2006年に登場したボルボXC90 3.2は、当時のプレミアムSUVのハイパワー化の流れにあって異色の存在だった。世界的にも稀少なレイアウトとなった直列6気筒エンジンをボルボはあえて新開発し、従来の5気筒に代えて搭載。しかもこのエンジンは自然吸気としていた。この新しいエンジンの性格はXC90のキャラクターとどうマッチしていたのだろうか。函館で行われた試乗会の模様を振り返ってみよう(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年1月号より)

穏やかな乗り味と実用性の高さを特徴とするXC90

数多くのマッチョなモデルが行き交うプレミアムSUVの中で、その控えめさが逆にウケているのがボルボのXC90である。駆動はハルデックスカップリングを使ったオンデマンド式AWD。電子制御を活用したトラクションコントロールなどは備えるものの、オフロード走破性を声高に誇るようなことはしない。穏やかな乗り味と、直列エンジンを横置きしてノーズを短くまとめた独自のパッケージから、3列7人乗りのキャビンを実現した実用性の高さを特徴としている。

そのXC90にかなり大規模な改良が行われた。最大のポイントはエンジンの刷新で、これまでの主力となっていた直列5気筒と6気筒のターボがついに現役を退いたのだ。

新しいエンジンラインアップは直6とV8でいずれも自然吸気。この内、ボルボ設計で生産はヤマハが担当する4.4LのV8は昨年からTEというトップモデルに積まれていたが、2007年モデルではこのTEが受注生産となり、下にV8というお手頃グレードが登場した。と同時に左のみだったハンドル位置が左右両方から選べるようになった。

しかし、最も注目したいのは新開発の3.2L 直6ユニットだ。84mm×96mmとかなりのロングストロークタイプと言えるこの新エンジンは、補機類の後方配置とギア駆動化、オルタネーターの一体&直接駆動などによって徹底したコンパクト化が図られている。これは横置きとして短いノーズでも十分なクラッシャブルゾーンを確保するというボルボの安全思想から生み出されたものだ。

また、横置きでは気になるエンジンのスナッチを吸収するためにクランクシャフトにハイドロリックダンパーを内蔵したり、吸気側バルブのリフト量までコントロールする可変バルブシステムを採用するなど凝った造りも特徴である。

画像: 3.2L直6エンジン搭載と同時にフェイスリフトも行われたボルボXC90。テールランプの形状も新しいものとなった。

3.2L直6エンジン搭載と同時にフェイスリフトも行われたボルボXC90。テールランプの形状も新しいものとなった。

V8とはまた違った軽快感がある新しい直6ユニット

で、そのフィーリングなのだが、回転フィールはいかにも直6らしいスムーズさで、しかも回転の上昇とともにクオーンという快音も耳に届く。これまでのボルボのエンジンは黒子に徹していたところがあったが、この新エンジンは意外に饒舌だ。

アクセルレスポンスも鋭くけっこう楽しめるが、XC90は車重が2トンを越える大型SUVである。したがって3.2Lのキャパでも抜群に軽快とは行かない。特に低回転域ではトルク感がもうひとつ希薄なため、鋭いダッシュを得ようとすると6速オートマチックは頻繁にキックダウンを行い、しかもその領域ではエンジン音がけっこう耳についてくるのだ。

やはりマッチョ系が多いプレミアムSUVと伍して戦って行くにはV8の4.4Lくらいは欲しいところ。XC90にとって直6は実用エンジンという位置づけになると思う。フィールがスポーティなため少々残念な気がするが、これはボルボのミドルクラスでこそ主力となるパワーユニット。いずれV70やS60に搭載された暁には、その真価を存分に発揮するに違いない。

足まわりの味付けなどは大きくは変わっておらず、ボルボらしい穏やかなハンドリングと乗り心地に終始していた。タイヤのせいか、突起の乗り上げではやや入力が強まった気がしたものの、試しに分け入ったダートでは減衰の効いたフラットな乗り心地で快適だった。

なお、XC90は今回のマイナーチェンジで内外装にも手直しを受けた。テールランプのデザインが変わり精悍さを増したほか、バンパーやドアモールなどボディ同色エリアを拡げ、リアバンパー内蔵のシルバー仕上げのスキッドプレートを採用するなど質感を高めている。大きなサイドアンダーミラーが付いたのは残念だが、安全上はこれも歓迎すべきだろう。欲を言えばカメラやプリズムミラーを使ってスマートさを追求して欲しかったが。

インテリアもアルミのアクセントパネルを各所にレイアウトし、パネルカラーの色揃えを増やしたり、オーディオの質を上げ、AUXインプットを用意してiPodなどがダイレクトで接続できるようになるなどグレードアップされた。

ただ、XC90も登場から3年が経ち、やや古さが目立って来た部分もある。例えばパーキングブレーキ。足踏み式のリリースレバー解除方式だが、リターン時の作動音が大きく高級感に欠ける。時代は電動式の流れだが、モデル半ばでそれが叶わないなら、せめてダンパーを着けてソフトに戻すべきだ。同様にキーレスのエンジンスタートや、シフトのパドル化などもぜひとも検討して欲しいところである。

日本ではV70の人気が依然として根強いが、XC90は北米を中心に今やボルボ最大の量販モデルに育っている。それだけに、モデル後半にかけて他の欧州勢の動向を見据えたさらなる熟成が必要だろう。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年1月号より)

画像: 新開発の3.2L直6自然吸気エンジン。エンジン全長は5気筒に比べてわずか3mmだけ延長された625mm。そのコンパクトさが横置きレイアウトを可能にし、エンジンの前後双方にクラッシャブルゾーンを確保することができた。

新開発の3.2L直6自然吸気エンジン。エンジン全長は5気筒に比べてわずか3mmだけ延長された625mm。そのコンパクトさが横置きレイアウトを可能にし、エンジンの前後双方にクラッシャブルゾーンを確保することができた。

ヒットの法則

ボルボ XC90 3.2 7人乗り 主要諸元

●全長×全幅×全高:4810×1910×1780mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2150kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3192cc
●最高出力:238ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:685万円(2006年)

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