魅力的な150台限定の特別仕様車
乗用車やSUVの「定番エンジン」ともいえるV6を持っていないメーカーがある。それはBMWとボルボだ。いったい何故なのか。答えは単純明快で、V6よりも直6の方が「ライバルに対して優位に立てる」と彼等は真剣に考えているからだ。
ご存知のとおりBMWは官能性と効率に優れた直6エンジンの名門。一方ボルボはここしばらくの間は直5エンジン(ターボまたは自然吸気)を主力としてきたが、新世代エンジンとして自然吸気の直6DOHC(3.2L)を新規に開発し、本国では、まずセダンのS80に搭載、そののちマイナーチェンジされた4輪駆動のXC90にも搭載して勝負に出た。XC90の上級グレードにはV8エンジンももちろんラインアップされるが、主力はこの直6モデルといっていい。
さて、5月の連休明けに北海道の北端、稚内でXC90 3.2スポーツの試乗会が開かれた。この「スポーツ」とは標準の3.2(7人乗り)をベースとした限定150台のみのスペシャル版である。
ノーマルとの違いは、エクステリアではサテンシルバー仕上げのフレームにブラックアウトされた格子グリル、シルバーのバンパー、ブラッシュアルミのルーフレールとウインドーフレームなどが装備されていること。クロームメッキでなく、マット(艶消し)仕上げのためとても落ち着いた感じで好ましい。XC90はもともとが威圧的なスタイリングではなく、どこか温和な表情のSUV。なのでこれらのデコレーションとほどよくバランスがとれている。
インテリアでは専用のスポーツシートが出色。たっぷりしたサイズでホールド性、着座感ともに申し分ない。「スポーツ」を標榜するアーキテクチャーとしては、専用のスポーツサスペンションと、これも専用にセッティングされた速度感応式のパワーステアリングを装備し、タイヤは255/50R19(ピレリPゼロロッソ)を履く。
試乗コースは稚内を起点としたサロベツ原野と宗谷岬周辺。走り出すと全幅が1.9mを超えるサイズはさすがに大きさを感じるが、横置きエンジンの恩恵によるフォワードキャビン(客室が前方に伸ばせる)と高い着座位置のため視界のストレスは少ない。またフェンダーに設けられた補助ミラーがバンパー左先端を映し出すので、うっかりゴリゴリということもない。信号がほとんどなく、対向車も少ないなだらかな起伏のある直線路、あるいはゆるいコーナーは、なんだかボルボの生まれ故郷のスウェーデンの道路のようでもある。
スポーツサスペンション、おまけに19インチのファットなタイヤと聞いていたから、街中ではゴツゴツ硬かろうと覚悟していたのだが、それは杞憂だった。昨年スウェーデンの国際試乗会で乗ったノーマル(17インチタイヤ)とほとんど変らない乗り心地で、むしろ不整路での収まりは、この「スポーツ」の方が上で、より快適であるといってさしつかえない。エンジンは直6らしく回るが、BMWのそれとはややニュアンスが異なる。官能性は乏しいが、とても実直に回る、といえばいいか。
XC90は2トンを超える車体重量ながら決して動きは鈍重ではない。それはマニュアルモード付きの6速ATによるところも大きい。ギアをセレクトし、あたかもマニュアルトランスミッションのスポーツセダンのような走らせ方も可能である。
下の俯瞰写真をご覧いただきたい。エンジンはベイの中間に直6が収まっているが、エンジンブロック前側、後ろ側に大きなスペースがあるのがわかる。前方衝突の際、この2つのゾーンで衝撃を吸収するのだ。ゆえに「安全」を謳うボルボはあえて横置きの直6にこだわったわけである。しいて難点をあげれば、そのレイアウトをとったため、前輪の切れ角が大きくとれず、最小回転半径は6.4m。狭い道では切り返しが必要となるシーンが多いことくらいだ。(文:御田昌輝/Motor Magazine 2007年7月号より)
ボルボXC90 3.2スポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4810×1935×1780mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2150kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3192cc
●最高出力:238ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:698万円(2007年)