2006年、E90型BMW3シリーズにカブリオレが登場している。この世代からE93という独自のコードネームが与えられた3シリーズカブリオレ、その国際試乗会は2007年初頭アメリカ・アリゾナを舞台に行われている。今回は335iカブリオレの試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年3月号より)

開発途中でリトラクタブルハードトップに変更

山道で追い越したサイクリストやすれ違うクルマのドライバーから「Good car!」と声がかかる。フルオープンにした状態での走りは、そんな声のひとつひとつを拾って耳に届けてくれるのだ。

BMW 335iカブリオレ。そのエレガントなスタイルを視界に入れた人は、なかなか目を離すことができなくなるようで、ドライバーはそうした状況に慣れないとじっくり見つめられる恥ずかしさに耐えることができない。それがブロンド美人だったりすると……。

BMW 3シリーズカブリオレの歴史は20年前に遡る。1986年、E30型で初めてソフトトップを採用したカブリオレが登場し、そして1993年にはE36型、2000年にE46型と歴史を積み重ね、エレガントさに磨きをかけ、2007年の今年、4世代目となるE93型がデビューした。その最新カブリオレに試乗するため、アリゾナ州スコッツデールにやって来た。

雨の中で対面したカブリオレのスタイリングは、ルーフが絶妙なアールを描きクローズド時でもクーペと差別化がなされていることがひと目でわかる。BMWではこのカブリオレをエレガントなスタイルにするために一切の妥協を排除した。開発当初、このE93型カブリオレは今までの3シリーズカブリオレの伝統に倣い、ソフトトップで開発されていたが、3年前に急遽、リトラクタブルハードトップへ計画が変更されたという。開発時間や重量、剛性などの制約があってもE93型はリトラクタブルハードトップにするメリットがあるとBMWは判断したことになる。

試乗ルートは4つ設定されていたが、もっとも長くそして景観のいい500kmのコースはなんと雪だという。そこではオープンにする場面は得られそうもないので、できる限り天候のいい地域を選ぶことにした。やはりせっかくアリゾナまでこのカブリオレに乗りに来たのだから、オープンの開放感を味わいたい。

画像: E93型3シリーズカブリオレはリトラクタブルハードトップを採用。トップを上げれば、クーぺと変わらぬ快適性と美しさを実現。

E93型3シリーズカブリオレはリトラクタブルハードトップを採用。トップを上げれば、クーぺと変わらぬ快適性と美しさを実現。

プラス200kg重量は増したが、ボディ剛性もアップ

いよいよエンジンに火を入れる。対話の始まりだ。試乗車は標準の6速MTとオプションのアクティブステアリングの組み合わせ。搭載エンジンは335iクーペと同様のスプレーガイデット式直噴パラレルツインターボのN54B30Aで、最高出力306ps、最大トルクは400Nmだ。この他に新開発の4気筒直噴エンジンを搭載する320i、6気筒の直噴エンジンを搭載する325i、330i、ディーゼルエンジンの330dと4種類がラインアップされるが、日本への導入はいまのところ未定となっている。

天候が悪かったこともあるが、今回はクローズドでの試乗も多くできたのは収穫だった。クローズド状態では、室内の静粛性は保たれ、巡航時はまるでクーペに乗っているような感覚。踏み込んだ時に聞こえてくるターボらしくないエンジン音も心地よい。

日本に導入される予定のない6速MTだが、今回のロケーションではATの必要性は感じられなかった。トルクに余裕があるため、高いギアでのアクセルのオンとオフに対するレスポンスもいい。6速ATは、燃費への貢献度も高い最新仕様のZF社製を搭載する。日本導入はこのAT仕様のみとなる。

BMWのカブリオレに対する走りの考え方は、クーペほどスポーティな必要はないということ。ただしこのE93型は、クローズ時にはクーペ同様のスポーティなパフォーマンスを見せる。それは先代に比べ、ボディ剛性が50%アップしたことも大きな要因だ。しかし、リトラクタブルハードトップとすることにより、重量がクーペよりも約200kg重くなった。その要因は3つ。リトラクタブルハードトップ、それを作動させるモーター、そしてピラー、サイドシルやフロア下などのボディ補強だ。

また、ソフトトップとリトラクタブルハードトップでは、重量が45kg違う。そして、リトラクタブルハードトップの全開時はリアへ25kgの重量が移動する。しかしこれはBMWのこだわる50:50の重量バランスに問題のないレベルのようだ。実際のテストドライブでも全閉全開時にドライバーが感じる違いはなかった。

車両の重心は、クーペ比で15mm低い。これは補強がボディの下半身に集中していることを物語っている。開閉を司る油圧用モーターはトランク中央部の下、一般車ならスペアタイヤがある位置に搭載される。またサイドシルも縦に大きくなり、フロア下を覗くとスチールのバーにより、明らかに補強されていることが確認できる。

その結果、コーナリング時に不安感をもたらすようなロールが起きることもなく、しなやかなフットワークを実現している。さらにピラーにも補強が施され、オープン時のルームミラーやAピラーの振動がE46型より明らかに少なくなった。

このように重量は増したが、剛性もアップしたためBMWらしいダイナミズムは失われることもなく、ハンドリングもクーペとまではいかないが、十分にスポーティになっている。ここまでくるとよくぞプラス200kgで抑えた!と言いたい。

トランク容量は全開時260L、全閉時350Lを確保する。これはE46型の330Ciカブリオレが全開時260L、全閉時300Lだったことを考えると、ボディが大きくなったのだから当然と言えば当然なのだが、全閉時が大きく改善されている。

ただ335iクーペのトランク容量が430Lであることを考えると少ない気もするが、フォルクスワーゲン イオスが205Lから380L、ボルボC70が200Lから405Lとなっており、全閉時はほぼ同レベルだ。

日本での発表は2月初旬、デリバリーは3月末からとなるE93型カブリオレ。気になる価格は、まだ予想の域を出ないが、E46型がクーペ比で約90万円高だったことを考えれば、700万円台後半から800万円台前半になるのではないだろうか。(文:千葉知充/Motor Magazine 2007年3月号より)

画像: いい意味でオープンモデルらしくないしっかりした剛性を持つ335iカブリオレ。ショートなAピラーまわりは風景の多くを視界に入れることができ、いつもの風景を新鮮に見せてくれるだろう。

いい意味でオープンモデルらしくないしっかりした剛性を持つ335iカブリオレ。ショートなAピラーまわりは風景の多くを視界に入れることができ、いつもの風景を新鮮に見せてくれるだろう。

ヒットの法則

BMW 335i カブリオレ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4580×1782×1384mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1810kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:6速AT/6速MT
●駆動方式:FR
※欧州仕様

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