贅の限りが尽くされた新型ベントレー フライングスパー。この3世代目には、最先端技術と英国のエンジニアリング、クラフトマンシップが見事に融合されている。(Motor Magazine 2020年7月号より)

ミュルザンヌの後を継ぐ新たなフラッグシップモデル

スーパーラグジュアリーSUVとでも表現すべきベンテイガが大成功したことで、一気に身近になった感のあるベントレー。しかし2019年に創立100周年を迎えたこの超高級ブランドの生い立ちには、なかなか興味深いものがあり、それを知るほどにちょっとした「畏敬の念」のような感覚を覚えてしまう。

ウォルター・オーウェン・ベントレーによって1919年ロンドンに設立されたベントレーモーターズは、黎明期のルマン時間レースで5回の優勝を遂げたことで、超高性能なスポーツカーメーカーとして定着する。クルマそのものがまだ貴重だった時代の高品質なスポーツカーだから、当然ながら価格は高く、オーナーは世界の富裕層に限られていた。

しかし1931年、世界恐慌の影響もあって、ベントレーモーターズはロールスロイス社に吸収合併される。その後約70年、ベントレーはロールスロイスと車体を共有しつつ、スポーティな味付けを得意とするブランドとして定着した。いずれにせよ、ハイエンドなラグジュアリーブランドであることは間違いない。そして1971年、ロールスロイス社は倒産し国有化。ベントレーを含む自動車部門はヴィッカースに売却され、その後ロールスロイスはBMW、ベントレーはフォルクスワーゲン傘下という現在の体制になったのだ。

そんな現代のベントレーのラインナップは、超有名になったSUVのベンテイガに加えて、4ドアセダンがミュルザンヌとフライングスパーの2車種、4シーターの2ドアクーペ&コンバーチブルであるコンチネンタルGTの車種5バリエーションという布陣。この内、セダンのフラッグシップで、今や唯一のFRでもあるミュルザンヌは、現行モデルデビューが2010年と古く、30台限定の「ミュルザンヌ6.75エディションマリナー」を最後に生産終了と20年1月に発表された。

現存するベントレーの中で唯一採用される6.75LのV8ツインターボエンジンは、60年近くの歴史の中で可変バルブタイミング機構や気筒休止システムなどを加え時代の波を乗り越えて来たが、この超絶にトルクフルなエンジンを味わえるのも、これが最後となる。

そして、ミュルザンヌに代わって今後ベントレーの新たなフラッグシップとなるのが、今回試乗した新型フライングスパーである。フライングスパーは、コンチネンタルGTと基本的なメカニズムを共有して作られる4ドアセダンだ。ドライバーズカー/スポーツカーメーカーのイメージが強いベントレーだけに、これまではクーペ&コンバーチブルのコンチネンタルGTが主、そのセダン版であるフライングスパーは従というイメージが強かったのだが、3代目となる新型はミュルザンヌの後を継ぐフラッグシップサルーンという重責を担っているため強い主張を備えるようになった。

画像: 通常はFRだが路面状況やスリップなどを検知すると瞬時に4WDとなる。

通常はFRだが路面状況やスリップなどを検知すると瞬時に4WDとなる。

4WSの効果もありボディの大きさをあまり感じさせない

それが端的に現れているのがスタイリングデザインだ。特徴的な分離された丸型4灯のヘッドライトに、わずかにコンチネンタルGTとの関連を漂わせるが、それ以外はまったくの別物。縦桟のワイドなフロントグリルや、甦った新デザインのフライングマスコットからは先代のフライングスパーには薄かった押し出しの強さが感じられるし、リアドアで一度消滅し、リアフェンダーを縁取る2本のキャラクターラインも流れるようで、独特のスピード感を演出。さらにテールエンドの伸びやかなデザイン処理も、いかにも新世代の4ドアサルーンといった趣だ。

木と革をふんだんに使ったインテリアは相変わらず非常に豪華。ドアトリムに三次元テクスチャードレザー仕上げという凝った意匠が見られるのが興味深い。デジタル化を進めつつ、アナログ的な演出も残すのもベントレー流で、それは今回センターパネルに表れていた。このパネル、3つの面が回転して違った表情を見せる。メインとなるのはデジタル化を一気に進めた12.3インチのタッチスクリーンだが、回転して切り替えることでアナログ式の3連メーターや、プレーンなウッドトリムにも切り替えられるという仕掛けだ。

新型フライングスパーは、先に登場したコンチネンタルGTと同様、ポルシェが主体となって開発したMSBという新世代のFR用プラットホームを採用し、フロントアクスルを前進させショートオーバーハングのスポーティなプロポーションを得ると共に、エンジンをフロントミッド近くに搭載し重量配分の最適化も叶った。

パワーユニットは6L W12ツインターボ+ZF製8速DCT。635ps/900Nmのスペックは既存のW12ユニット中、最強力版だ。駆動はアクティブ4WD。先代まではトルセン式のセンターデフを採用し前後40対60の駆動力配分だったが、新型は電子制御の多板クラッチ式となり、通常は後輪駆動が主体。路面や滑り具合によって必要に応じてフロントタイヤにもトルクを供給する方式となった。ブレーキ個別制御のトルクベクタリングも併せて備わるので旋回性能の向上が期待される。

フロント=ダブルウイッシュボーン/リア=マルチリンクという構成の足まわりは、連続可変ダンピング機能を備えた3チャンバー式のエアサスペンション。Vシステムによるアンチロール機構を備えるのもコンチネンタルGTと共通する。唯一の違いは、フライングスパーはホイールベースが345mmも長い3194mmなので、後輪操舵の4WS機構を備えていることである。この恩恵か、全長5316mm×全幅1978mmという巨体にもかかわらずフライングスパーの取り回し性は非常に良い。走らせていて大きさをあまり感じさせないのである。

画像: ベントレーの伝統的な丸形のブルズアイベントは形状や細部のデザインが見直されている。

ベントレーの伝統的な丸形のブルズアイベントは形状や細部のデザインが見直されている。

至高のモデルに相応しい奥行きのある乗り味である

一般道から高速に入ると、乗り心地の良さに魅了された。315/30R22(リア)という強烈なサイズのタイヤを完全に履きこなしており、足まわりの動きはこれに煽られることなくどこまでも穏やか。市街地での路面の荒れに伴うゴツゴツ感は完璧なまでに遮断されているし、高速では徹頭徹尾フラットな姿勢を保つ。加えてエンジン/ロードノイズの遮蔽が行き届いており、室内環境が実に静かなのも特筆に値する。

コンチネンタルGTはスポーツカーらしく、乗り心地も操縦性も「鋭さ」がもっと強調されるがフライングスパーはソフトでマイルド。それがワインディングでの運動性能にどう影響するか、少し心配だった。しかしこれも直後に杞憂だったことがわかる。

ターンインがシャープなのは4WSとトルクベクタリングの相乗効果だろう。そこからさらに切り増して行くと、フライングスパーは適度なロールを許しつつも、アンチロール機構の恩恵かかなりフラットな姿勢を保ちながらヒラヒラとコーナーを駆け抜けて行く。動きに重さがないのだ。

立ち上がりでパワーを掛けてもリアに絶大なスタビリティを感じるのは、サスペンションの粘り強さに加えて同相に入る4WSの効能もあるはず。もちろん乗り心地は上質なままで、これはちょっと新しい感覚のスポーツドライビング。と同時にベントレーのフラッグシップに相応しい、奥行きのある乗り味と感じられた。

ところでベントレーには「スピード」と呼ばれる高性能仕様が存在する。黎明期のレース活動の頃から存在していた由緒あるモデルだ。現在このスピードが設定されるのは、ミュルザンヌとベンテイガのみで共にエンジンマネジメントを変えてパワーを上乗せし、足まわりに特別のセットアップを与えるといったチューニング手法が用いられている。

日本には20台の限定で導入されるベンテイガスピードのパワーは635ps/900Nm。発生回転域こそ車種により多少の違いはあるものの、これはフライングスパーのW12エンジンと同スペックだ。

登場から2年以上が経つコンチネンタルGTにはすでにスピードモデルの登場が近いと言われているし、フライングスパーにもいずれはスピードモデルが設定されると見て間違いない。果たしてその時のパワースペックはどういう物になっているのか? その辺の動向も含めて、まだまだ目が離せないベントレーなのである。(文:石川芳雄)

画像: W型12気筒エンジンはV型より全長が短いため理想的な重量配分を実現する。

W型12気筒エンジンはV型より全長が短いため理想的な重量配分を実現する。

■ベントレー フライングスパー ファーストエディション要諸元

●全長×全幅×全高=5316×1978×1484mm
●ホイールベース=3194mm(本国仕様)
●車両重量=2512kg(本国仕様)
●エンジン= W12DOHCツインターボ
●総排気量=5950cc
●最高出力=635ps/6000rpm
●最大トルク=900Nm/1350-4500rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速DCT
●車両価格(税込)=2667万4000円

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