セダン、エステート、SUV、クーぺカブリオレに続く5つめのボルボ
ボルボは現状に満足はしていなかった。ブランドが持つ安全性や信頼性は十分に認知され、XC90は本格的SUVとして成功モデルとなり、V70は相変わらずファミリーユーザーに圧倒的な支持を得ている。C70だって好評なのだが……ボルボオーナーの平均年齢は46歳になっているという。
市場は常に変化し、クルマに求められる価値観は多様化し、ユーザーの選択肢も広がっている。しかし、現在のラインアップはそれを満足させることはできるのだろうか? という悩みも併せて持っていた。そんな現状や悩みを解決すべく企画されたのが、セダン、エステート、SUV、クーぺカブリオレに続く5つめのボルボ、つまりこのC30なのだ。
その役割は、1 エントリーオファーを受け入れる、2 ブランドに若々しさを加え若い世代を誘引する、3 長期目標達成に向け販売台数増加を牽引できる、4 全体のCO2削減目標に貢献できる小さいクルマ。これはボルボの新しいセグメントへの挑戦でもあった。
C30のCはクーペ&カブリオレ。つまりC70と同じCラインとなり、2+2の4シーターを持つスペシャリティカー。そして、アイコンとも言えるガラスハッチは、1971年のP1800ESのテールデザインを継承し、系譜としては1985年に発売されたボルボ初の前輪駆動480とつながる。また、全体のエッセンスは、コンセプトカーSCCの流れを汲んでいる。
プラットフォームはS40/V50と同じものを使用しているので、S40とホイールベース、前後トレッドはまったく同じながら、全長でマイナス220mm、全幅+10mmとなっているのが特徴的だ。
ボルボらしさは、乗り込んだ瞬間から誰もが感じることだろう。明らかにこのセグメントとしてはシートが大きく、ゆったりしている。これはボルボの良き伝統なのだ。さらにリアシートもセンターに寄せるレイアウトにより大きくボリュームあるシートが採用されている。二人乗りに割り切ったと感じていたC30だが、これなら大人4人が十分に乗ることができるだろう。
日本に導入されるエンジンは2種類。自然吸気の2.4Lとターボ付きの2.5LのT-5。本国では1.6Lから用意されるが、日本にはそのラインアップのなかでもっともスポーティなT-5を導入したことにボルボの意気込みが感じられる。
エンジンは横置きされ、衝突時にはエンジンルーム内でエンジンが移動するのに十分なスペースを確保する。これにより前面衝突時にエンジンがキャビン内に侵入するリスクを軽減する大きな効果を発揮し、バルクヘッド近くの強固なクロスメンバーが、その衝撃を受け止める設計となっている。
同じホイールベースを持つS40よりも回頭性がいい
試乗したのは、ボディカラーがオリノコブルーパール、インテリアがテキスタイルブルーという組み合わせの自然吸気の2.4Lエンジン搭載車。ボルボらしさという意味では、この熟成された直5エンジンもそうだろう。それほどパワーがあるわけではないが、低回転からのトルクが出ているので街中での扱いやすさは特筆ものだ。乗り味は、S40/V50よりも軽快で回頭性もいい。これはC30の方が全長が短いことが大きな要因なのだろう。また1420kgという車両重量も軽快感にひと役買っているようだ。
C30の強烈なリアスタイルのインパクト同様に驚かされたことがある。それは後方視界の良さだ。これはガラスハッチの位置が低く設定されていることが大きい。あまりに良すぎて唯一視界を遮るリアのヘッドレストの大きさが気になるぐらいだ。
日本市場でのライバルは、好調なセールスを続けるMINIだと思う。ボルボが狙うターゲットユーザーも同じはず。しかしこの2車をあらためて比較すると、サイズ的には大きく違うことに気が付く。MINIに較べて全長が+550mm、全幅+95mm、全高は同じ。ホイールベースは+175mmとC30の方が長く幅広い。車両重量も190kg重い。排気量は違うが、MINIクーパーの6速ATが264万円、C30Aktivが285万円と価格帯も近く、同じ土俵上にいる。
さすがにターボ付きは排気量差が大きく、クーパーSの6速ATが308万円、T-5が387万円とその価格差は大きい。C30が本当にMINIのマーケットを狙っているなら価格はもう少し戦略的なものにした方がいい。
ただし、サイズ的にはVWゴルフに近い。GT TSIと比較するとC30の方が全長+25mm、全幅+20mm、全高マイナス70mmとなる。また最高出力は両車とも170psと同じだが価格はGT TSIの305万円に対してC30の2.4i SEは348万円となり、40万円ほど高額となるが、C30にはドアが2枚しかないので、同じ土俵に上がることはないのかもしれない。
ボルボは、このC30の導入により、ボルボ車は自分のライフスタイルとは無縁だと思っていたユーザーへも訴求し、さらにオーナーの平均年齢も40歳まで引き下げることを目論んでいる。
日本勢は苦戦を強いられているが、ゴルフやMINIを中心に魅力的なラインアップが揃うハッチバックモデル市場は、ボルボの参入で新展開を見せることになるかもしれない。(文:千葉知充/Motor Magazine 2007年9月号より)
ボルボC30 2.4i Aktiv 主要諸元
●全長×全幅×全高:4250×1780×1430mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1420kg
●エンジン:直5DOHC
●排気量:2434cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:230Nm/4400rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:285万円(2007年)
ボルボC30 2.4i SE 主要諸元
●全長×全幅×全高:4250×1780×1430mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1420kg
●エンジン:直5DOHC
●排気量:2434cc
●最高出力:170s/6000rpm
●最大トルク:230Nm/4400rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:348万円(2007年)
ボルボC30 2.5T-5 主要諸元
●全長×全幅×全高:4250×1780×1430mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:V6DOHCターボ
●排気量:2521cc
●最高出力:230s/5000rpm
●最大トルク:320Nm/1500-5000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:387万円(2007年)