「ゴルフGTI エディション30」は、2006年5月日に行われたGTIミーティングでゴルフGTI 30周年記念車として公開され、11月のエッセンショーでその量産モデルが発表されている。日本でも話題となり、ファンの間から導入を望む声が上がったが、1500台ほどしか生産されなかったこともあり、結局、導入されることはなかった。果たしてこのモデルはどんな魅力を持っていたのか。当時、ドイツで行われた試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年3月号より)

節目ごとに登場するゴルフGTIの記念モデル

1976年、ゴルフGTIが誕生した時、私はドイツの航空会社に勤務していて、クルマ好きの変な日本人として知られていた。身分不相応なBMW 2002なんかに乗っていたからである。ボロだったが・・・・。

当時、もちろんフォルクスワーゲン・ゴルフ登場の話は聞いていたが、マルニ(2002)オーナーとしては、そんな小さくて遅いクルマにはまったく興味がなかった。そこに登場したのがゴルフGTIだった。

驚いたことに、この小さなクルマはわずか1.6Lエンジンから110psものパワーを発揮していた。私のマルニよりも10psも大きなパワーを誇っていたのである。「許せん!」私だけでなく大きなスポーツサルーンに乗っているオーナーにとって、たかがゴルフで110psというのは驚きであり、同時にゴルフより10psもパワーが小さいことは屈辱的なことでもあった。

しかし、当時の私には新車を買う余裕などなく、遠目で眺めているだけだった。そんな時、日本の友人でゴルフ・オーナーから「ゴルフにGTIというスポーツバージョンが発表されたらしいけれど、どんなクルマか乗ってみて欲しい」という連絡が入った。そこで私は、近くのフォルクスワーゲンディーラーで試乗してみたのだが、まさに「目から鱗が落ちる」ほど感激してしまった。

ステアリングがクイックで、スロットルに対する反応が素晴らしかった。また赤いラインの入ったフロントグリル、ブラックアウトされたリアウインドウ、BBSホイール、そしてスポーツステアリング、ゴルフボール型のシフトノブなど、差別化の演出も心をウキウキさせるほどうまかった。

当時、大きなスポーツサルーンからゴルフGTIへと乗り換えるユーザーがなんと多かったことか。とても考えられないことだが、それほど、当時のゴルフGTIが放ったインパクトは大きかった。そしてそれはコンパクトセグメントだけでなく上のクラスにまで及んでいた。こうして、ゴルフGTIはいわゆるホットハッチバックの源流となり、世界各国にGTIあるいはそれに似た名称を誕生させ、伝説的な存在になっていったのである。

この歴史的な事実を見れば、フォルクスワーゲンが節目ごとにGTIの記念モデルを発表する理由もわかるだろう。そして、昨年2006年、誕生30年を記念してエディション30という名称のスペシャルモデルが発表されたというわけである。

今回はそのゴルフGTIエディション30の紹介をしてみたい。GTIエディション30にはさまざまな特別な装備が用意されているが、最も重要なのは心臓部のエンジンである。GTI(200ps)に対して30psが追加されて230psとなったのだが、これには30本のロウソクにかわって30psがプレゼントされたというストーリーまで用意されている。これは主にターボ+吸排気系のライトチューンとECU(エンジン・コンピューター・ユニット)のマップ変更で得られた数字である。

このパワーアップの効果は大きく、カタログ上データで、スタートから100km/hまでの所要時間は6速MTで6.8秒、DSGでは6.6秒と、GTIよりもそれぞれコンマ4秒、コンマ3秒も速い。また最高速度は6速で245km/h、DSGで243km/hをマーク、これもそれぞれGTIよりも10km/hずつ速い。

外観で目立つのは18インチホイールで、ドイツでは派手なマットブラックのデトロイト・タイプが用意される。もし希望があればエクストラ費用なしにシルバーのロッキングハム・タイプを選択することもできる。ちなみに組み合わされる標準タイヤは225/40R18である。

GTI専用の大型スポイラー、サイドシル、そしてリアスカートはそのまま装備されるが、エディション30ではボディカラーとインテグレートされたものになる(GTIはバンパー部分がマットブラック)。さらにテールレンズはダークフィニッシュとなり、その横に付けられた「Edition 30」のバッジが、このクルマがスペシャルモデルであることを示している。

インテリアでは、インテルラゴスと名づけられたクラシックなレザーとクロスのコンビネーションを持ったスポーツシートがまず目に入る。それ以外では3本スポークのスポーツステアリングホイール、シフトレバーとハンドブレーキブーツに赤いステッチが入っている。また、ダッシュボードとサイドシルに「Edition 30」というアルミつや消しプレートが貼られ、またフロアマットも赤い糸が縫いつけられている。GTIの薫りはさらに濃くなっているというわけだ。

今回試乗することができたのは、2ドアの6速MT仕様と4ドアの6速DSG仕様。もちろん、4ドアの6速MT仕様と2ドアの6速DSG仕様もドイツでは用意されている。

画像: 「ゴルフGTI エディション30」はゴルフGTI誕生30周年を記念してVWインディビジュアル社が開発したモデル。スポイラー、サイドシル、リアスカートなどがボディカラーと同色になる。

「ゴルフGTI エディション30」はゴルフGTI誕生30周年を記念してVWインディビジュアル社が開発したモデル。スポイラー、サイドシル、リアスカートなどがボディカラーと同色になる。

世界各国から大きな反響、ドイツではすでに販売開始

まずは2ドアの6速MT仕様に乗りむ。スポーツシートに身体を沈め、右手でシフトレバー探る。すると、ここに30年前と同じゴルフボール状のシフトノブが待っていた。「ウエルカム・GTIワールド!」である。

別にエディション30だからと言って発進のために特別な操作はいらない。イグニッションキーを捻ると4気筒エンジンは即座に安定したアイドリングを開始する。

ハイチューンのエンジンだが、スタートはまったくイージーだ。トルク特性がピーキーになったわけでもない。30psのエクストラパワーと20Nmのトルクの余裕は、まだほとんど走行していない新車状態のために少し渋いシフトフィールを残しつつ、それでも力強く高回転域まで伸びを見せる。

6速で220から230km/hあたりまで引っ張ってみたが、まだ4000rpmを越えたくらいで余裕が感じられた。残念ながら、レッドゾーンまで回すことは許されなかったが、エンジンのあたりが出れば、問題はなくカタログ上の加速データや最高速はクリアすることだろう。

アウトバーンにおける高速走行でのスタビリティの高さはやはり感動ものだ。GTI同様、200km/hを超えてもまったく不安はない。ステアリングもボディサイズから想像できないほど、直立位置でどっしりしていて、ドライバーは軽くステアリングホイールに手を当てていればいい。ちなみにこのグリップ位置には換気用の小さな穴が開いていて、超高速でも「手に汗握る」ことはない。タイヤの転がり音は決して大きくはならず、風切り音に混ざって後方へ流れてゆく。

わずかに気になったのは、フル加速中にステアリングを握る手に伝わってくるトルクステア。これはGTIでも存在しているが、よりパワフルになった分、はっきりと伝わってくるようになった気がする。ステアリングの舵角を大きくとって、スロットルを踏み込む小さなコーナーではより鮮明に感じられる。しかし、それは手に余るほどでなく、慣れてくれば適度にいなすことができる程度ものだ。

フロントにマクファーソンストラット、リアはマルチリンクの組み合わせはすべてのゴルフに共通。しかしセッティングはかなり違っているようで、低速ではややゴツゴツした感じだが、スピードを増せばそれだけ乗り心地はフラットになっていく。ドイツ・アウトバーンの推奨130km/hで快適なセッティングと言っていいだろう。

4ドアの6速DSG仕様もセッティングは同様。スポーティツーリング、つまりアクティブなロングドライブに最適なセッティングだ。郊外に続くハイスピードコーナーに富んだワインディングロードで特にその楽しさを味わうことができる。

エディション30はドイツではすでに販売を開始。モデルの性格から限定モデルのように思われるが、生産台数に制限はないそうだ。(文:木村好宏/Motor Magazine 2007年3月号より)

画像: 30周年記念にちなんで30psパワーアップされた2L直噴ターボエンジン。洒落っ気のあるモデルで、あまりの反響に正式に販売されることになった。

30周年記念にちなんで30psパワーアップされた2L直噴ターボエンジン。洒落っ気のあるモデルで、あまりの反響に正式に販売されることになった。

ヒットの法則

フォルクスワーゲン ゴルフGTI エディション30(4ドア) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4216×1759×1466mm
●ホイールベース:2578mm
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:230ps/5500rpm
●最大トルク:300Nm/2200-5200rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)/6速MT
●駆動方式:FF
●最高速:243km/h
●0-100km/h加速:6.6秒
※欧州仕様

This article is a sponsored article by
''.