450psという圧倒的なパワーを誇るカイエンターボの出現によって誕生した「スーパーSUV」の世界は、2006年、510psのメルセデス・ベンツML63AMG、426psのジープ グランドチェロキーSRT8 の登場で新たな局面を迎えた。単にハイパワーなだけでない、「スーパーSUV」の魅力とはどういうものなのか。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年1月号より)

とんでもない加速を見せるグランドチェロキーSRT8

人間のパワーに対する要求というのは本当に凄いもので、V8の5L級でも十分に激しい走りを見せるSUVに、それ以上のキャパシティを与えてしまうという動きがここのところ目立ってきている。

事の起こりは排気量4.5LのV8ながら、ツインターボのドッキングで450psを絞り出したカイエンターボあたりから。「スポーツカーならともかく、新参入のSUV界でまでポルシェに大きい顔をされるわけには行かない」とライバルが考えても無理からぬ話だろう。

そんな気合いがありありと伺えるのが、ここに挙げるジープ・グランドチェロキーSRT8と、メルセデス・ベンツML63AMGという2台のスーパーSUVたち。奇しくも同じダイムラークライスラーグループの作だが、当然のことながらこの両者、共通項はまったくない。

SRT8はジープブランドの稼ぎ頭であるグランドチェロキーの飛び切りハードコアなモデル。つまり生粋のネイティブアメリカンだ。搭載されるエンジンもクライスラー300Cなどに積まれる5.7HEMIユニットのボアを3.5mm拡大するという手法で作られている。ちなみに、クライスラーはこの6.1HEMIを搭載するSRT8をシリーズ化しており、すでに300C、ダッジマグナム/チャージャーにも同名モデルがラインアップしている。

片側の2灯が融合したようなヘッドライトと7スリットのグリルなどはグランドチェロキーそのものだが、バンパーはスカート部分を長く取った専用デザイン。車高もビルシュタインダンパーを奢ったローダウンサスペンションと245/45R20のピレリ スコーピオンZEROで標準車より40mmも低められている。

側面はサイドシルスポイラーが付く程度でフェンダーを拡げるようなモディファイはなされていない。それゆえ意外にスリムな印象だが、リアは2本のズ太いテールパイプがバンパー中央から突き出し、タダモノではないことはひと目でわかる。

と、外観を一通りチェックしたところで走り出す。アイドリングで「ボー」という、いかにも排圧の高そうなサウンドを奏でる426psのHEMIユニットは、アクセルをひと踏みするとクワッと鋭く吹ける。OHVということもありレブリミットは6200rpmと高くはないが、そこまでの到達が非常に早い、つまりレスポンスが鋭いのが特徴だ。

それにしても強烈な初期加速だ。血が片寄るという表現もあながちオーバーとは言えない。これなら0〜時速60マイル(約96km/h)5秒を切るというデータにも信憑性を感じる。オートスティック付きの5速オートマチックをマニュアル操作で引っ張ると、6200rpmで正確にシフトアップしていくが、わずか2クリックで、もはや「とんでもない加速」を味わうことになる。

他のグランドチェロキーにある4WD・LOWモードスイッチを探したが、このSRT8には設けられていない。オフロードの走りなどハナから考えていないのだろう。足まわりのセットもまったくのオンロード指向で、ハーダーサスは路面のわずかな凹凸も正確に伝えて来るほど締まっているし、ステアフィールも極めてソリッド。そこにあの大らかなアメ車の味わいは微塵もない。

したがって低速域ではフットワークもそこそこシャープなのだが、速度が上がると路面の荒れに対しても接地が追いつかず、真っ直ぐ走っていてもアクセルの踏み込みによってESPが作動するという激しい側面を持つ。高速にステージを移しても、この跳ね感はついに収まらず、ウエット路面などではそれなりに気を使った運転が求められそうである。

画像: 2006年9月、最強のグランドチェロキーとして登場したSRT8。ジープだからこそ、オフロード性能にこだわらない走りを追求。

2006年9月、最強のグランドチェロキーとして登場したSRT8。ジープだからこそ、オフロード性能にこだわらない走りを追求。

AMGから連想されるハードさがないML63

次に、新型への移行に伴い格段にスタイリッシュで質感も向上したMLに乗る。63AMGはひときわワイドなフェンダーが装着されており、いかにもハイスペックなSUVという佇まいが魅力的だ。

MLは、アラバマ州タスカルーサ工場で生産されるから正確にはアメリカ製だが、設計はもちろんシュツットガルト。しかもエンジンは、AMGが初めてオリジナル開発とした自然吸気/大排気量/高回転をコンセプトとしたV8で、これはもちろんすべてがアファルターバッハのAMGファクトリーから送られて搭載される。

このAMGエンジンの仕上がりが素晴らしい。スーパーチャージャーで低速から大トルクを絞り出していた以前の55AMGに較べると、アクセルを踏み込んだ瞬間の反応や初速の立ち上がりはわずかにマイルドだが、これが逆に飛び出し感のないスムーズな走りを生むのにも一役買っている。

動力性能は6208ccの大排気量から630Nmものトルクを出しているのだから遅いわけがない。2.35トンもあるボディが抵抗感なくグイグイと速度を乗せて行く。それに3000〜5000rpmあたりのスロットルレスポンスの良さと、湧き上がるようなトルク感が最高に気持ちよかった。

7速オートマチックは標準のML同様、コラムレバーで走行レンジを選び、コンソールのスイッチでシフトスケジュールを切り替えるというもの。マニュアル操作はステアリング前方のステアスイッチで行う。この制御もAMGスピードシフトという独自のロジックで、マニュアル操作時は標準の50%のレスポンス向上が図られており、ツキのよいエンジンの魅力を存分に引き出せる。

駆動はもちろん4MATIC。AMGはトルク配分が前輪40%、後輪60%になる専用のセッティング。おそらくオンロードでの回頭性を考えてのことだろうが、同時にオフロード走行に向くABSやASRの制御も設けており、SUV本来の悪路走破性にも背を向けてはいない。

それにもうひとつ、ML63AMGで感心させられたのがフットワークだ。車高の高いSUVでこれだけのハイパワーとなると、乗り心地と操縦性の折り合いをつけるのが難しそうだが、このクルマはエアマチックサスとADS(アダプティブ・ダンピング・システム)を武器に、それらを見事に両立させている。

ADSは通常コンフォートモードで十分。多少ハードなコーナリングでも腰の座ったフォームで極めて安定し、しかも295/40R20というタイヤを履いてもなお、乗り心地が抜群に良い。スポーツにすれば相応に締まるが、同時に乗り心地も硬くなるので、これはワインディング専用と考えて良いだろう。

今回の取材では、夜間この2台で高速道路を200kmほど走るセクションがあったのだが、ここで僕はML63AMGの万能性に舌を巻いた。このクルマ、とにかく乗り心地が良く安定感も抜群で、しかもアクセルのひと踏みで車線上の何処へでもワープできる瞬発力を秘めているから、高速移動が抜群にラクなのである。

AMGというとどこかハードなクルマを連想させられるが、ML63AMGに荒々しさは微塵もない。これだけの高性能をここまで洗練させた手腕には脱帽だ。

それに対し、路面を選ばぬ万能性というこのジャンルの魅力をバッサリと切り捨て、ハイパワーによる瞬発力を手に入れることだけに注力したという点で、グランドチェロキーSRT8は異型のSUVと言えよう。

安定とか洗練といった言葉とはまったく無縁だが、その割り切りの良さには爽快感すら漂う。すでにオフロードの世界では確固たる信頼を勝ち得ているジープブランドだからこそ、これだけ思い切ったことができたのかも知れない。

それにしても、同じグループからこれだけ方向性の異なるSUVが、ほぼ時期を同じくして登場したのは興味深い。SUVもすでに駒は出揃い、次なる個性化の時代に突入したということなのだろうか。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年1月号より)

画像: 2006年に登場したメルセデス・ベンツML63AMG。洗練された高性能を持っていた。

2006年に登場したメルセデス・ベンツML63AMG。洗練された高性能を持っていた。

ヒットの法則

ジープ グランドチェロキー SRT8 主要諸元

●全長×全幅×全高:4780×1875×1710mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:2150kg
●エンジン:V8OHV
●排気量:6059cc
●最高出力:426ps/6000rpm
●最大トルク:569Nm/4600rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:724万5000円(2006年)

メルセデス・ベンツML63AMG 主要諸元

●全長×全幅×全高:4815×1950×1775mm
●ホイールベース:2915mm
●車両重量:2350kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:6208cc
●最高出力:510ps/6800rpm
●最大トルク:630Nm/5200rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1365万円(2006年)

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