日本仕様には3タイプを用意
先月のドイツ・アウトバーン試乗に続き、日本で再び相まみえたレクサスLS600h。今回の試乗場所は長野県の軽井沢界隈。試乗会の基地となったホテルの目の前がいかにも日本らしいワインディングロードということもあって、今回はこのクルマの運動性能を存分に試すことができた。
アウトバーンの超高速環境では18インチタイヤでアクティブスタビライザーを持たないロングボディのLS600hLがベストに感じられたと報告したが、日本の道では標準ボディで19インチタイヤ+アクティブスタビ付きがことのほか良かったのが印象的だ。
しかし、そういった本題に入る前に、まずは日本仕様の概要を説明しておこう。
ラインアップの柱となるのは標準ボディのLS600hと、そこから全長/ホイールベースを120mm延長したLS600hLの2タイプだ。
パワートレーンは共通で、LS460のV8をベースにストロークアップにより4968ccまで排気量を拡大した2UR-FSE型エンジン(単体出力は394ps)と、224psの出力を持つ交流同期モーターを動力分割機構で連携させ、システム出力327kW(445ps)を実現した専用のハイブリッドシステムとなる。これはドイツ・プレミアム勢が送り出すフラッグシップサルーンの6L 12気筒級に相当するレベルのもの。「600h」の名前はここに由来している。
駆動は全車、新開発のトルセンLSDを使ったフルタイム4WD。ハイブリッド史上最強のパワーを有効に路面へと伝えるためだが、同時にハンドリングも意識し、前後の駆動力配分は40:60をベースに、状況に応じて50:50または30:70と瞬時に比率を変更する。また、回生ブレーキを4輪で行うためエネルギーの回収効率が高いのも特長だ。
グレード展開は、標準仕様、スポーツ志向のバージョンS、後席装備を充実させたバージョンUの3タイプで、それぞれにより上質な本革シートや本木目パネルを加えた豪華仕様のIパッケージが設定されている。600hLは単一グレードで、後席を2人乗りとしたセパレートシート仕様を設定という布陣。
その価格は、ベース仕様が970万円から。プリクラッシュセーフティやリアシートエンターテイメントなど豊富に用意された各種システムをほとんど標準装備とするLS600hのセパレートパッケージに至っては1510万円にもなる。性能だけでなく、プライスも欧州プレミアム勢と互角といったところだ。
ボディの重さを感じない静かで滑らかな動き
まずはバージョンSで走り出す。ホテルのエントランスを出るあたりの所作はなかなかエレガント。スタートから低速走行の範囲はもっぱらモーターによる静粛さが際立つ。その後いつとも知れずエンジンが始動するが、その領域でも極めて静かなクルマであることに変わりはない。それに制御も極めて滑らかで、40km/h以下で充電量も十分ならエンジンが止まることも多いが、こうした始動/停止に伴うショックや違和感は皆無。このあたりの見事な制御ぶりはドイツで得た感動そのままだ。
ただし、スタートから60~70km/hといった日常的な速度での動力性能は意外とジェントルに感じた。6L級と言われるパワースペックは強大なトルクが否応なくクルマを押し出す様を想像させるが、そういった激しさはこのクルマにはない。もちろん十分に速いが、その加速の質が洗練されているのである。これはハイブリッドシステムの制御の巧みさと、4輪に駆動力を分散させた4WDによるものだろう。
一方、アウトバーンで確認した高速域の加速は素晴らしい。80km/hから上の中間加速は尋常ではなく、滑らかさを保ったまま素早く200km/hに到達する様はこれまでに経験したことがないものだ。つまり日本の交通環境ではなかなか味わえない領域にLS600hのスイートゾーンはある。高級車の本質が余剰性能にあるのは確かだが、この点はちょっと残念に思った。
ハンドリングは、バージョンSに関しては車体サイズと重量を感じさせない機敏さが印象的だ。アクティブスタビライザーの効能は明らかで、ロールを抑制しフラットな姿勢でのコーナリングを実現している。それでいて乗り心地に突っ張るようなところは皆無だし、乗り心地も適度に締まったレベルで高級車としての質感を落としているようなところは見られなかった。
ちなみに、19インチタイヤとアクティブスタビライザーの組み合わせはLS600h全仕様でこのバージョンSのみの設定となる。
LSが目指す次のステップはさらなる軽量化への挑戦
後で試した600hLは、姿勢変化が明らかに大きめだ。それでも4輪の接地感が明確に伝わるため安心して走れたが、軽快さがない。重厚なハンドリングもいかにもショーファーカーといった趣き。それに乗り心地も当たりも格段にマイルドだ。
ただ、突起を乗り越えた後にわずかながらブルンとした余韻を残すのは気になった。サスペンションはスポーツとコンフォートの切り替え機能を持つが、どこにセットしてもこの緩い感じは共通して見られた。
ロングだけの持ち味かとも思ったが、後に乗った標準ボディに18インチのバージョンUも基本的に同じだったので、日本仕様をドライバーズカーとして楽しむなら、ベストはバージョンSという思いを強くしたのである。
ところで、LS600hが世界のライバルに大きく差をつけるのが環境性能である。日本仕様の10・15モード燃費は12.2km/L、CO2排出量は190.3g/kmと発表された。欧州仕様の9.3L/100km、219g/kmよりもさらに良いのは計測方法の違いによるもの。いずれにせよ、これは通常のガソリン車に置き換えれば2L級。ディーゼルでも3L級に相当する数値である。
今回の試乗は、メインで試したステージが勾配の厳しいワインディングだったためアクセルを床まで踏む場面も多く、燃費計の数値は7km/Lに終始していた。しかし、標準ボディで2210kg、ロングでは2320kgにも及ぶ重量級ボディを俊敏に走らせてこの燃費は、同クラスのエンジンカーには望み得ないもの。この分なら日本の高速道路では二ケタ台も十分に期待できる。
また、海外の市場においてもトップエンドのFセグメント6L級は余剰性能を追求したモデルばかりで、環境性能を意識したものはない。その意味でもハイブリッドを擁するレクサスの優位性は当分揺るぎようがないと思われる。
しかし、開発陣は現状に満足しているわけではないようだ。CO2削減に対するレクサスの今後の展望を聞いたところ、即座に軽量化という答えが返ってきたのである。
確かにLS600hはLS460に較べ標準ボディで230kg、ロングでは340kgも重い。それを埋めてなおCO2排出量は格段に低く、動力性能は上なのだから存在意義は十分と思われるが、開発陣はもうその先を見据えている。そこでテーマとなるのが軽量化というわけだ。
特にハイブリッドシステムは、まだ大きな可能性を残している。バッテリーひとつ取っても現在のニッケル水素をリチウムイオンに置き換えられれば、容積を3分の1程度に抑えられる期待があるのだ。
もちろんモーターや駆動系のさらなる小型軽量化も考えられる。しかも開発陣は何パーセントというオーダーではなく、2分の1、3分の1といった大きな目標を持ってこれに取り組んでいるというのである。
もちろんレクサスは高級車だから、乗り味や静粛性も犠牲には出来ない。そうした快適性も進化させつつ、現在の自動車が直面しているCO2削減というシリアスなテーマに対峙するには、これくらい目標を高く置く必要があるのだろう。
このことを聞いて、僕はレクサスとトヨタのハイブリッド戦略の行く末が、さらに楽しみになった。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年7月号より)
レクサス LS600h 主要諸元
●全長×全幅×全高:5030×1875×1475mm
●ホイールベース:2970mm
●車両重量:2210kg
●エンジン:V8DOHC+モーター
●排気量:4969cc
●エンジン最高出力:394ps/6400rpm
●エンジン最大トルク:520Nm/4000rpm
●モーター最高出力:224ps
●モーター最大トルク:300Nm
●システム最高出力:327kW(445ps)
●トランスミッション:電気式無段変速
●駆動方式:4WD
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:6.3秒
●車両価格:970万円(2007年)
レクサス LS600hL 主要諸元
●全長×全幅×全高:5150×1875×1475mm
●ホイールベース:3090mm
●車両重量:2320kg
●エンジン:V8DOHC+モーター
●排気量:4969cc
●エンジン最高出力:394ps/6400rpm
●エンジン最大トルク:520Nm/4000rpm
●モーター最高出力:224ps
●モーター最大トルク:300Nm
●システム最高出力:327kW(445ps)
●トランスミッション:電気式無段変速
●駆動方式:4WD
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:6.3秒
●車両価格:1330万円(2007年)