2007年秋、フランクフルトモーターショーでのBMWの注目モデルは1シリーズクーペだった。世界的に人気を集めていた1シリーズのクーぺバージョンは、どんな個性を持っていたのか。ここではMotor Magazine誌のドイツ大特集の中から、デンマークとスウェーデンを舞台に行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年12月号より)

2002シリーズを意識したクラシックな佇まい

もともとコンパクトカーというものは、キャビンの広さに始まる実用性が命、また数を売らなければならないので、デザインは万人向けでコンサバ、さらに価格を抑えるためもあって、前輪駆動を採用するのが、これまでの常識であった。

しかし、BMW1シリーズはゴルフより35mm長いだけの小さなボディで後輪駆動、さらに好き嫌いのはっきりしたデザインを採用、また価格はエントリーモデルの116iでも、ドイツでは2万ユーロを超えている(ゴルフは同じ排気量でも1万8000ユーロ台、この事情は日本でも同じで116iは295万円、ゴルフEは242万円で53万円もの差がある)。

それにもかかわらずこのエントリーBMWは、2004年の発売以来、予想を超えるほど好調で、今年春には3ドアを加え、世界マーケットに合計で実に45万7000台あまりを送り出している。BMWは自ら「プレミアムな製品とは他人の真似をしないこと」と明言しており、これが1シリーズにも当てはまり、成功の一つの要因となったのである。そしてBMWはこの1シリーズをプレミアムとして際立たせるために、さらにユニークなモデルを追加した。それがここに紹介するクーペバージョンである。

今年のフランクフルトモーターショーで初公開された1シリーズクーペは、基本的にはウエストラインから下はハッチバックと共通で、その上にノッチバックのクーペルーフをかぶせたものだが、意外なほど印象が変わっている。とくにリアエンドが12cmも伸びた結果、クラシックな佇まいになった。

BMWはこのトランクの延長について、リアエンドの造形が変わったためと言っているが、おそらくその他に理由があるはずだ。それはつい先日その存在が公式に発表された1シリーズカブリオレで、そのソフトトップ収納スペースに影響されたためではないかと推測できる。

さらにこのデザインでは、ウエストのプレスラインがリアエンドにまで回り込み、独特の雰囲気を強調しているのだが、これは70年代にヨーロッパやアメリカでヒットした「2002シリーズ」を意識したものであるという。

加えてBMWはこれまで1シリーズを北米には輸出していなかったが、このクーペで初めてアメリカ進出を図っている。そのため改めてスモールBMWに対するマーケットリサーチを行った結果、30年も前に人気を博した2002が意外にもアメリカ人の心を捉えていたことがわかったのである。

かつてアメリカのデザインワークス(BMWのデザインを行う子会社)の社長を務めていた現BMWのデザインディレクターであるエイドリアン・ファン・ホーイドンは「単なるノスタルジーではなく、過去の遺産に対する新しい解釈で、エンスージアスティックな北米のBMWユーザーをターゲットにしている」と語ってくれた。

ところでこの1シリーズクーペの発表試乗会だが、10月半ばとしては珍しく北ヨーロッパで開催された。正確には、まずデンマークのコペンハーゲンでプレスコンファレンスが行われ、翌朝には飛行機でスウェーデン領のゴットランド島にある町、ヴィスビー(VISBY)へ向かった。ちなみにこの12から14世紀に栄えた町はユネスコ遺産であり、日本では宮崎駿のアニメ映画「魔女の宅急便」に登場するコリコという町のモデルになった所として知られる。

話が少々それたが、試乗コースはこの島をほぼ半周する合計200kmほどの一般道と、そのほぼ3分の2の地点にあるゴットランドサーキットでのスポーツ走行を含んだものである。

ヴィスビー空港に並んだ1シリーズクーペだが、前日公開されたシングルターボの177ps2Lディーゼルエンジンを搭載する120dとツインターボの204psを搭載した123dの姿はなく、すべてがメタリックダークオレンジの135iであった。

さらに正確に言えばこれらのモデルはすべて「M仕様」で、ボディ関係ではオリジナルのMスポイラーを始めとするドレスアップパーツと、およそ15mmローダウンしたスポーツサスペンションが装着されていた。また135iの標準装備品として、フロントに215/40R18、そしてリアには245/35R18サイズのタイヤが軽合金ホイールとそれぞれ組み合わされている。

一方、インテリアはスタンダード1シリーズとほとんど変わらず、BMW流にあっさりとしている。ドライバー正面のナセル内の左側に280km/hまでのスピードメーター、その右隣には7000rpmから8000rpmまでがレッドゾーンのタコメーターが並んでいる。またスピードメーター内には燃量計、そしてタコメーターには油温計がそれぞれ組み込まれている。

画像: 試乗できたのは135iクーぺ。超高性能でありながら、ゆったりも走れる。非常に懐が深いモデルと言える。

試乗できたのは135iクーぺ。超高性能でありながら、ゆったりも走れる。非常に懐が深いモデルと言える。

1シリーズの中で最良の乗り心地を提供

キーユニットをステアリングホイール右にあるスロットに押し込み、その上にあるスタート ストップ ボタンに軽くタッチするだけで、前方から軽い震動がまるでタコメーターの針を促すかのように伝わってくる。

改めて紹介するまでもないが、この135iに搭載されているエンジンは2979cc直列6気筒ツインターボで、最高出力306ps/5800rpm、最大トルクは1300rpmから5000rpmの間で400Nmを発生する。すなわち3シリーズのトップモデルである335iと同じチューンのパワープラントを搭載している。

ただしこの135iの重量は1560kgと、335iクーペよりも40kg軽いのでパワーウエイトレシオはおよそ5.1kg/psとポルシェ ケイマン(5.6kg/ps)を凌いでいる。その結果、BMWのプレスキットによれば、標準の6速MTを装備した135iクーペの0→100km/h加速は5.3秒で、これはポルシェケイマンS(5.4秒)よりも速い。最高速度は260km/h以上のポテンシャルがあるにもかかわらず、残念ながら250km/hでリミッターが作動してしまう。

空港の敷地を出て一般道路へ出る。ゴットランド島の速度規制は郊外の一般道路で70km/hか90km/h、また町に入ると50km/h、そしてハイウェイでも時速110km/hで、とても厳しく監視されており、罰金も10km/hオーバーでおよそ150ユーロ(2万5000円)からと非常に高い。その結果、この島の交通の全体の流れは日本の郊外と大きく違わない。ただし交通量は極端に少ないので、6速およそ1800rpmで80km/hを保って非常にスムーズに走れる。また町に入っても、6速のままで50km/hに落としてもエンジン回転数は1000rpmを保って普通に走ることができる。

また、もちろんそのまま加速も可能である。さらにハイウェイでは100km/hでも2000rpmをわずかに超えた付近でクルージングが可能である。またステアリングコラム左側から生えたレバーを使って、オプションのオートクルーズコントロールをセットすれば、前車との設定車間を保ちながらストレスフリーなクルーズが可能である。

ところで快適と言えば、この135iクーペには他のBMWモデル同様にランフラットタイヤが標準装着されている。このタイヤはパンクなどで空気圧が低下した際に、クルマを支えるためにサイドウォールが頑丈で硬いために、通常、乗り心地はスタンダードタイヤと比べると硬いと感じる。しかも悪いことには、この島の路面は必ずしも完璧というものではなく、舗装が割れた個所も多かった。しかしBSポテンザのランフラットタイヤを装着したテスト車の乗り心地は、これまでにテストした1シリーズの中で最良のものであった。それは継ぎ目や穴などによるショックの吸収、そして悪路からのロードノイズも含めてだ。

さて、いよいよこのテストのハイライトであるゴットランドリンクにおけるスポーツ走行である。全長およそ7kmのコースの一部を使ってのハンドリングテストだが、ここで135iクーペは、まさに水を得た魚という言葉がピッタリの挙動を見せてくれた。

すでに述べたように、ポルシェケイマンやボクスター並みのパワーウエイトレシオを与えられた135iクーペは、まずストレートを猛然とダッシュして、シケイン風のコーナーに飛び込む直前でフルブレーキ。フロント338mm×26mm、リア324mm×22mmのベンチレーテッドディスクブレーキは、難なくスピード落とし、楽なコーナー進入を許してくれる。

前後50対50の理想的なバランスのために、コーナーではニュートラル、さらにタイヤがきちんと接地しており、非常に安定して、まさにスロットルとステアリングの駆け引きを楽しむことができる。ここでやや気になったのは、ロック・トゥ・ロックが3回転のややスローなステアリング、DTCをオフにした状態でタイトなコーナーに飛び込むとテールが派手に流れ出すが、その時に忙しくてステアリングを思わず「おくって」しまう。すると次のコーナーで前輪がどっちを向いているのかが読み難くなってしまう。また、シフトレバーは短くて良いのだが、おそらくジョイントが奥にあるためか、シフトストロークがやや長めで、スポーティな操作系とは言い難い。まあ、いずれも本当は腕が良ければ、あまり問題がないのかもしれないが、ノービスとしては改善して欲しい。

この135iクーペは、まずドイツで11月24日から発売が開始され、その後ヨーロッパ各国へデリバリーが広がる。ちなみにドイツでの価格は135iが3万8950ユーロ(約643万円:19%付加価値税込)で、これにナビやオートACなどのオプションを装備すると、すぐに4万5000ユーロ(約743万円)に達してしまう。

ただし、これらの国々へはすべてがマニュアルで、来年の春からようやく北米や日本向けに6速オートマチックが準備され輸出も開始される。

噂ではSMG(シーケンシャルトランスミッション)に代わって、ツーペダル、いわゆるツインクラッチのセミオートマチックトランスミッションが間もなくオプションリストに載るといわれているが、今回の試乗会に現れたBMWのエンジニアたちはそのテーマについては口を噤んでいた。(文:木村好宏/Motor Magazine 2007年12月号より)

画像: 135iクーぺ。iDriveはオプション設定。装着しない場合はダッシュボード上のTFTディスプレイの代わりに収納ボックスを付けることができる。

135iクーぺ。iDriveはオプション設定。装着しない場合はダッシュボード上のTFTディスプレイの代わりに収納ボックスを付けることができる。

ヒットの法則

BMW 135i クーぺ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4360×1748×1408mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1560kg(EU)
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●最高速:250km/h
●0→100km/h加速:5.3秒
※欧州仕様

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