ポルシェ博士のアイデアを満載した水陸両用ワーゲン
この連載で、以前に第二次世界大戦(以下、WW2)初期に初の量産小型軍用車として成功したドイツのキューベルワーゲン(以下、キューベル)を紹介したのを覚えている読者諸氏も多いだろう。そのシンプルで汎用性に富むメカニズムは、戦後に至っても多くの派生車を生んだが、今回はその直系であるシュビムワーゲンを紹介しよう。
WW2初頭こそ、ドイツ軍は戦線を北アフリカまで拡大していたが、侵略に失敗すると、旧ソ連に面したヨーロッパ北東部が主戦場となっていった。しかし欧州北東部の戦線は河川や沼地が多く、冷たい泥濘地が陸軍最大の敵ともいえた。
そこで小型多用途軍用車であるキューベルの水陸両用化は早くから企画され、1940年秋にはタイプ128が試作量産され、前線の要求により小型化し1942年春から量産開始されたのが、ワーゲン・タイプ166だ。この小さくカエルのような外観のワーゲンは、ドイツ語の「泳ぐ(スイム)自動車」からシュビムワーゲン(以下、シュビム)と呼ばれた。
元々、RRの駆動方式とトーションバー サスペンションという、独特な設計のため車体下面が平板状で開口穴が少ないキューベルだったが、シュビムでは本格的な水上走行用に車体はフルモノコック構造のバスタブ型となり、当然4枚のドアや車体後部側面のエンジンカバー等も廃止し、車体ショルダー部まで継目のほとんどないボート形状になっている。
車体後部まで丸みを持たせ、最後部に水上推進用のスクリュープロペラが装備されている。倒立した扇風機に似たプロペラは跳ね上げ式で、降ろすと露出したクランクシャフトにドグクラッチで噛み合う簡単な構造だ。クランクシャフトからの動力は、チェーンドライブ(3連)でさらに下降し水中でプロペラが回転する。万が一、プロペラに異物が挟まった場合は、プロペラ軸にドグクラッチとバネが仕組まれ、異常時にクランクシャフトに影響がないよう空転する仕掛けになっている。水上推進ユニットは車体上部、排気管の並びにあるロッド(単なるフック付きの棒)に引っ掛けて、後席から乗車したまま上げ下げできるといった、いかにもドイツ的な簡便だが良くできた構造だ。
もうひとつの大きな進化は、駆動方式が2WDから4WD化されたことだ。4WDというとアメリカ軍のジープを意識したと思われそうだが、ジープの前線配備時期はシュビムとほぼ同期なので、シュビムがジープに影響される時差はない。水上走行から陸に揚がるには、後輪駆動の2WDでは無理なため「前足」が必要になる。つまり必要の結果として4WDになった。4WD化に伴い、ポルシェタイプのLSDも前後に2機備わっている。走行装置と車体の大きな進化による車重増に対応し、エンジンはVWのフラット4に変わりないが、1.13L/25psに強化された。このエンジンはキューベルの後期型にも搭載された。
水陸両用化で、吸排気は車体上部。冷却口は車内に設けられ、燃料タンクは25Lずつボンネット内の左右に振り分けられるなど、キューベルとの違いはあるが、立派な4座席(キューベルより乗り心地は硬い)と木製スノコの床面、銃架と弾倉ラック、オールなど、隅々まで贅沢に仕立てられている。シュビムが優れているのは、水陸両用+4WDでありながら走行装置がすべてボディに内装され、車体下面が極めて平滑なことだ。これによりロードクリアランスが大きく、910kgの軽い車重と相まって、非常に高い不整地走破性を発揮した。
1944年8月、空襲により工場が壊滅したため、水陸両用車の傑作シュビムはわずか1万4000台強しか生産されなかったのが惜しまれる。(文 & Photo CG:MazKen/取材協力:株式会社カマド、安田 誠)
■シュビムワーゲン Typ166 主要諸元
全長×全幅:3.825×1.48m
最低地上高:240mm
車体重量:910kg
積載重量:450kg
エンジン:空冷 水平対向4気筒・OHV
排気量:1130cc
最高出力:25ps/3000rpm
駆動方式:パートタイム式4WD(ポルシェ式LSD×2)
最高速度:陸上で80km/h、水上で10km/h