしたのが1999年のジュネーブショーのこと。あれからもうすでに7年が経つが、そのスタイリングの斬新さは一向に色あせることなく、シトロエンマニアのみならずデザインフェチなクルマ好きも大いに圧倒される存在感だ。
今どき、これほど低さを感じさせる大型サルーンは珍しい。グリルのダブルシェブロンデザインやヘッドライトの位置がさらに幅広さを強調し、駆動しない後輪に向かって緩く収束する。サイドエンドまで伸びたグラスエリアや室内に向かって湾曲したリアウィンドウ、そしてカシューナッツのようなリアランプのデザインも圧巻で、稀代の名車「DS」の存在感を髣髴とさせる。
シャシはPSAプジョー・シトロエングループのプラットフォーム3で、要するにC5やプジョー407と基本コンセプトは同じ。これにC5よりさらに進化した新型ハイドロマチック・アクティブサスペンションが組み合わされていて、最新ながらシトロエンならではの走り味を実現した。ちなみに生産はPSAレンヌ工場で、407クーペと同じラインを使うという。
背は低いがたっぷりと座れるコクピットに腰を下ろし、半だ円形をモチーフにしたダッシュボードを眺める。C4ほど凝ってはいないけれど、見栄えの質感は上々だ。センターにあるインフォメーションディスプレイは、日本仕様の場合、NAVI専用画面となる。また、位置調整可能なヘッドアップディスプレイも用意されるが、本国仕様にあるNAVI連動の矢印は表示されない。
ホイールベースが2.9mもあるため、後席の膝元スペースも余裕しゃくしゃく。左右幅も申し分ない。黒とベージュという2色の内装色があり、シート生地にもレザーとアルカンタラ(特別注文)の2種類を用意した。後席も電動リクライニングとしたラウンジパッケージなるものの用意もある。
たっぷりとしたシートに腰掛け、するすると発進させると、もう心地よさが伝わってくるから驚きだ。タウンスピードの範囲内では、他のクルマが靴下を履いてリノリウムの廊下を歩くようなものだとすれば、C6は素足でビロード絨毯の上を歩くよう。
強い入力があるとそれなりにゴツンと突き上げがくるが、たいていは一発で収束してくれるため、必要以上に不快になることがない。コンベンショナルな足元を鍛え上げて獲得した秀逸さとはまた違う、ここでもまた独自の世界観を見せた。レザーシートの硬さも、乗りこめば馴染む。
油圧とエアによるダンピング制御にはスイッチで選べる2種類のモード(ノーマルとスポーツ)があり、スポーツにしても乗り心地を犠牲にすることなくロールをしっかりと抑えてくれているから、カントリーロードや高速道路でも、安心かつ安定ある極上のライドフィールを体験することができた。
つまるところ、何とも別天地で心地いい乗り味、としか表現できないのがC6の持ち味(もちろんスタイルも!)。ただ1つだけ不満を打ち明ければ、それは3L V6エンジンである。6速ATのギアリングのせいもあるだろうが、とにかくパンチに欠ける。700万円近い高級サルーンとしてはちょっと物足りないものだった。(文:西川淳/Motor Magazine 2006年12月号より)
シトロエンC6 エクスクルーシブ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4910×1860×1465mm
●ホイールベース:2900mm
●車両重量:1820kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2946cc
●最高出力:215ps/6000rpm
●最大トルク:290Nm/3750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:682万円(2006年)