2006年8月に久々に国内に導入されたディーゼルエンジンモデル、メルセデス・ベンツ E320 CDIは大きな反響を呼び、約半年で1000台の登録を記録している。レクサス/トヨタのハイブリッドに対して、メルセデス・ベンツは温暖化対策のひとつしてクリーンディーゼルを前面に押し出す形となったが、メルセデス・ベンツはとくに長距離高速走行での走りや燃費の良さを強調していた。そしてMotor Magazine誌は「エコラリー」に参加して東京→青森までのロングツーリングテストを敢行、その模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年7月号より)

ストップ&ゴーが少なく長距離走行が多い欧州ではディーゼルが有効

昨年2006年8月に日本市場にお目見えしたメルセデス・ベンツE320CDIが順調な売れ行きを見せている。約半年で1000台の登録があり、これはEクラス全体の15%に相当するという。ガソリンエンジンに較べ高コストと言われる新世代ディーゼルの体質を反映して価格が高めな上に、ディーゼルに対するイメージがかなり低かった日本の事情を考えれば、これはかなりの健闘と言って良いはずだ。

日本ではまだ限定的な展開のディーゼルモデルだが、メルセデス・ベンツはこれをCO2排出量抑制の当面の具体策とし、世界的に展開中だ。

その理由は簡単で、ディーゼルは熱効率に優れ、ガソリンエンジンよりも燃費が良い=CO2排出量が少ないという素養を持つからである。

ただし、クリアすべき問題もまだ多い。それは排出ガスのクリーン化。中でもNOx(窒素酸化物)は、大量の空気の中で軽油を燃やすディーゼルの特質上、排出が抑えにくい。となればハイブリッドなど他にも選択肢はあるだろうと、プリウスが身近な僕ら日本人は考える。

もちろん、それもメルセデスはやっている。GM、BMWなどと提携して独自の技術を開発中だ。しかし、欧米勢が本腰を入れ始めたのはここ数年。ハイブリッドにすでに10年の歴史を持つトヨタに追いつくには、相応の時間がかかると思われる。

それに、クルマが使われる環境もパワーユニットの選択を大きく左右する。日本は平均走行速度が低く、ストップ&ゴーが多い交通環境のためアイドリングストップやブレーキ回生で効率を上げるハイブリッドが有利だが、一度走り出すとなかなか止まらない欧州ではディーゼルの方がより現実的だったのだろう。

というわけで、メルセデス・ベンツにとって現状では「ディーゼル」が温暖化対策の要。そうした姿勢を日本でも打ち出し、新世代ディーゼルの優れたドライバビリティも味わってもらおうと導入されたのがE320CDIだが、残念ながらこのクルマは平成14年排出ガス規制、いわゆる新短期規制にしか適合していない。日本ではすでに17年規制(新長)が施行されているが、輸入車は2年の猶予があるので販売可能となったのだ。

しかしその猶予も年内には終わるので、早い時期に新長期規制に対応する必要があるし、その先の2009年にはポスト新長期という非常に厳しい規制も待ち受けている。これは日本だけの事情ではなく、北米はTier2 BIN5、欧州はユーロ5といった規制が存在する。

メルセデス・ベンツはそれらへの対応策もすでに持っていると考えられる。とりあえず日本の新長期に対してはNOx還元触媒でクリアし、ポスト新長期規制はブルーテックで対応するのが青写真のようだ。市場への提供がこのように段階的になるのは、それだけディーゼルのエミッション低減が難しい技術で、コストも相応に大きいからなのであろう。

ブルーテックとは、メルセデス・ベンツが掲げる新世代ディーゼル技術の総称。核となるのはすでにトラックで実績を積みつつある尿素を使ったNOx還元システムのほか、いくつかのSCR(Selective CatalyticReduction=選択触媒)のようだが、まだその技術がすべて詳らかになっているわけではない。とは言え、メルセデス・ベンツのみならずVW/アウディグループともアライアンスを組むのだから、十分な実現性があると考えて良いはずである。

画像: 3L V6DOHCディーゼルターボエンジン。エンジン回転数に応じてタービンへのノズル角度を制御する可変ジオメトリー式のVNT(バリアブル・ノズル・タービン)を採用。2個の酸化触媒が排出ガスを浄化し、DPF(粒子状物質除去フィルター)で微粒子(PM)の排出を大幅削減。

3L V6DOHCディーゼルターボエンジン。エンジン回転数に応じてタービンへのノズル角度を制御する可変ジオメトリー式のVNT(バリアブル・ノズル・タービン)を採用。2個の酸化触媒が排出ガスを浄化し、DPF(粒子状物質除去フィルター)で微粒子(PM)の排出を大幅削減。

意識すればするほど良くなっていく燃費

というわけで、現時点で日本で選べる唯一の新世代ディーゼルであるE320CDIに改めて乗ってみた。コースは東京から青森県八戸までの680km強。ダイムラー・クライスラー日本が理解を深めてもらおうと開催し、これで2回目となる「ニュークリーンディーゼルCDIエコラリー」に参加したのだ。

エコラリーという名前からもわかる通り、試乗は競技形式で燃費計測も行われる。したがってトップを狙うチームはいろいろ秘策を練っていたようだが、我々は燃費にとらわれ過ぎず普通に走ることに決めていた。つまり常識的な流れや法定速度を守り、エアコンも必要があれば使う。当日はあいにくの雨でウインドウが曇ることも多く、全行程の3分の1はエアコンをオンで走った。

加速を若干穏やかに心掛け、空いている道ではクルーズコントロールの力も借りる程度の経済運転で東北自動車道をゴールまで走って出た燃費は15.5km/L。トップチームはもっとゆっくり走って17km/L台中盤を記録していたようだが「意外に差は少ないなあ」という印象だ。

つまり特別エコランに徹しなくても、E320CDIは十分に高い燃費性能を有しているのである。それに、ディーゼル最大の魅力である太い低速トルクは、この走り方でも十分に味わえ心地良かった。太いトルクを持つため、E320CDIはアクセルにわずかに力を込めるだけでスルスルと速度を乗せる。踏み込み量に対して得られる加速がガソリンより桁外れに大きいので、レスポンスは鋭く、力強さをより長い時間楽しめる。昔のディーゼルは伸びのなさや振動/ノイズの大きさばかりが目立ったが、新世代のものは低速トルクという特質に磨きをかけることで、新しい魅力を持つに至ったのだ。

こうした走り味は新世代ディーゼルの本質であり、ブルーテックが導入され触媒がさらに追加されても大きく変わることはないだろう。日本人がしばらく遠ざかっていた間にディーゼルはこれだけ進化したという事実を、このE320CDIは体感させてくれる。僕はそれだけでも大きな存在意義があると捉えている。

気になるのは、車両価格が高くユーザーが限られることだが、それも価格を抑えた特別仕様E320CDIリミテッドが5月に導入されたり、今後は新型Cクラスへの設定が期待されるなど間口が広がって行くはず。

いずれにせよ、地球温暖化の現実的な対応策として欧州ディーゼルの動向には今後も注目していく必要がある。これは疑いようのない事実だ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年7月号より)

画像: 走行距離685kmのロングツーリングの結果は、平均速度90km/h、燃費15.5km/L。天候が雨、ウインドウが曇らない程度にエアコンを入れながらとしてはいい記録だ(と思う)。

走行距離685kmのロングツーリングの結果は、平均速度90km/h、燃費15.5km/L。天候が雨、ウインドウが曇らない程度にエアコンを入れながらとしてはいい記録だ(と思う)。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツ E320 CDI アバンギャルド 主要諸元

●全長×全幅×全高:4850×1820×1465mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:V6DOHCディーセルターボ
●排気量:2986cc
●最高出力:211ps/4000rpm
●最大トルク:540Nm/1600-2400rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:848万円(2007年)

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