2008年、クロスポロに続くクロスシリーズの第2弾となるクロスゴルフが500台限定で日本上陸を果たした。ベースはゴルフではなく、ゴルフプラス。またパワートレーンは最新の1.4TSIエンジンで魅力的。Motor Magazine誌ではゴルフTSI コンフォートラインとともに試乗、その違い、魅力を探った。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年3月号より)

500台の限定モデルとして追加

2007年も日本での輸入車セールストップの地位を守ったフォルクスワーゲン。このブランドの魅力は真面目さに裏打ちされた「良いもの感」にあると僕は捉えている。

例えばクルマの細部の作り。ドアヒンジに鋳造部品を多用して、いかにも堅牢で精度の高い開閉感を実現しているところなどは、初めてフォルクスワーゲンに触れる人にも「ドイツ車らしさ」を感じさせるポイントだろう。

時代の要請に革新的技術で応えるあたりも真面目だ。ガソリンエンジンの主軸に、小排気量と過給器を組み合わせたTSIを据えたのは2007年の大きなニュースだったが、実際に乗ってみてもパワフルな上に、高速巡航での燃費の伸びにそのメリットをしっかり感じさせてくれた。

ツインチャージシステムやDSGなど、従来の物に比べれば相応に高コストとなるはずのこうしたパワートレーンを、必要とあれば短期間の内にメインに据えてしまう。そこには、ディーゼルの不在やハイエンドモデルのみが導入されるという日本固有の事情もあるのだろうが、それだけにフォルクスワーゲンの今の姿勢が浮き彫りになっているとも言えるはずだ。

パッケージングの良さも常に感心させられる部分だ。中核車種のゴルフは登場当初はサイズアップを懸念する声も多かったが、今となれば歴代同様に、扱いやすさと居住性、積載性を現在のCセグメントのサイズ感の中でバランスよく成立させた、お手本的なパッケージングとなった感が強い。

このように、クルマをどこで斬っても真面目一徹さがうかがえるフォルクスワーゲンだが、時折洒落っ気のあるモデルを登場させる。今回ゴルフシリーズに500台の限定モデルとして追加されたクロスゴルフも、そんな中の一台と捉えていいだろう。

画像: ゴルフプラスではよく理解できなかったことが、アウトドアを意識したクロスゴルフで「なるほど」と納得できたりするから不思議。ゴルフとの違いには理由がある。

ゴルフプラスではよく理解できなかったことが、アウトドアを意識したクロスゴルフで「なるほど」と納得できたりするから不思議。ゴルフとの違いには理由がある。

駆動方式はFFのままクロスオーバー風に

クロスゴルフは先に登場したクロスポロ同様、駆動方式はFFのまま、外観をプロテクターやクラディングパネルで覆ってクロスオーバー風に仕立てたクルマ。基本性能はゴルフそのもののいわゆる「雰囲気SUV」だが、フォルクスワーゲンが開発すると普段は寡黙なマジメ人間がポロリとつぶやいたジョークのようでどこか微笑ましい。

注目したいのはベースとなったのがゴルフそのものではなく、真面目一徹のパッケージングを少しいじって登場したゴルフプラスであることだ。

全長×全幅は本家ゴルフと同一ながら、全高を85mmかさ上げしたのがゴルフプラスというクルマの成り立ち。言葉にすると簡単だが、全高のアップはカウルトップの位置を上げ、それに伴ってボンネットフードの傾斜も急になるなど全体をまったく新しいデザインとすることで実現させている。そのためにフォルクスワーゲンは、ボディ外板からライトなどの艤装部品までを新作する手間を掛けているのだ。

ボンネットフードの後端に樹脂製の整流版のようなパーツを装着し、大きなフロントウインドウに対応して交差型のエアロワイパーに変更しているというこだわりようだ。

そうまでしてフォルクスワーゲンが表現したかったのは、ハッチバック車のさらなるユーティリティ向上だ。実際ゴルフプラスに乗ってみると、フロントで75mm、リアで85mmそれぞれ上がったシートハイトにより、腰の上下移動量の少ない軽快な乗降性が実現されていることに気づく。フロントウインドウ越しの景色もゴルフとは異なり、室内空間の上下方向の余裕を活かしてよりアップライトなポジションを取らせるため見晴らしがいいし、リアシートは左右6:4のセパレート式で前後に160mmものスライド機構を実現した。

このリアシートは、リアモーストでは足下空間が広大で足が組めるほどの余裕があるし、フロントモーストでもアップライト化によりレッグルームに深さがあるため実用に耐える。

このように、全高85mm拡大により、通常のゴルフにない機能を付け加えることに成功したゴルフプラスだが、欧州では街で見かける機会も相応に多いものの、日本での売れ行きはあまり伸びていないのが現状のようである。

やはり本家ゴルフの存在があまりに大き過ぎたと考えるのが順当なところなのだろうが、ゴルフプラス自身にも問題はある。ひとつは全体から漂う雰囲気があまりにもゴルフそのものであること。異なった機能を備えるモデルなのに、外観にそれが一目でわかるキャッチーな部分に乏しい。これだとエントリーユーザーは手堅くゴルフを選びたくなるに違いない。

また、ミニバン的な使い勝手を持つトゥーランが登場していたことも、ゴルフプラスにとっては不利に作用したと思う。広さや多彩なシートアレンジといった機能は、パッケージングを根本から見直して作られたトゥーランにはやはり敵わない。これは事実である。

そうした逆境に置かれたせいか、日本でのゴルフプラスはこれまで最新のTSIエンジンの搭載もなく、EとGLiの2つのグレードで展開するにとどまっている。したがって今回のクロスゴルフの登場は、ゴルフプラス久々のビッグニュースなのである。

画像: クロスゴルフ。トールサイズのゴルフとして誕生したゴルフプラスをベースに開発された。専用サスにより最低地上高は15mm高められ、さらにルーフレールを装着、車高は50mm高の1655mmに。

クロスゴルフ。トールサイズのゴルフとして誕生したゴルフプラスをベースに開発された。専用サスにより最低地上高は15mm高められ、さらにルーフレールを装着、車高は50mm高の1655mmに。

見事な仕上がりのインディビデュアル製

まずは外装から観察して行こう。ボディサイズは全長4240mm×全幅1775mm×全高1655mm。ゴルフプラスに対しそれぞれ若干のサイズアップとなっているが、前後方向はオーバーライダー、幅はフェンダーを縁取るクラディングパネル、高さはルーフレールの追加によるものだ。

こうした一連のドレスアップは、特別仕様を作る専門部署のVWインディビデュアルが担当しているが、さすがにそのフィニッシュは見事。後付け感は微塵もないし、バンパーや足下などボディ下側のボリュームが増したことで、ゴルフプラスにつきまといがちだった腰高感もなくなった。最初からこれくらい標準のゴルフと差別化できていれば、もっと注目度があがったのにと思わずにはいられない。

室内は、インテリアの基本形状はゴルフプラスと同じであるものの、格段に華やかな空間となっていた。

まず、シートやドアトリムにアイスシルバーと呼ばれる、ブルーグリーンのような独特の色合いのクロスが使われている。内装の基調色となっているグレーとのコントラストがお洒落でいい雰囲気だ。ちなみに限定500台の内訳は、ブルーグラファイトパールエフェクトという紺に近いボディカラーが200台、取材車のアイスシルバーメタリックが300台だが、両者ともインテリアはこの仕様になる。

センターコンソールや左右の空調アウトレットにシルバーの加飾が施され、ペダルにもアルミ調の素材が使われたのも見過ごせないポイント。ステアリングは専用デザインの3本スポークで、ディンプル加工された本革巻きのため握った感触も非常にいい。

シート機能はゴルフプラスと基本的に同じ。リアシートはスライド機能に加え、背もたれを前倒しすると座面も同時に沈み込むフォールダウン機構を備えておりワンタッチでフラット化できる。畳んだ状態で多少床に傾斜が残るものの、ゴルフを上回る収納力を手にできるのはゴルフプラスとこのクロスゴルフの大きな魅力だ。しかも助手席もバックレストの水平前倒しが可能なので、かなりの長尺物も余裕を持って積み込むことができる。

着座感で標準のゴルフと違いが見られるのはリアシート。フロントよりも一段高い位置に座らせられるため見晴らしがとてもいいのだ。ただ、ヘッドクリアランスは小さめ。大柄な人だと頭まわりに圧迫感があるかも知れない。

画像: 明るい色調のクロスゴルフのインテリア。ステアリングはディンプル加工のレザー、フットペダルはアルミ調。丸をモチーフとしたエアコン吹き出し口やアルミパネルがカジュアルな雰囲気を作り出す。

明るい色調のクロスゴルフのインテリア。ステアリングはディンプル加工のレザー、フットペダルはアルミ調。丸をモチーフとしたエアコン吹き出し口やアルミパネルがカジュアルな雰囲気を作り出す。

着実に進化を続けるTSIエンジン

エンジンは1.4TSIが採用された。ゴルフGT TSIに搭載される170ps仕様ではなく、すでにトゥーランに積まれ、最近ゴルフのTSIコンフォートラインにも採用された140ps仕様の方だ。

既存のゴルフプラスGLiと比べると10psのダウンとなるが、トルクは22.4kgmと2kgmも強化されており、動力性能は向上したという実感の方が強い。特にスタートダッシュの鋭さが印象的。GLiの2.0FSIも実用域で力強く扱いやすかったが、それよりさらにパンチがあり軽快だ。ただ、トルクの立ち上がりがやや唐突で、発進時にアクセルを深く踏み込むと前輪が軽くホイールスピンを起こすクセはまだ少し残っている。

もっともこれは、同時に試したゴルフのTSIコンフォートラインにも言えることだ。アイドリングに近い領域からスーパーチャージャーの過給を受けるだけに、そのマネージメントが相当に難しそうなTSIだが、DSGの制御も含め着実にアップデートされているようで、もはや粗さと感じられるようなことはない。今回感じられた軽いホイールスピンも、元気の良いFF車にありがちな刺激のようなもので、走りの質感を落とすことにはなっていない。

クロスゴルフに搭載されたのが140psのTSIだったので、ゴルフGT TSIやトゥーランのハイラインに積まれる170ps仕様との差を気にする向きもあるだろうが、両者で異なるのは主に中高回転域のトルクの盛り上がりと後伸びだ。低速域の力強さは140psも170psも大差ないため十二分に軽快。正直なところ、一度この140psを味わってしまうと、これ以上は必要ないと思えるほどなのである。

スポーティな走りを望むならGTIという選択肢があるわけで、従来のGLiにかわるエンジンとして実用性に秀でたこの140ps仕様の搭載が拡大されたことにより、170psの存在がやや中途半端になってしまうのではないかとの危惧さえ感じられる。それほどにこの140ps仕様は魅力的。特にゴルフのTSIコンフォートラインは正確なフットワークは維持しつつ、乗り心地がマイルドな標準仕様の足まわりと組み合わされるからなおさらだ。

ただしクロスゴルフは精悍なスタイリングとのバランスを考えたのか225/45R17とやや大きめのタイヤを履いているため、195/65R15のTSIコンフォートラインとは乗り味がやや違っている。剛性の高いタイヤを履いたせいで路面からの入力が強く、パタパタとした振動を感じさせるのだ。

一方でサスペンションはさほど締め上げていないため、コーナリングでのアクションは大きめに出る。つまり操縦性はさほどシャープではなく、おっとりとしたコンフォートライン寄りなのに、乗り心地だけが硬めなのだ。これはちょっと残念に感じられた。限定車なので細かい仕様設定ができないのかもしれないが、理想は15インチを標準にしておいて、17インチはオプションで選択できる方がクロスゴルフの性格には合っていると思う。

いくつか細かい指摘もしてしまったが、このクロスゴルフの登場で、今まで見過ごされがちがったゴルフプラスのパッケージが再び注目されるのは間違いない。可能であれば限定と言わず、カタログモデルに昇格させて欲しいものだ。

いささか真面目過ぎるゴルフのラインアップに、一台くらいこうしたスタイル重視のモデルがあってもいい。そう思えるのも、クロスゴルフもまた、他のゴルフシリーズと共通の質感や作り込みの良さがはっきりと確認できるクルマだからだ。やはりフォルクスワーゲンはどこまでも真面目一徹なのである。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2008年3月号より)

画像: クロスゴルフ(右)とゴルフTSI コンフォートライン。エンジンはともに140ps 1.4TSIを搭載。

クロスゴルフ(右)とゴルフTSI コンフォートライン。エンジンはともに140ps 1.4TSIを搭載。

ヒットの法則

フォルクスワーゲン クロスゴルフ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1775×1655mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1490kg
●エンジン:直4DOHCツインチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:140ps/5600rpm
●最大トルク:220Nm/1500-4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●車両価格:309万円(2007年)

フォルクスワーゲン ゴルフTSI コンフォートライン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4205×1760×1520mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1390kg
●エンジン:直4DOHCツインチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:140ps/5600rpm
●最大トルク:220Nm/1500-4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●車両価格:289万円(2007年)

This article is a sponsored article by
''.